終末学園の生存者

おゆP

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第三章

第33話 園芸部(1)

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1.
 一日の授業が終わり、時間的拘束から解き放たれた生徒たちが一斉に校内で動き出す。
 ある者は部活へ向かうべく学園内を移動し、ある者は寮へと帰宅するために学園外へと出て行く。
 生徒たちが作る放課後の喧噪は平穏そのものだった。
 それら生徒たちの流れをどこか恨めしそうな顔で見るのは源ホタル。
 その隣に立つ御波透哉も似たような顔で流れる人の波を眺めていた。

「私も寮に帰りたいのだ」
「俺は関わりたくないのだ」

 方向性に微妙な違いを出しつつも、双方嫌そうな顔で、流れに逆らい昇降口の傍らで人を待っている。
 昼休みに貫雪砕地に勧められた通り、園芸部を訪ねることにした透哉。しかし、当の本人が園芸部との関わりを持たないため急遽、顔の広いホタルに同行者として白羽の矢が立った。
 それに加えて、砕地からは七奈豪々吾を案内人として付けられる始末。
 七夕祭のためとは言え、面倒事は避けたい透哉。
 表面上は、手詰まり状態の工事を打開するための訪問だ。しかし、失礼なことに透哉とホタルの両名は、何か裏があるのではないかと訝っている。が、今のところ推測の域を出ない。
 そんな乗り気でない二人を、好奇の視線が撫でていく。
 以前ほど露骨ではないにせよ、学園通じての問題児と、生徒会副会長の組み合わせはやはり目を引いてしまう。
 透哉からすればクラスメイトと一緒にいるだけだが、傍目には正しく映らない。

(チラチラ見やがって、見世物じゃねぇぞ……しかし、園芸部を訪ねるだけなのに、ここまでするってことは相当ヤバい奴なのか?)

 若干決めつけつつあるのは、関わったメンツに他ならない。
 提案者に貫雪砕地。
 同行者に源ホタル。
 案内役に七奈豪々吾。
 学園中駆けずり回ってもこれ以上に濃いメンツは揃わない。
 自分のことは盛大に棚に上げつつ、今は残る豪々吾を待っている。視点を少し変えて考えると生徒会長と生徒会副会長を連れだっての訪問である。
 やはり、ただ事ではない。
 けれど、待ち合わせ場所に決めた昇降口に、豪々吾は未だ現れない。周囲を見回すもそれらしい姿はない。念のためにと真上も見上げたが、火の玉が振ってくる気配もなかった。そもそも、視覚で捉える前に叫び声や爆破音で存在をアピールしてくる豪々吾をわざわざ探す方が間違いだった。
 透哉は早々と諦め、昼休み以降、妙に大人しいホタルに尋ねた。

「なぁ、これから会いに行く園芸部のヤツってどんなやつだ?」
「ん? 御波は手綱たずな先輩を知らないのだったな……園芸部の部長で勤勉そうな人だ」

 ホタルの端的な返事に透哉はリアクションに困った。
 口調こそ普段と変わらないものの、気が進まないと顔に書いてある。
 無理して付き合わせている手前、余り強くは言えないが、会う前にざっくりとした説明(覚悟)は欲しかったので少し追求を試みた。

「勤勉そうって、判断基準は何だよ」
「眼鏡をかけているのだ」
「偏見が過ぎるだろ。眼鏡かけているやつ全員に怒られろ」

 時間潰しにと話しを振った透哉だったが、ホタルの返答を聞いた時点で不穏な気配を感じ取っていた。ホタルが安易に偏見を口にするタイプではないからだ。

(件の手綱先輩とやらが嫌いってわけじゃなさそうだな……苦手程度には感じている反応だな、こりゃ)

 そして、何故か自分から目線を外している点が、伏せておきたい情報の存在を過剰にプンプンと匂わせた。

「あとはないのか? よく爆発するとか、頭が雪だるまとか」
「御波こそ失礼だろ……三年生はあんなのばかりではないぞ」
「違うのか?」

 透哉的には的を射たつもりだったが、当てが外れて目を丸くする。それでもホタルの態度を見る限り、十中八九奇人変人の類が待ち構えてるのは間違いない。
 単純に年上への配慮かと思ってもいたが、豪々吾と砕地への扱いが適切だったので、手綱個人への厚遇が見て取れた。

「強いて言うなら植物と土を愛す……変わり者だと聞いている。好きな物は盛り土と腐葉土。最近だと誕生日に玉砂利を欲しがっていたと言う噂を聞いたことがある……ちょっと変わった趣味だな」

 口を割ったホタルの表情が心なしか引きつっている。
 ホタルが言葉を慎重に選んだ結果、その思いは正しく透哉に伝わり、頭を抱えた。
 透哉は欲しかった情報を手に入れたはずなのに、聞かなきゃ良かったと心底思った。
 濃いメンツの招集も頷ける、ちゃんとした変人だった。

「遠慮しなくていいだろ。その先輩とやらは変人だ」
「そ、それは早計だぞ御波。園芸を愛する余りの好みかもしれん、だろ?」

 透哉に配慮を一蹴されても、ホタルはフォローを諦めないが、既に遅い。

「腐葉土が好きってカブトムシかよ。まぁ、概ね理解した……帰りたい」
「逃げるな御波。私たちは一応クラスの代表として行くんだぞ?」
「そうだぞ、ブラザー。俺様だって余り気が進まねぇんだ」

 逃亡を図る透哉のシャツをホタルがすかさず掴んだところで、二人の背後から案内役として呼ばれた豪々吾が遅れて登場した。常の騒がしさはなく、極めて珍しいことに大人しい。

「ああ、来てくれたところ悪いけど、俺は逃げたい気持ちでいっぱいだ」

 しかし、その静かな豪々吾の様子は翻って、手綱と言う人物への警戒心へとすり替わる。透哉とホタルとしては、豪々吾には普通でいて欲しかった。

「今日は随分と大人しい登場だな。私たちを助けたヒーロー然としていたときがウソのようだ」
「何度も同じこと言うんじゃねぇよ。痒くなるだろ」

 ホタルが軽く茶化すと満更でもないのか、豪々吾が鼻の下をかく。

「何回目か分かんねぇけど、本当に助かった。つっても、俺は気を失ってたから当時のことは覚えてねぇんだけどな」
「細けぇことは置いといて、ブラザーたちが無事なら何よりだぜ。まぁ、流石俺様ってところよ」

 昨晩のうちに寮でしこたま礼を言った後なので、もはや軽口の領域だった。

「メンバーが揃ったようだし、そろそろ向かうとするのだ」
「源、なんか逞しくなったか?」
「……腹をくくっただけなのだ」

 豪々吾の引率で透哉たちは園芸部部長手綱土子たずな つちこの生息する学園の花壇に向かうのだった。
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