皇子の憂鬱

ナギ

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2:憂鬱の本当の始まり

オウサマと次の王

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 ベスティアは、そこに向かうのが憂鬱であった。
 いつも、一日に一時間は彼とあうことにしている。
 連れてきた、次の王である彼と。
 彼が過ごしている部屋は城の中でも少し、はずれたところにある。それは本人がそう望んだからでもあるし、まだほかの者の前に立てる状態ではないからだ。
 14歳という、すでに我を強く持った少年。彼も、この国の王については最低限しっていた。
 色が変わったことに対し、理解もしていた。けれど、それと納得はまた別なのだ。
 それは自分にも覚えのある感情なので、ベスティアは理解していた。
 が、ベスティアは根本的に、彼を苦手としていた。真っすぐ過ぎて、見ているのが痛々しいのだ。
 先王も自分を見て、そうだったのだろうか。いや、違うなと思う。
 自分はもっと、物分かりが良いふりをしていたと思い出して。
 部屋の扉をノックすれば返事がある。ベスティアは入るよと声をかけ、扉を開けた。
「カーティス、調子は?」
「問題ないぜ。熱も引いた」
「そう。文字は?」
「読めるけど書くのは苦手だ」
「僕もそうだったよ」
 カーティス、とベスティアが呼んだ少年は同じような金色の髪、同じような青い瞳をしていた。
 それは猛き『獅子の国』において、王となる者だけが持つ色彩だ。
 ベスティアはカーティスの向かい側に座り、その本を読み終るまで待つと続けた。
 カーティスは頷いて、残りあと少しの、読みかけの本へと視線を戻す。
 文字を追う、その視線はゆっくりだ。カーティスはまだ年若い獅子のようであり、ベスティアはその扱いに困ることがある。
 けれど彼を導くことができるのは、自分だけなのだ。
 ベスティアからみてカーティスは、思慮が足りないと思う。
 思ったらすぐに行動し、自分がそうした時の影響を考えない。すぐ力に訴えようとするところもあるとみているが、それはそのうちなくなるだろう。
 今まで、カーティスが過ごしていた環境を思えば手が先に出るというのは防衛本能でもある。
 彼は貧民街の人たちの盾であり剣だった。皆を守るからこそ、周囲に敵意をまき散らす。威嚇を、行っていたのだ。
 それはベスティアがその貧民街に手を入れて本当に助けると見せ、理解したときにやっと消えたものだ。
 最初にあった時も向かってきて、仕方なく対処し怪我をさせてしまった。
 そしてその傷がもとで熱を出し、やっと回復した。
 ぱたんと本を閉じる音がする。
 カーティスが読んでいたのは簡単な書物だ。子供が読むようなもの。けれど、今まで勉強という事をしたことがないカーティスにとっては難しいものでもある。
「今日の勉強は?」
「ああ。文字の読み書き、礼儀……なんとなくわかってきた」
「そう。政治は……いろいろと面倒だからね。それはおいおい、空気を感じながら教えよう。けれど、何をおいても人の為になることをしたら良い。けれど、すべての言葉を信じてはいけない」
 そこに嘘が含まれることもあるし、誰か一人の利益になるものかもしれない。
 ただ、一時誰かが損をしても、将来的に皆が困らないような、そんなことはバランスを見ながらしなければいけないとベスティアは言う。
 カーティスはなんだそれと眉寄せる。
 ベスティアのいう事は、わかるようでわからない。難しいこともまだ、多いのだ。
「あとはそうだねぇ、最近はあまりいないけれど、国を自分の好きなように操って、利益を得てと考える者もいるから」
「ふーん、そういう相手は、どうしたらいい?」
「その対応の仕方は、それぞれのやり方がある」
「へぇ、じゃあ殺してもいい?」
「それは、よくないかな」
「どうして」
「君の、猛き『獅子の国』の王の振舞いを『かみさま』が見てるからさ。その行いや、やがて自分に、次の王に返ってくるよ」
 はぁ? とカーティスは声を零す。
 それはどういうことだ、と。
 ベスティアは笑って、それもおいおい話そうと紡いだ。
 それは猛き『獅子の国』の、過去の王の罪と。『かみさま』からの罰の話。
 この話を初めて聞いた時、抱いた感情をベスティアはもう覚えていない。
 カーティスはどのような思いを抱くのだろうか、とベスティアは瞳細めた。
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