本物の『神託の花嫁』は妹ではなく私なんですが、興味はないのでバックレさせていただいてもよろしいでしょうか?王太子殿下?

神崎 ルナ

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第二十五話 姉妹の対話 (後)

「誰か、鏡を」

 そう言うとすぐに是、との声と共に誰かが駆け出して行く足音がした。

 ほどなくして看守が手鏡を持ってくる。

「こんなものしかなくて申し訳ありません」

 だいぶ使い込まれた手鏡は曾祖母の形見だと言う。

 これは慎重にしないといけないわね。

 手鏡をエリスからは決して届かない位置を計算して、鏡面をエリスに対して向けた。

「これを見なさい」

「何よ、ただの鏡……はあっ!? 何よこれ!! この鏡おかしいわよ!!」

 恐らく独房に収監されからというもの、ずっと鏡を見ていなかったのだろう。

 怒鳴りながら鏡を壊そうとでもするように鉄格子へ突進してきたエリスを警戒しながら、手鏡を看守へ返した。

「ありがとう。素敵な手鏡ね」

「もったいないお言葉です」

 看守が感心したように答えているとエリスが叫んだ。

「ちょっと何よその安物の鏡は!! そんなのだから歪んで見えたんだわ、もっといいのを持って来なさいよ!!」

 魔道具で魅了を封じられたエリスの言葉は誰にも響かない。

 それにしてもこれはひどいわ。

 誰よりも美しいと言われ、両親の愛情も皆の称賛の声もすべて独り占めしていたエリス。

 今のエリスにはその面影は影も形もなかった。

 このまま放って置いてもエリスは自滅するだろう。

 だけど――

 小さく呪文を唱え、魔術を展開する。

「カーラ様?」

「……お姉様?」

 魔術がエリスの体に吸い込まれたのを確認して教える。

「良かったわね。エリス。せっかくあなたに付けた魔道具が壊れてしまったようだから、同じ魔術をあなたに掛けてあげたの」

 にっこりと笑って言って上げるとエリスが叫ぶ。

「ありがとうございます、お姉様!!」

 もちろんその顔は憤怒にまみれていた。

 これで私も悪女の仲間入りかしら。

「では私はこれで失礼するわね。息災でね」

「お姉様もお元気で!!」

 裏腹な返事を貰いながら独房を後にする。

「もし、この先あの子が罵詈雑言を並べ立てたりしたら連絡するよう、お願いできるかしら?」

「かしこまりまして」

 看守が答えるとリードも頷く。

「承りました。その際は妹君に掛けられた魔術を解くのですね」

「ええ」

 軽く頷き返して収容所を後にした。



 王城へ戻り、残りの授業を受け、与えられている部屋へ戻ろうとするとリズに食堂へ案内された。

 いつもとは違う二人分の食器にリズを見ると、

「本日、第二王子殿下がお食事を御一緒に、とのことです」

「分かったわ」

 最近多忙なジェラルドとは一緒に食事をとることがなかった。

 お仕事が一段落したのかしら?

 そんなことを考えているとジェラルドが食堂へ入ってきた。

「ああ、そのままでいいよ」

 立ち上がろうとすると止められてしまったので、そのままジェラルドが着席するのを待った。

 授業の進捗など当たり障りのないことを話しながら食事を終え、食後のお茶が出されたころジェラルドがどこか気まずげにカーラへ視線を向けた。

「先日のことは申し訳なかった。君の意思を無視して勝手なことをしてしまった」

 謝罪されてカーラは首を振った。

「いえ。とんでもありません。第二王子殿下には殿下なりのお考えがあったのに勝手に感情を走らせてしまい、申し訳ありませんでした」

 呼び方が第二王子殿下呼びに戻っているが、すぐに気付いたらしくジェラルドの顔が曇った。

「本当に済まなかった。その、カーラ」

「はい、何でしょう第二王子殿下」

 血の気が引いたジェラルドの顔を見ながらふと思う。

 これほど感情が表に出て社交界で生きていけるのかしら。

 カーラは家族に粗雑な扱いを受けてきた。

 そのせいか猜疑心が強くなってしまったらしく、そう簡単に心を開けない。

 それでも最初に会った時のジェラルドには好感を抱けそうだったのに。

 結局その後会話らしい会話はなく夕食は終わった。

 部屋へ戻るとマスクリュー女史が迎えてくれたが、どこか戸惑ったような表情をしていた。

 熟練のマスクリュー女史がこんな表情をしているのは珍しい。

「どうしたの?」

 マスクリュー女史は傍らの小卓から手紙を取り出した。

「王太子殿下からになります」

「え?」

 開封の許可を出すとマスクリュー女史が開封用の小刀を取り出し、丁寧に開けた。

「どうぞ」

「ご苦労様」

 便箋に目を通すとそこにはお手本のようなきれいな字で時候の挨拶から始まり、こちらを気遣う文章が並び、そして話がしたいから時間が作れないか、と書いてあった。

 はい?
 
 思いもかけない内容に思考が停止しかけたが、ちょうどいいタイミングかもしれない。

 突然連れて来られた王城でカーラは迷子になりかけていたから。


 ここを抜け出す前に会って話してみるのもいいかもしれない。






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