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第9話 私は公爵令嬢ではありませんっ!!
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「そうですっ!! 彼はこの国の第3王子様ですっ!! そして私は婚約者のクライスト公爵令嬢なんですっ!! だから手を出すのは止めて下さいっ!!」
わざと砕けた口調を使い、声音も変えた。
とはいっても少し高い声にして下ったらずな調子にしてみただけだったが、効果はあったようだ。
「「――は?」」
男達はこちらを呆けたように見た後笑い出した。
「はははっ!! こりゃあいいやっ、この国の王子様に公爵令嬢と来たもんだっ!! 身代金ががっぽり取れるぜっ!!」
どう見てもこちらの発言を本気にしていないようだった。
(狙い通りだわ)
確かにこんなところに王族や貴族令嬢が居るのはおかしい。
ほいほい信じる輩は少ないだろう。
現に男達も信じていないようだった。
「素直に言っちまえばいいもんをなぁ。強情だと痛い目に遭うぜ」
「だから俺はこの国の――」
「うぜぇ」
よっぽど腹に据えかねたのか蹴りが飛んだ。
「ったく。外見はいいのにオツムは残念なタイプかよ。どうするかねぇ」
「売りますか?」
男が口を開きかけた時、部屋の外で物音がした。
「何だ。もう帰って来たのか」
「そういや腹ごしらえがまだでした。先に飲みますか」
「そうだな。だがその前に」
男が隠しから襤褸けた布を取り出すとダルロの口を塞いだ。
「これで少しは静かになるってもんだ」
ダルロがもごもご言っているようだったがそれは無視された。
男達が出て行くとダルロは必死に猿ぐつわを外そうとしたのか、しばらく口を動かし、程なくしてそれが外れた。
「君は何て無茶を言うんだ」
まだダルロの目隠しはそのままだ。
そのため、室内に居るのがロクサーヌだとは気付かれていない。
「お陰で俺が王族だと言うのはすっかり信用されなくなってしまたじゃないかっ!!」
そうでないと困る。
何となくロクサーヌはイラっとしたのでここははっきりと言うことにした。
「良かったですね」
「はぁっ!?」
やはりというか、ロクサーヌの危惧に気付いていなかったようだった。
「もし貴方が王族だと知られていたらもっととんでもないことになっていました」
「……どういうことだ?」
「王族となれば身代金なんて取り放題――ですが、その分危険もあるので危ない橋を渡りたくないと思えば他の大規模な犯罪者組織に身を売られるかもしれません。もしくは他国に取引材料として売られる危険性もあるます。そうなると救出が困難になることは間違いないです」
一般的な懸念を告げると沈黙が返ってきた。
どうやら少しは考える頭があるらしい。
(だけど、また怒鳴られるのかしら)
これまでロクサーヌの忠告が素直に受け入れられたことはない。
「そうだな。……済まなかった。そこまでは思い浮かばなかった」
(えっ)
思いもよらない返答にロクサーヌが固まっていると、
「その可能性は思いもしなかった。君はかなり頭が良いんだな」
目隠しで顔半分は隠されているが、笑みを浮かべているのが分かる。
(どういうこと!?)
動揺するロクサーヌを余所にダルロが続けた。
「俺はこれまで何でも一人で出来ると思っていた。まあ実際はそうなんだが、周りの奴らがその倍は優秀でな。そいつらの忠告何か意地でも聞くもんかと思っていたが、君の言葉は心地いいな」
(――はい?)
何か自分では知らない内に掌握できない事態が起きている。
ダルロが忠告を聞いてくれたのは良いが、一体何がどうしてそうなったのかさっぱり分からない。
(何か悪いものでも食べたのかしら?)
少々失礼なことを考えているロクサーヌの耳にダルロの言葉が突き刺さる。
「君は偉ぶった家臣や上品ぶった婚約者とは大違いだな」
(……)
忠告を受け入れて貰ったのは嬉しいが何気なくダメージが凄い気がする。
「私は王宮に上がったことはないので分かりませんが、婚約者の方は殿下のことをそれほど疎んじているようには見えませんでしたが」
どうかあまり酷いことを言われませんように、というロクサーヌの願いは叶わなかった。
「はっ、あの女が? 幼い頃はまだ良かったが机を並べて勉強するようになったら最悪だぞ。知ったかぶりで押し付けて来るし、同じように学んでいる立場のクセに教えてやる、と来たものだ。上から目線にも程があるぞ」
「……そうですか」
「俺が王族だと言うことにおべっかを使う輩よりは少しはマシだが、あの澄ました顔はいただけないな」
(消えたい)
「俺としてはあんな賢しらぶった女とは婚約解消して……そう言えば名を聞いてなかったな」
――名は何と言う?
ロクサーヌ人生最大のピンチだった。
わざと砕けた口調を使い、声音も変えた。
とはいっても少し高い声にして下ったらずな調子にしてみただけだったが、効果はあったようだ。
「「――は?」」
男達はこちらを呆けたように見た後笑い出した。
「はははっ!! こりゃあいいやっ、この国の王子様に公爵令嬢と来たもんだっ!! 身代金ががっぽり取れるぜっ!!」
どう見てもこちらの発言を本気にしていないようだった。
(狙い通りだわ)
確かにこんなところに王族や貴族令嬢が居るのはおかしい。
ほいほい信じる輩は少ないだろう。
現に男達も信じていないようだった。
「素直に言っちまえばいいもんをなぁ。強情だと痛い目に遭うぜ」
「だから俺はこの国の――」
「うぜぇ」
よっぽど腹に据えかねたのか蹴りが飛んだ。
「ったく。外見はいいのにオツムは残念なタイプかよ。どうするかねぇ」
「売りますか?」
男が口を開きかけた時、部屋の外で物音がした。
「何だ。もう帰って来たのか」
「そういや腹ごしらえがまだでした。先に飲みますか」
「そうだな。だがその前に」
男が隠しから襤褸けた布を取り出すとダルロの口を塞いだ。
「これで少しは静かになるってもんだ」
ダルロがもごもご言っているようだったがそれは無視された。
男達が出て行くとダルロは必死に猿ぐつわを外そうとしたのか、しばらく口を動かし、程なくしてそれが外れた。
「君は何て無茶を言うんだ」
まだダルロの目隠しはそのままだ。
そのため、室内に居るのがロクサーヌだとは気付かれていない。
「お陰で俺が王族だと言うのはすっかり信用されなくなってしまたじゃないかっ!!」
そうでないと困る。
何となくロクサーヌはイラっとしたのでここははっきりと言うことにした。
「良かったですね」
「はぁっ!?」
やはりというか、ロクサーヌの危惧に気付いていなかったようだった。
「もし貴方が王族だと知られていたらもっととんでもないことになっていました」
「……どういうことだ?」
「王族となれば身代金なんて取り放題――ですが、その分危険もあるので危ない橋を渡りたくないと思えば他の大規模な犯罪者組織に身を売られるかもしれません。もしくは他国に取引材料として売られる危険性もあるます。そうなると救出が困難になることは間違いないです」
一般的な懸念を告げると沈黙が返ってきた。
どうやら少しは考える頭があるらしい。
(だけど、また怒鳴られるのかしら)
これまでロクサーヌの忠告が素直に受け入れられたことはない。
「そうだな。……済まなかった。そこまでは思い浮かばなかった」
(えっ)
思いもよらない返答にロクサーヌが固まっていると、
「その可能性は思いもしなかった。君はかなり頭が良いんだな」
目隠しで顔半分は隠されているが、笑みを浮かべているのが分かる。
(どういうこと!?)
動揺するロクサーヌを余所にダルロが続けた。
「俺はこれまで何でも一人で出来ると思っていた。まあ実際はそうなんだが、周りの奴らがその倍は優秀でな。そいつらの忠告何か意地でも聞くもんかと思っていたが、君の言葉は心地いいな」
(――はい?)
何か自分では知らない内に掌握できない事態が起きている。
ダルロが忠告を聞いてくれたのは良いが、一体何がどうしてそうなったのかさっぱり分からない。
(何か悪いものでも食べたのかしら?)
少々失礼なことを考えているロクサーヌの耳にダルロの言葉が突き刺さる。
「君は偉ぶった家臣や上品ぶった婚約者とは大違いだな」
(……)
忠告を受け入れて貰ったのは嬉しいが何気なくダメージが凄い気がする。
「私は王宮に上がったことはないので分かりませんが、婚約者の方は殿下のことをそれほど疎んじているようには見えませんでしたが」
どうかあまり酷いことを言われませんように、というロクサーヌの願いは叶わなかった。
「はっ、あの女が? 幼い頃はまだ良かったが机を並べて勉強するようになったら最悪だぞ。知ったかぶりで押し付けて来るし、同じように学んでいる立場のクセに教えてやる、と来たものだ。上から目線にも程があるぞ」
「……そうですか」
「俺が王族だと言うことにおべっかを使う輩よりは少しはマシだが、あの澄ました顔はいただけないな」
(消えたい)
「俺としてはあんな賢しらぶった女とは婚約解消して……そう言えば名を聞いてなかったな」
――名は何と言う?
ロクサーヌ人生最大のピンチだった。
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