ずっと二人で。ー俺と大好きな幼なじみとの20年間の恋の物語ー

紗々

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(……停学だろうなぁ……)

 ベットに横になったまま、ぼんやりと思う。手加減することなく、思いっきり殴りつけた。言い訳のしようもない。下手すれば退学だろうか。……ごめんなー、おとん、おかん。そろそろ学校から連絡くるかも。ガッカリさせてごめん。マジで。

「………………はぁ……」

 正直退学でももうどうでもいいような気分だった。親に対して申し訳ないと思うだけだ。俺があの高校に行ったのはただただ颯太の傍にいたかったからだ。颯太と約束したからだ。高校は同じところに行って、修学旅行を一緒に楽しもうな、と。
 ……だけど。

「………………っ」

 思い出したくもないのに、何度も何度も繰り返し頭によみがえってくる。颯太とあの野郎が、…静かに唇を重ねているシーンが。

 一緒に帰ろうと約束して教室で待っていたのにあまりにも戻ってくるのが遅いから、不安になった。もしかしてまたあの男と二人きりで残ってるんじゃないかって。
 少しでも不安になるとすぐに蘭のあの言葉が頭の中に浮かんでくる。

『……いつか、絶対、同じ目に遭うから!いつか……、いつか本当に大切な人ができたときに、同じようにその人から捨てられる。絶対に』

「………………。」

 あの時の後ろめたさがずっと俺の中に残っていて、バチが当たることをいつも恐れていた。颯太と恋人同士になれて、あまりにも毎日幸せすぎて。俺だけがずっとこんなに幸せでいられるはずがない。あんなに人を傷付けたんだ、いつか絶対にしっぺ返しがくる。いつもビクビクと心の隅で怯えていた。
 だから焦燥感に駆られて、じっとしていられなくなった。まさかな。颯太に限って、俺を傷付けるようなことはしない。頭ではそう思っていても、膨れ上がる不安は消えることはない。
 でも。
 夏休み最後の日の、俺の部屋での会話を思い出す。


『……。……俺のこと好き?』
『ふふ。うん。……死ぬほどね』


 あの時の天使のような颯太の笑顔。……うん。颯太が嘘をつくはずがない。
 信じる気持ちと不安な気持ちがせめぎ合い、俺を焦らせた。結局颯太を迎えに行ってしまった。

 美術室の窓から中を覗いた。なんの覚悟もなしに。
 まさか。
 本当にあんな瞬間を見てしまうなんて────。想像しうる限り最悪な結果だった。
 颯太が他の男とキスをしているのを見た途端、頭を重厚な鈍器で殴られたような衝撃を受けた。ガンッと激しいショックが襲ってきた次の瞬間にはもう、明確な殺意を持ってあの男を力いっぱい殴りつけていた。
 見られた颯太はただ怯えているようだった。言い訳の一つもせず。何も言えずにただ首を振っていた。否定さえしてくれなくて、心を抉られたようだった。

 俺が全部悪いんだろう。やっぱり報いを受けたんだ。人にした悪行は、自分に返ってくる。自業自得だ。

 だけど。

 こんなにも辛いものだったんだな。好きなヤツから裏切られるって。
 
 体が鉛のように重い。ガキの頃からずっと心は颯太一筋で…。それに気付いた瞬間からずっと、颯太は俺の人生の真ん中にいた。これから何のために生きればいいんだろう。

「………………。」

 むくり。意味もなく体を起こしてみる。目線を上げると、机の上に大事に置いてある陶器のマグカップが視界に飛び込んできた。綺麗な水色。


『…なんでそんなに照れてんだよ』
『……あ、……当たり前のように言うから……。…い、一緒に暮らす、とか……』
『え。……嫌なの?』
『うっ?!……ううん、……まさか』
『じゃ、いいじゃん』
『……うん』


 頬を真っ赤に染めて、頷いた颯太。……あれ、何日前の話だ……?たった数日で、こんなに変わるものなのか。大好きで、好かれて、幸せの絶頂だったのに。それとも俺が気付いてないだけで、あいつの心はもうとっくに……

「…………っ!!」

 荒れ狂う熱風のように突然体内でぶわっと怒りが舞い上がった。俺は勢いよく立ち上がると机の上のマグカップを掴み大きく振り上げた。

「………………く…っ!!」

 床に叩きつけてやろうと思った。だけど、


『…俺も、大好きだよ、樹。…子どもの頃から、ずっと』


『颯太!』
『だから何…?と、とりあえず離し…』
『愛してる!一生大事にするからな、俺!』
『……っ!……バカ……。声おっきいよ……』


『……。……俺のこと好き?』
『ふふ。うん。……死ぬほどね』
『……俺もだよ、颯太。……大好きだ』
『……ふふ。うん』


「…………ふ、……っ、う……、……うぁぁ……っ!あぁぁぁ……っ!!」

 膝から崩れ落ち、俺はマグカップを胸の中に抱きしめた。体中をナイフで突き刺されているようだった。辛い。痛い。苦しい。颯太、颯太……、どうして…………。

 マグカップを抱きしめて床に転がり、俺は涙が涸れ果てるまで泣いた。



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