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第一話 異世界転生を果たした友よ
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――異世界転生を果たした友よ。
『ねぇ、転生したいから、手伝って』
そう言われてから三年は経つでしょうか。
あなたは最初はトラ転をしようとしましたよね。
こういった転生ものではお馴染みの、信号無視のトラックにはねられての転生。
『やっぱり王道はトラ転よね!! すぐに済むし、だいたいの小説だと、魔法有りのファンタジー世界に転生でしょう!!』
愛里、あなたがこのところ異世界転生ものにハマっていたのは知っていたけれど。
『……でも』
なんとか止めようと口を開いたあたしの言葉はすぐに遮られてしまった。
『乙女ゲームのヒロインとかはごめんだけど。逆ハーレム? 話で読むから面白いだけで、現実では無理無理!! あ、あのトラックにしよ、お願いね』
乙女ゲームのヒロイン転生では、婚約者の悪役令嬢(?)を押しのけて王太子とか、その側近の宰相の息子とか、騎士団団長の息子とかと非常に親しくなるルートがあるらしい。
誰か一人にしぼるのではなく、全員と恋人になるのが逆ハーレムルートらしいけれど、たしかに現実ではちょっと厳しい。
そこら辺は分かっているのか、とほっとしたのも束の間、今、愛里はなんと言った?
『で、も』
『いいから!!』
愛里の勢いに飲まれて、あたしが押すとまさにちょうどいいタイミングだったのか、トラックが急カーブを曲がってくるところだった。
『『――ッ!!』』
あたしの耳に甲高いブレーキ音とどこか遠いところから悲鳴が聞こえた。
あなたはトラ転できませんでしたね。
命は助かったものの、脳の神経をやられて左半身が動かし辛くなりましたね。
さすがにもう諦めるかと思いましたが、愛里、あなたはポジティブでしたね。
『こんなことで諦めないわよ!!』
そう叫んで自分を奮い立たせるようにあなたは次の提案をしてきました。
『次はこれね!! やっぱりトラックじゃ王道すぎたのよ!! 神様も見飽きるわよね!! 電車よ電車!! ブレーキ掛けてもなかなか止まれないってなにかの動画でやってたわ!!』
興奮する愛里になんとか声を掛けようとする。
『あの』
それは以前学校の先生が、こういうこともあるから気を付けるように、と見せてくれたものでは?
まさか先生もこんなふうに利用されるとは思わなかったに違いない。
『向こうは中世っぽい世界なのよね!! できれば銀髪に青い瞳の美少女に生まれ変わりたいわね!! 貴族ならなおいいわ!! でも悪役令嬢は……うーん、ざまぁも何かありきたりというか。案外悪役令嬢でも逆ハーレムみたいになったりするしなあ』
悩むなあ、と贅沢なことを言っている愛里に、
『そういういのって自分じゃ決められないんじゃ……』
『ほら、行くわよ!! ラッシュの時間を狙えば大丈夫!! ちゃんと事故になるから!!』
前回のトラックの事故(!)では人気のない場所だったのにも関わらず目撃した人がいて、あたしは危うく殺人で捕まるところだったのだ。
だが、愛里が否定したことで事件にはならなかった。
今度は逆にラッシュで人が多い時間帯のため、人混みに押されたという体にできるという。
そんなに簡単に行くのだろうか。
『ほら行くわよ!! 少なくとも伯爵家以上のところに行きたいわね!! ――今よ!!』
小声で出された指示にあたしは従ってしまった。
帰宅ラッシュの中響く怒号、間の抜けたブレーキ音。
線路に落ちた愛里は迫りくる車両の前から少しも動こうとしなかった。
あなたはまた転生できませんでしたね。
愛里は下半身を打って車椅子生活をよぎなくされた。
さすがにここまでくれば、もうそんなことは言わないだろうと思っていたのに。
『電車でもダメとは思わなかったわ。でも今度こそは大丈夫よ!! さあ、ここから私を突き落として!!』
『え、だってここ……』
ここはとある神社だった。
石段がかなり長いこともあり、あまり参拝者はいない。
異世界に行ったらどんなチートが貰えるのかな、やっぱり無双はしてみたいわよね、等とテンションが上がっているあなたにあたしは忠告しましたよね。
『もうやめた方がいいんじゃない? もしまた失敗したら寝たきりになっちゃうかもしれないよ』
『どうせ向こうに行ったら新しい体になるんだから、思い切りやっていいんだってば!!』
あなたはあたしの話を聞きませんでしたね。
そして――
『ほらっ、車椅子ごと押しちゃっていいから!!』
くっ、重っ――
あたしは愛里を車椅子ごと石段の最上段から突き落とした。
――愛里、あなたは元気ですか?
ちゃんと銀髪の美少女になれましたか?
貴族に生まれ変わりましたか?
イケメン貴族と恋に落ちましたか?
あたしは今ひとりです。
あの後、自殺幇助と殺人の罪に問われ、さすがに三度も似たようなことがあったため、罪に問われ執行猶予なしの実刑判決を食らいました。
なにもない灰色の室内を見るのもキツいけれど、もっと孤独を感じるのは名を番号で呼ばれることです。
あたしは『物』じゃないのに。
――異世界転生を果たした友よ。
――あなたは満足していますか?
『ねぇ、転生したいから、手伝って』
そう言われてから三年は経つでしょうか。
あなたは最初はトラ転をしようとしましたよね。
こういった転生ものではお馴染みの、信号無視のトラックにはねられての転生。
『やっぱり王道はトラ転よね!! すぐに済むし、だいたいの小説だと、魔法有りのファンタジー世界に転生でしょう!!』
愛里、あなたがこのところ異世界転生ものにハマっていたのは知っていたけれど。
『……でも』
なんとか止めようと口を開いたあたしの言葉はすぐに遮られてしまった。
『乙女ゲームのヒロインとかはごめんだけど。逆ハーレム? 話で読むから面白いだけで、現実では無理無理!! あ、あのトラックにしよ、お願いね』
乙女ゲームのヒロイン転生では、婚約者の悪役令嬢(?)を押しのけて王太子とか、その側近の宰相の息子とか、騎士団団長の息子とかと非常に親しくなるルートがあるらしい。
誰か一人にしぼるのではなく、全員と恋人になるのが逆ハーレムルートらしいけれど、たしかに現実ではちょっと厳しい。
そこら辺は分かっているのか、とほっとしたのも束の間、今、愛里はなんと言った?
『で、も』
『いいから!!』
愛里の勢いに飲まれて、あたしが押すとまさにちょうどいいタイミングだったのか、トラックが急カーブを曲がってくるところだった。
『『――ッ!!』』
あたしの耳に甲高いブレーキ音とどこか遠いところから悲鳴が聞こえた。
あなたはトラ転できませんでしたね。
命は助かったものの、脳の神経をやられて左半身が動かし辛くなりましたね。
さすがにもう諦めるかと思いましたが、愛里、あなたはポジティブでしたね。
『こんなことで諦めないわよ!!』
そう叫んで自分を奮い立たせるようにあなたは次の提案をしてきました。
『次はこれね!! やっぱりトラックじゃ王道すぎたのよ!! 神様も見飽きるわよね!! 電車よ電車!! ブレーキ掛けてもなかなか止まれないってなにかの動画でやってたわ!!』
興奮する愛里になんとか声を掛けようとする。
『あの』
それは以前学校の先生が、こういうこともあるから気を付けるように、と見せてくれたものでは?
まさか先生もこんなふうに利用されるとは思わなかったに違いない。
『向こうは中世っぽい世界なのよね!! できれば銀髪に青い瞳の美少女に生まれ変わりたいわね!! 貴族ならなおいいわ!! でも悪役令嬢は……うーん、ざまぁも何かありきたりというか。案外悪役令嬢でも逆ハーレムみたいになったりするしなあ』
悩むなあ、と贅沢なことを言っている愛里に、
『そういういのって自分じゃ決められないんじゃ……』
『ほら、行くわよ!! ラッシュの時間を狙えば大丈夫!! ちゃんと事故になるから!!』
前回のトラックの事故(!)では人気のない場所だったのにも関わらず目撃した人がいて、あたしは危うく殺人で捕まるところだったのだ。
だが、愛里が否定したことで事件にはならなかった。
今度は逆にラッシュで人が多い時間帯のため、人混みに押されたという体にできるという。
そんなに簡単に行くのだろうか。
『ほら行くわよ!! 少なくとも伯爵家以上のところに行きたいわね!! ――今よ!!』
小声で出された指示にあたしは従ってしまった。
帰宅ラッシュの中響く怒号、間の抜けたブレーキ音。
線路に落ちた愛里は迫りくる車両の前から少しも動こうとしなかった。
あなたはまた転生できませんでしたね。
愛里は下半身を打って車椅子生活をよぎなくされた。
さすがにここまでくれば、もうそんなことは言わないだろうと思っていたのに。
『電車でもダメとは思わなかったわ。でも今度こそは大丈夫よ!! さあ、ここから私を突き落として!!』
『え、だってここ……』
ここはとある神社だった。
石段がかなり長いこともあり、あまり参拝者はいない。
異世界に行ったらどんなチートが貰えるのかな、やっぱり無双はしてみたいわよね、等とテンションが上がっているあなたにあたしは忠告しましたよね。
『もうやめた方がいいんじゃない? もしまた失敗したら寝たきりになっちゃうかもしれないよ』
『どうせ向こうに行ったら新しい体になるんだから、思い切りやっていいんだってば!!』
あなたはあたしの話を聞きませんでしたね。
そして――
『ほらっ、車椅子ごと押しちゃっていいから!!』
くっ、重っ――
あたしは愛里を車椅子ごと石段の最上段から突き落とした。
――愛里、あなたは元気ですか?
ちゃんと銀髪の美少女になれましたか?
貴族に生まれ変わりましたか?
イケメン貴族と恋に落ちましたか?
あたしは今ひとりです。
あの後、自殺幇助と殺人の罪に問われ、さすがに三度も似たようなことがあったため、罪に問われ執行猶予なしの実刑判決を食らいました。
なにもない灰色の室内を見るのもキツいけれど、もっと孤独を感じるのは名を番号で呼ばれることです。
あたしは『物』じゃないのに。
――異世界転生を果たした友よ。
――あなたは満足していますか?
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