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対決
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部屋に戻るとムゥはいない。
どこかにでかけたのかしらと、そわそわするものの帰ってすぐに顔を合わさなくてすんでブランシュは少しほっとしていた。
どんな顔をすれば良いのだろうともだもだしていると部屋の扉が勢いよく、開いた。
「ブランシュ!」
「!」
「ブランシュ、聞いてくれ」
とたとたと近寄ってくる赤い幻獣は、一歩進んで人の形をとった。
何故、今、近寄りながらその姿をとる。
と、ブランシュは逃げたい気持ち一杯だ。
けれど、ムゥがそうさせてくれない。
壁際まで追い詰められて、久しぶりに視線が交わった。
すると、嬉しそうに、幸せそうに。表情とろかせ最上の笑みを、ムゥはブランシュだけに向ける。
息の詰まる、瞬間だった。
「ブランシュ」
名前を呼ぶ声が甘い。
「ブランシュ、目をそらすな」
その声色は甘いのに、切なさを含む。
しかし視線合えば、名を呼ぶ声には幸せが満ちていた。
壁際に追い詰めて、顔の横に手をついて腕の中だ。
逃げられない状況にブランシュは困った。
何故突然、こんな行動に出られているのかもわからない。
「ブランシュ、ブランシュは俺にとって喜びだ、幸いだ。だから俺は共にありたい」
熱を含んだ、ぞわぞわする物言い。
それに感じるのは嫌悪ではなかった。
「ブランシュよ、俺は知ったのだ」
この気持ちは恋だということを。
「俺はブランシュに、恋をしているのだ」
「は? え?」
「恋は、幻獣には、俺にはないものだと思っていた。しかしブランシュはそれを俺に与えた」
これはこんなにも幸せなものだったのだな、とムゥは自然とブランシュの手をとった。
そしてその指先に唇で触れる。
「ブランシュ」
甘い痺れ。ブランシュは硬直し反応できない。
ふわりと柔らかく笑みを向けられ、ごくりと喉がなった。
そこでやっとブランシュは口を開いた。
「め……迷惑……」
「迷惑?」
やっとでた絞り出すような声だ。ムゥは意味が分からないと言うような顔をする。
そこには困惑が滲んでいた。
「俺に、好かれるのは……迷惑だと、言うのか?」
「そ、そう……いや、あの、あの、まって」
待って、とか細い声だ。
何故だどうしてだと言い募り、どうにか言いくるめて認めさせようとする。
そんな気持ちをムゥはとどめて、ブランシュの言葉を待つ。
今、捕まえているのだから逃げられることはない。だから、待てた。
「いきなり、言われるのは……困るわ」
「何故困る」
「どうしたらいいか、わからなくて……その……」
「何故、どうしたらいいか、わからない」
言葉重ねてその想いを紐解くように。ムゥの言葉につられてブランシュは一つずつ答えてゆく。
答えさせられているような気も、しないでもないのだけれども。
「も、もう! ムゥが私をどきどきさせるのが、悪い!」
そう言われて、なんとなく意味を察せないほどムゥも馬鹿ではない。
瞬いて、ムゥは笑い零す。何がおかしいのと睨みあげる視線すらいとおしくてかわいらしい。
これはきっと――期待して、良いのだろう。
しかし、ここで下手になるのも何か悔しい。優位に立ちたいと思ってしまう。
好きであり、愛しいと思う事は間違いないのだがこんな風にもまた思うのかとムゥは自身の心の揺れにも驚いていた。
見上げてくる瞳は揺れている。それを見つめて、楽しくなりふと笑いが零れた。
「……いや、俺は何も言うまいよ」
「な、なによ。そ、その余裕も腹が立つわ」
「なぁブランシュよ、問うても良いか」
するりとその頬を撫で、ムゥは顔寄せる。まっすぐ見つめ合う視線の強さに、ブランシュもそれをそらすことができない。
熱のこもった視線の意味を察せぬほど、知らぬほど、またブランシュも子供ではなかった。
「俺はお前が好きだが、お前も俺を好きで良いのだろう?」
「うっ……」
「今、答えなくてもいいが」
そのうち、いずれ。聞かせてほしいものだ、と――耳元でムゥは囁いた。
ブランシュは息詰まる思いだ。
突然だろう。今までとは違う態度でムゥが迫ってきているようにしかみえないのだから。
そしてそれは、自分の心をわかった上で仕掛けてきているようにしか、思えないのだ。
「ムゥは、とても」
いじわるねとブランシュは笑む。ゆるくやわらかく、ムゥに笑み向けた。
眉は少し下がっており、困っているようだがそれは嫌だからではない。
「ふふ、ブランシュに笑み向けられるだけで俺は幸せだというのにそれ以上を望むのは過分だろうか」
「さぁ? でも私はきっとムゥみたいに素直になれないから」
待っていてほしいとブランシュは言う。
その言葉を紡ぐまでに少し時間があった。ためらいがちに、言って良かったのかどうか探るようにだった。
どうしてそんな風なのか。好きなら好きだと言えばよいと思うが、自分のこの心の在りようと、人の心の在りようが違うこともまたわかる。
ムゥはいつまでも待つと笑うのだ。
「俺は待つ。しかし」
「しかし?」
「しかし、俺はブランシュの言うようにいじわるなのでな」
「!」
きっと素直な気持ちを聞くまでも、いや聞いても、いじわるするだろうなとムゥは言う。
受けて立つわ、なんて。
ブランシュは言えなかった。今でもどきどきしている、上手に自分を扱えないのはわかりきったことなのだ。
「覚悟しておけよ、ブランシュ」
「うっ」
「いとしい――わが君よ」
この想いが、揺らがぬものだと知っている。それはきっと違う時を生きている、ブランシュを喪ったとしても、揺らがないとムゥは思う。
それは、言葉にしないのだが。
お前が一等、大事だとムゥは紡いだ。
どこかにでかけたのかしらと、そわそわするものの帰ってすぐに顔を合わさなくてすんでブランシュは少しほっとしていた。
どんな顔をすれば良いのだろうともだもだしていると部屋の扉が勢いよく、開いた。
「ブランシュ!」
「!」
「ブランシュ、聞いてくれ」
とたとたと近寄ってくる赤い幻獣は、一歩進んで人の形をとった。
何故、今、近寄りながらその姿をとる。
と、ブランシュは逃げたい気持ち一杯だ。
けれど、ムゥがそうさせてくれない。
壁際まで追い詰められて、久しぶりに視線が交わった。
すると、嬉しそうに、幸せそうに。表情とろかせ最上の笑みを、ムゥはブランシュだけに向ける。
息の詰まる、瞬間だった。
「ブランシュ」
名前を呼ぶ声が甘い。
「ブランシュ、目をそらすな」
その声色は甘いのに、切なさを含む。
しかし視線合えば、名を呼ぶ声には幸せが満ちていた。
壁際に追い詰めて、顔の横に手をついて腕の中だ。
逃げられない状況にブランシュは困った。
何故突然、こんな行動に出られているのかもわからない。
「ブランシュ、ブランシュは俺にとって喜びだ、幸いだ。だから俺は共にありたい」
熱を含んだ、ぞわぞわする物言い。
それに感じるのは嫌悪ではなかった。
「ブランシュよ、俺は知ったのだ」
この気持ちは恋だということを。
「俺はブランシュに、恋をしているのだ」
「は? え?」
「恋は、幻獣には、俺にはないものだと思っていた。しかしブランシュはそれを俺に与えた」
これはこんなにも幸せなものだったのだな、とムゥは自然とブランシュの手をとった。
そしてその指先に唇で触れる。
「ブランシュ」
甘い痺れ。ブランシュは硬直し反応できない。
ふわりと柔らかく笑みを向けられ、ごくりと喉がなった。
そこでやっとブランシュは口を開いた。
「め……迷惑……」
「迷惑?」
やっとでた絞り出すような声だ。ムゥは意味が分からないと言うような顔をする。
そこには困惑が滲んでいた。
「俺に、好かれるのは……迷惑だと、言うのか?」
「そ、そう……いや、あの、あの、まって」
待って、とか細い声だ。
何故だどうしてだと言い募り、どうにか言いくるめて認めさせようとする。
そんな気持ちをムゥはとどめて、ブランシュの言葉を待つ。
今、捕まえているのだから逃げられることはない。だから、待てた。
「いきなり、言われるのは……困るわ」
「何故困る」
「どうしたらいいか、わからなくて……その……」
「何故、どうしたらいいか、わからない」
言葉重ねてその想いを紐解くように。ムゥの言葉につられてブランシュは一つずつ答えてゆく。
答えさせられているような気も、しないでもないのだけれども。
「も、もう! ムゥが私をどきどきさせるのが、悪い!」
そう言われて、なんとなく意味を察せないほどムゥも馬鹿ではない。
瞬いて、ムゥは笑い零す。何がおかしいのと睨みあげる視線すらいとおしくてかわいらしい。
これはきっと――期待して、良いのだろう。
しかし、ここで下手になるのも何か悔しい。優位に立ちたいと思ってしまう。
好きであり、愛しいと思う事は間違いないのだがこんな風にもまた思うのかとムゥは自身の心の揺れにも驚いていた。
見上げてくる瞳は揺れている。それを見つめて、楽しくなりふと笑いが零れた。
「……いや、俺は何も言うまいよ」
「な、なによ。そ、その余裕も腹が立つわ」
「なぁブランシュよ、問うても良いか」
するりとその頬を撫で、ムゥは顔寄せる。まっすぐ見つめ合う視線の強さに、ブランシュもそれをそらすことができない。
熱のこもった視線の意味を察せぬほど、知らぬほど、またブランシュも子供ではなかった。
「俺はお前が好きだが、お前も俺を好きで良いのだろう?」
「うっ……」
「今、答えなくてもいいが」
そのうち、いずれ。聞かせてほしいものだ、と――耳元でムゥは囁いた。
ブランシュは息詰まる思いだ。
突然だろう。今までとは違う態度でムゥが迫ってきているようにしかみえないのだから。
そしてそれは、自分の心をわかった上で仕掛けてきているようにしか、思えないのだ。
「ムゥは、とても」
いじわるねとブランシュは笑む。ゆるくやわらかく、ムゥに笑み向けた。
眉は少し下がっており、困っているようだがそれは嫌だからではない。
「ふふ、ブランシュに笑み向けられるだけで俺は幸せだというのにそれ以上を望むのは過分だろうか」
「さぁ? でも私はきっとムゥみたいに素直になれないから」
待っていてほしいとブランシュは言う。
その言葉を紡ぐまでに少し時間があった。ためらいがちに、言って良かったのかどうか探るようにだった。
どうしてそんな風なのか。好きなら好きだと言えばよいと思うが、自分のこの心の在りようと、人の心の在りようが違うこともまたわかる。
ムゥはいつまでも待つと笑うのだ。
「俺は待つ。しかし」
「しかし?」
「しかし、俺はブランシュの言うようにいじわるなのでな」
「!」
きっと素直な気持ちを聞くまでも、いや聞いても、いじわるするだろうなとムゥは言う。
受けて立つわ、なんて。
ブランシュは言えなかった。今でもどきどきしている、上手に自分を扱えないのはわかりきったことなのだ。
「覚悟しておけよ、ブランシュ」
「うっ」
「いとしい――わが君よ」
この想いが、揺らがぬものだと知っている。それはきっと違う時を生きている、ブランシュを喪ったとしても、揺らがないとムゥは思う。
それは、言葉にしないのだが。
お前が一等、大事だとムゥは紡いだ。
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