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第四話 異世界転生を果たして (後)
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私を刺したメイドはギルバートが以前、気まぐれで手を付けた女だった。
ギルバートはとっくに別れたつもりだったのだけれど、向こうはちがったらしい。
って何、私、逆恨みで刺されたのっ!?
冗談じゃないわよ、と思わずベットの上からギルバートを睨み付けると、ギルバートが言い返してきた。
「ちょっと待って。君だってズルいじゃないか。だいたい何なんだよ、あの魔道具は」
そう言われると確かに弱い。
結局、私はポーションを始めとした薬を無効化する魔道具を身に付けていることを白状してしまった。
すぐに魔道具を外してポーションを飲ませて貰ったけれど、なんともいたたまれない空気が流れた。
ポーションはさすが侯爵家、とでも言うべきか質の良いものだったらしく、すぐに傷口は塞がったのだけど、念のため医師も呼んで診察してもらった。
結果、ポーションのお陰でほとんど治癒していたのけれど、出血のこともあるので念のため安静に、ということで、モザイクリン伯爵家へ帰宅するなり、ベットの住人となったのだった。
ってどうなるのよこれ、というかギルバートとの婚約は!?
あれから五日が過ぎていた。
私は安静を言い渡されて外へ出られなかったけれど、この状況が良いものではないことくらい分かる。
すると案の定、
「君との婚約は白紙になったよ」
当たり前だろ、とそっけなくギルバートが続けた。
「秘薬の効果を無効化する魔道具を使ったんだから。本来なら婚約破棄、ってところなんだろうけれど。こちらにも落ち度があるからね。両家で話し合って婚約解消が妥当じゃないか、ってことになったよ」
はあああっ!?
何よそれっ、私の贅沢三昧な貴族夫人生活はっ!?
いったい何のために異世界転生したってのよっ!?
その後、なぜか私は王都の簡易裁判所に送られてしまった。
え、いやだから何で!?
話を聞くとやはりあの魔道具がダメだったらしい。
ザクラン侯爵家の秘薬の件を知りながら、誤魔化そうとしたことで、私が何か良からぬことを企んでいるかもしれない、と密告があったそうだ。
何よそれ、私はそんなことしてないわよっ!?
身の潔白を証明するため、あの『秘薬』に似た物を飲む羽目になってしまった。
そして――
「あなたには何か隠していることがありますか?」
「あります。私は異世界人です」
そこからは坂を転げ落ちるように前世のことをすべて話してしまった。
こことはまったく違う世界で生きていたこと。
満足できなくて異世界転生をしたくて、友人をそそのかしてわざと自分が死ぬように何度も仕向けたこと。
「どうしてそんなことをしたのですか?」
「向こうでは退屈だったからです。決まった時間に起きて仕事をしてただ寝に帰るだけの生活。なのに贅沢もできないし。もっと旅行だってしたかったし、買いたい物だってたくさんあった。それにこちらにあるようなきれいな服を着こなすには、明るい髪と瞳と彫りの深い顔立ち、それにプロポーションだって」
「……もういいです」
なぜかそこで問答は終わってしまった。
私は国境付近にある塔へ幽閉されることになる。
何でよっ、なにも悪いことなんてしていないのにっ!!
私が入れられた塔は勢力抗争等で敗れた貴族が幽閉されていたものらしく、内装は思ったほど悪くはなかった。
食事も一日に二回は差し入れられる。
まあ何と言っても伯爵家の令嬢だものね。これくらい当り前よね。
だけど、そんな余裕を持っていられたのも、看守たちの会話を漏れ聞くまでだった。
「おい、今度の客は珍しいな。きちんと食事を出せ、とさ。王都の政務官からの直々の書状が来てるぜ」
「ああ。あの娘か。なんでもできるだけ長生きさせとけ、ってさ」
「は? なんだそりゃ? ふつうはそんな注文つけないだろ」
「いやなんでもすぐに死なせると、その娘にはご褒美になるからとにかく長く生きさせろ、って来てるぜ」
「訳が分からんな」
「まあ、上の方々の考えなんぞ、俺ら下々には分からんさ」
聞かれてるとは思ってないだろう看守たちの声が遠ざかって行く。
彼らの会話を頭の中で反芻して私はあることに気付いた。
ちょっと待ってこれって、私が次に転生できないようにしているっ!?
あの薬を飲んだ際に私は異世界転生の方法として言わなかったか。
『一度死なないと転生できない』と。
ざあっ、と血が下がっていくのが分かった。
「……嫌よ。こんなところいたくない」
その声を聞く者はいなかった。
ギルバートはとっくに別れたつもりだったのだけれど、向こうはちがったらしい。
って何、私、逆恨みで刺されたのっ!?
冗談じゃないわよ、と思わずベットの上からギルバートを睨み付けると、ギルバートが言い返してきた。
「ちょっと待って。君だってズルいじゃないか。だいたい何なんだよ、あの魔道具は」
そう言われると確かに弱い。
結局、私はポーションを始めとした薬を無効化する魔道具を身に付けていることを白状してしまった。
すぐに魔道具を外してポーションを飲ませて貰ったけれど、なんともいたたまれない空気が流れた。
ポーションはさすが侯爵家、とでも言うべきか質の良いものだったらしく、すぐに傷口は塞がったのだけど、念のため医師も呼んで診察してもらった。
結果、ポーションのお陰でほとんど治癒していたのけれど、出血のこともあるので念のため安静に、ということで、モザイクリン伯爵家へ帰宅するなり、ベットの住人となったのだった。
ってどうなるのよこれ、というかギルバートとの婚約は!?
あれから五日が過ぎていた。
私は安静を言い渡されて外へ出られなかったけれど、この状況が良いものではないことくらい分かる。
すると案の定、
「君との婚約は白紙になったよ」
当たり前だろ、とそっけなくギルバートが続けた。
「秘薬の効果を無効化する魔道具を使ったんだから。本来なら婚約破棄、ってところなんだろうけれど。こちらにも落ち度があるからね。両家で話し合って婚約解消が妥当じゃないか、ってことになったよ」
はあああっ!?
何よそれっ、私の贅沢三昧な貴族夫人生活はっ!?
いったい何のために異世界転生したってのよっ!?
その後、なぜか私は王都の簡易裁判所に送られてしまった。
え、いやだから何で!?
話を聞くとやはりあの魔道具がダメだったらしい。
ザクラン侯爵家の秘薬の件を知りながら、誤魔化そうとしたことで、私が何か良からぬことを企んでいるかもしれない、と密告があったそうだ。
何よそれ、私はそんなことしてないわよっ!?
身の潔白を証明するため、あの『秘薬』に似た物を飲む羽目になってしまった。
そして――
「あなたには何か隠していることがありますか?」
「あります。私は異世界人です」
そこからは坂を転げ落ちるように前世のことをすべて話してしまった。
こことはまったく違う世界で生きていたこと。
満足できなくて異世界転生をしたくて、友人をそそのかしてわざと自分が死ぬように何度も仕向けたこと。
「どうしてそんなことをしたのですか?」
「向こうでは退屈だったからです。決まった時間に起きて仕事をしてただ寝に帰るだけの生活。なのに贅沢もできないし。もっと旅行だってしたかったし、買いたい物だってたくさんあった。それにこちらにあるようなきれいな服を着こなすには、明るい髪と瞳と彫りの深い顔立ち、それにプロポーションだって」
「……もういいです」
なぜかそこで問答は終わってしまった。
私は国境付近にある塔へ幽閉されることになる。
何でよっ、なにも悪いことなんてしていないのにっ!!
私が入れられた塔は勢力抗争等で敗れた貴族が幽閉されていたものらしく、内装は思ったほど悪くはなかった。
食事も一日に二回は差し入れられる。
まあ何と言っても伯爵家の令嬢だものね。これくらい当り前よね。
だけど、そんな余裕を持っていられたのも、看守たちの会話を漏れ聞くまでだった。
「おい、今度の客は珍しいな。きちんと食事を出せ、とさ。王都の政務官からの直々の書状が来てるぜ」
「ああ。あの娘か。なんでもできるだけ長生きさせとけ、ってさ」
「は? なんだそりゃ? ふつうはそんな注文つけないだろ」
「いやなんでもすぐに死なせると、その娘にはご褒美になるからとにかく長く生きさせろ、って来てるぜ」
「訳が分からんな」
「まあ、上の方々の考えなんぞ、俺ら下々には分からんさ」
聞かれてるとは思ってないだろう看守たちの声が遠ざかって行く。
彼らの会話を頭の中で反芻して私はあることに気付いた。
ちょっと待ってこれって、私が次に転生できないようにしているっ!?
あの薬を飲んだ際に私は異世界転生の方法として言わなかったか。
『一度死なないと転生できない』と。
ざあっ、と血が下がっていくのが分かった。
「……嫌よ。こんなところいたくない」
その声を聞く者はいなかった。
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