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第二話 異世界転生を果たして (前)
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とある国、ある伯爵家にひとりの令嬢がいた。
名はアイラ・モザイクリン。
モザイクリン伯爵家の長女として生まれた彼女はその美しさもさることながら、魔力も豊富で魔法も得意、そして学園での成績も常に上位を保ち、皆の憧れの視線を集める存在だった。
婚約者のギルバート・ザクラン侯爵令息とも仲が良く、学園内でもよくふたりで談笑している姿が目撃されている。
「モザイクリン伯爵令嬢よ」
「いつ見ても綺麗ね」
「所作も美しいですし、素敵ですわね」
漏れ聞こえて来る声に私――アイラ・モザイクリン伯爵令嬢は内心で大きくそうでしょう、と頷く。
なにかで願い事は慎重に、とかあったけれど私はなにも後悔なんてしてないわよ。
前は冴えなかったけど、今は銀髪に青い瞳の伯爵令嬢。
当然婚約者もイケメンで王太子の覚えもめでたく、成績も優秀。
まさに順風満帆ね。
そこまで思いを巡らせたとき、脳裏におとなしげな容貌が蘇った。
――桃華、ね。
とても華やかな名前に似合わず、気が弱くてなんのおしゃれもしない、地味なかつての友人。
ま、私の言うことはなんでも聞いてくれたから、いちおう価値はあったわね。
ともすれば自殺幇助ともなりかねない命令を聞いてくれたのは桃華だけだったから。
今、どうしてるのかしら。
不器用にみえたけれど、それほど親しくしていた訳ではないので、案外したたかなところがあるのかもしれない。
もしかして、私が死んだことで落ち込んでる男友達を篭絡してたりして。
……あんまり想像つかないけど、あるかな?
人の心の中なんて誰にも分からないのだから。
「どうしたんだい?」
ギルバートの問い掛けに、にこり、と笑みを作って答える。
「いえ。なんでもないですわ。ただ」
そこでちょっと思わせぶりな態度をすることも忘れない。
「ただ、なんだい?」
「あなたとこうして一緒にいられて幸せだなあ、って」
ここは学園内だが、昼休みで場所は四阿だ。
周りとは少し距離があるため、いちおう品位は保たれていると思う。
そこを見越してわざと甘ったるい口調で言うと、ギルバートが照れたように頭へ軽く手をやった。
「そうか」
ふふふっ、こういうふうにすると相手が甘くなる、なんてのは前世で履修済みよ。
公の場ではきちんとした所作で応じるけれど、プライベートでは別。
真面目すぎて嫌われる悪役令嬢にも、誰かれ構わず愛想を振りまいて異性関係ややこしくするヒロインのどちらにもなるつもりはないんだから。
そんな目論見は成功したようで、今のところギルバートは浮気をするような兆候は見られなかった。
――このまま結婚まで突き進むわよ!!
そう思っていたのになぜか私はザクラン侯爵夫人に呼び出されて侯爵邸へ来ていた。
「急なことで驚いていると思うけれど、あなたに聞きたいことがあったのよ」
「とんでもありませんわ。侯爵夫人」
案内された客間で茶器を丁寧に戻しながら答えると、
「実はね。このザクラン侯爵家には代々伝わっているある秘薬があるの」
思いがけないことを言われた。
秘薬ってなに?
興味を引かれて言葉の続きを待つ私に聞かされたのはひとつの昔話だった。
このザクラン侯爵家の令息はなにやら伴侶にあまり恵まれないらしく、いわゆる『悪女』というものによく引っ掛かるらしいのだ。
それもひどい散財ぶりで、一時は侯爵家としての体裁も保てなくなるほどだったらしい。
そこでとある魔導師に依頼して作られたのがこの秘薬である。
これを飲むとやましいことがある人はそのことを黙っていられず、次々と口を開いてしまうらしい。
そこまで話したところで侯爵夫人がこちらを気遣うように見た。
「あら、だからといってアイラさんを疑っているわけではないのよ。あくまでもこれはザクラン侯爵家の慣習なの」
――お気を悪くされたらごめんなさいね。
そう続けられて断るなどという選択肢はなかった。
「分かりました。それではその秘薬とやらを飲めばよろしいのでようか?」
「無理を言ってごめんなさいね」
いろいろ準備もあるとかで、その日はなにもなかったが帰りの馬車でほっと息をつく。
秘薬ってようするに自白剤のことじゃないの。
そんなものに頼らないといけないなんて、どれだけなのかしら。
だけど確かにザクラン侯爵家は美形揃いだ。
今会った侯爵夫人も品のある顔立ちをしていたし、ギルバートなど私という婚約者がいるにも関わらず、近寄って来る令嬢がいるらしい。
――絶対負けないんだから。
名はアイラ・モザイクリン。
モザイクリン伯爵家の長女として生まれた彼女はその美しさもさることながら、魔力も豊富で魔法も得意、そして学園での成績も常に上位を保ち、皆の憧れの視線を集める存在だった。
婚約者のギルバート・ザクラン侯爵令息とも仲が良く、学園内でもよくふたりで談笑している姿が目撃されている。
「モザイクリン伯爵令嬢よ」
「いつ見ても綺麗ね」
「所作も美しいですし、素敵ですわね」
漏れ聞こえて来る声に私――アイラ・モザイクリン伯爵令嬢は内心で大きくそうでしょう、と頷く。
なにかで願い事は慎重に、とかあったけれど私はなにも後悔なんてしてないわよ。
前は冴えなかったけど、今は銀髪に青い瞳の伯爵令嬢。
当然婚約者もイケメンで王太子の覚えもめでたく、成績も優秀。
まさに順風満帆ね。
そこまで思いを巡らせたとき、脳裏におとなしげな容貌が蘇った。
――桃華、ね。
とても華やかな名前に似合わず、気が弱くてなんのおしゃれもしない、地味なかつての友人。
ま、私の言うことはなんでも聞いてくれたから、いちおう価値はあったわね。
ともすれば自殺幇助ともなりかねない命令を聞いてくれたのは桃華だけだったから。
今、どうしてるのかしら。
不器用にみえたけれど、それほど親しくしていた訳ではないので、案外したたかなところがあるのかもしれない。
もしかして、私が死んだことで落ち込んでる男友達を篭絡してたりして。
……あんまり想像つかないけど、あるかな?
人の心の中なんて誰にも分からないのだから。
「どうしたんだい?」
ギルバートの問い掛けに、にこり、と笑みを作って答える。
「いえ。なんでもないですわ。ただ」
そこでちょっと思わせぶりな態度をすることも忘れない。
「ただ、なんだい?」
「あなたとこうして一緒にいられて幸せだなあ、って」
ここは学園内だが、昼休みで場所は四阿だ。
周りとは少し距離があるため、いちおう品位は保たれていると思う。
そこを見越してわざと甘ったるい口調で言うと、ギルバートが照れたように頭へ軽く手をやった。
「そうか」
ふふふっ、こういうふうにすると相手が甘くなる、なんてのは前世で履修済みよ。
公の場ではきちんとした所作で応じるけれど、プライベートでは別。
真面目すぎて嫌われる悪役令嬢にも、誰かれ構わず愛想を振りまいて異性関係ややこしくするヒロインのどちらにもなるつもりはないんだから。
そんな目論見は成功したようで、今のところギルバートは浮気をするような兆候は見られなかった。
――このまま結婚まで突き進むわよ!!
そう思っていたのになぜか私はザクラン侯爵夫人に呼び出されて侯爵邸へ来ていた。
「急なことで驚いていると思うけれど、あなたに聞きたいことがあったのよ」
「とんでもありませんわ。侯爵夫人」
案内された客間で茶器を丁寧に戻しながら答えると、
「実はね。このザクラン侯爵家には代々伝わっているある秘薬があるの」
思いがけないことを言われた。
秘薬ってなに?
興味を引かれて言葉の続きを待つ私に聞かされたのはひとつの昔話だった。
このザクラン侯爵家の令息はなにやら伴侶にあまり恵まれないらしく、いわゆる『悪女』というものによく引っ掛かるらしいのだ。
それもひどい散財ぶりで、一時は侯爵家としての体裁も保てなくなるほどだったらしい。
そこでとある魔導師に依頼して作られたのがこの秘薬である。
これを飲むとやましいことがある人はそのことを黙っていられず、次々と口を開いてしまうらしい。
そこまで話したところで侯爵夫人がこちらを気遣うように見た。
「あら、だからといってアイラさんを疑っているわけではないのよ。あくまでもこれはザクラン侯爵家の慣習なの」
――お気を悪くされたらごめんなさいね。
そう続けられて断るなどという選択肢はなかった。
「分かりました。それではその秘薬とやらを飲めばよろしいのでようか?」
「無理を言ってごめんなさいね」
いろいろ準備もあるとかで、その日はなにもなかったが帰りの馬車でほっと息をつく。
秘薬ってようするに自白剤のことじゃないの。
そんなものに頼らないといけないなんて、どれだけなのかしら。
だけど確かにザクラン侯爵家は美形揃いだ。
今会った侯爵夫人も品のある顔立ちをしていたし、ギルバートなど私という婚約者がいるにも関わらず、近寄って来る令嬢がいるらしい。
――絶対負けないんだから。
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