いとしのわが君

ナギ

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王子たちの密談

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 国の作った学園は魔導を学ぶ場所だ。一定の魔力を持ち、ある程度の財力がないと入れない学園。
 年齢制限はないが、大体は12から18といった者達が多い。
 そしてそこは、すでに貴族世界を映す鏡のような場所でもあった。
 当の本人たちは仲が悪いということは全くないのだが、第一王子、第二王子、第三王子と派閥が存在している。
 だが学園内で仲良くすることはない。その方が面白いからだ。
 彼らは仲の悪いふりをして、自陣をあおる。それを知っている友人たちはいい加減にしておけ、というのだが三人はやめなかった。
 王子にそれぞれついている幻獣たちも、子供の遊びとそれをたしなめる事はない。
 人前では仲が悪いといった演技をごく自然に行い、あとで秘密の場所にてその日のことを話して笑う。
 そんな毎日だった。
 そこへ、転入生が来ると聞いて新たな遊びのネタにならないわけがない。
 三人だけが知っている、学園内の秘密の倉庫に三人は集っていた。
「入ってくるのはブランシュって女らしい。貴族の娘だってさ」
「ブランシュ? あー、見た事あると思うな。でも口説いた記憶がない」
「は? お前が? くどいてない?」
「初めてあった子には声かけてるんだけどなぁ」
 第二王子は手が早い。
 それが周囲からの印象で、事実正しい。貴族の夜会に出てはその場にいる女性を口説きまくる。幸いにして、一夜を共にというのは体面を考えてしてないのだが、そこは口説かれた女性たちのプライドの問題。
 共に過ごしたと皆引かないのだ。
 第二王子もそれを否定しない。そして守備範囲も幼女からマダムまで広かった。
 だから覚えはあるがどんな女かまでは覚えていないと第二王子は言う。
 それを聞いて第一王子は印象に残らない、つまらない女なのだなと思った。
 しかし、第三王子はそうではなかった。
「ここって入るの面倒だったよな。魔力査定、試験、面接、身元調査……俺らは身元確か過ぎてそれはなかったけど」
 つまりこの転入には何か理由があるのではないか、と第三王子は言っているのだ。
 言われてみればそうだと第一王子は頷く。
「少し見てみるか」
 良い趣味してるなぁと笑う第三王子に第一王子は口の端あげてみせる。
「ちょっとだけな」
 ちょっとだけ、というのがいかほどか。二人は第一王子の底意地の悪さを知っているからこそ笑うだけだ。
 第一王子は自分の魔力を練り上げて、鳥を生む。それが自分の目となるからだ。
 向かわせるのは女子寮。しかしそこにたどり着く前に、その鳥は落とされた。
 女子寮に向かう外の景色だったはずの視界が、いつも見ている二人の王子の姿になる。
 第一王子は瞬く。こんなこと今までなかった。そして明らかに、何者かが意思を持って鳥を落としたのだとわかる。
 なんだこれはと困惑していると、そっと自分につく幻獣の囁きが聞こえた。
『あのお嬢さんに触れてはいけないよ。御方のお気に入りなのだから』
 幻獣の囁きは自分にしか聞こえないものだ。
 第一王子は自分を気にった幻獣が決して弱いものではないと知っている。それが、へりくだる。
 よっぽどの大物がブランシュという娘を気に入っているのだと知り、一層楽しくなってきた。
「どうした?」
「いや、邪魔された。何かあるって言っているようなものだな」
 だからゲームをしようと第一王子は言う。
 彼女を口説いてものにするのは誰か、と。
 どういった幻獣に好かれているのか、それも気になる。だが、そんな大物に好かれるとはどんな人物なのか。
 それは好奇心だ。
 第二王子と第三王子は突然こいつは何を言っているんだろうと顔を見合わせるが、兄弟の提案だ。詳しく話さないが益はそれなりにある事なのだろうと。
 きっと面白いことになると第一王子は笑って、決まりを作ろうと言った。
「決まり?」
「ゲームはルールがないと、ってことか」
「そうだ。決め事は……みっつくらいでいいか」
 その一、互いの邪魔はしない。
 その二、抜け駆けはしない。
 その三、幻獣のストップには従うこと。
 そう提案したのは第一王子だ。一つ目はわかるとして、あとのふたつはどういう事だと第二王子は言う。
「たとえば、俺が本気になったとする。そんな時に、お前が遊び半分でくっついていたら」
「ああなるほど……抜け駆けとはちょっと違うと思うけど、最悪な気分になるな」
「だから本気になったら言う。そういう雰囲気のやつがいたら行動をひかえるってことか?」
 本気、というのは恋情のことだ。今までそれを抱いたことは、三人にはない。
 だが、誰かが本当に好きになった相手を使ってまでゲームを続けるのは悪趣味だとは思う。
 恋慕を邪魔してやろうとまでは、さすがに思わない。
「つか、今までそういう条件ないけどなんでそんなことふるんだよ」
 ちょっと気持ち悪いなと第三王子は言う。第一王子は、そう言われてなんとなくだと答えた。
 そして最後の幻獣のストップには従うこと、というのが一番違和感がある。
「……幻獣からストップを受ける、ってことがあるってこと?」
「現にさっき」
 その言葉に二人は瞬く。しかし第一王子は詳しくは話していない。
 二人は、第一王子の幻獣が止めたと思っただろう。しかしそうではない。
 それは身を以て体験してほしいと思い、第一王子はそのことを伏せて話した。
「うーん、なんか腑に落ちないけど」
「俺は三つ約束する。お前も守れよ」
 ああ、と第一王子は頷く。
 それから王子たちは色々な話をして、別々にこの場所を出た。
 第一王子、アルベール。
 第二王子、バティスト。
 第三王子、クロヴィス。
 三人の楽しい遊びに巻き込まれることをもちろん、ブランシュはまだ知らない。
 そしてそのせいで、さらなる迷惑を被ることも。
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