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しおりを挟む葵の話はこうだった。
花蓮の母親と葵の父親が不倫関係にあった。
葵はある時、二人が逃れようのない事態でいるときにたまたま遭遇してしまった。
自分の父親の相手が親友の母親と知って、葵はものすごい嫌悪感で苛まれた。
父親や花蓮の母親はもちろん、花蓮にすら嫌悪してしまった。
もちろん花蓮は全く関係ないし、そのこと自体知らないだろう。それでも花蓮の顔を見ると、父と花蓮の母親を思い浮かべてしまって気持ち悪くてしょうがなくなった。
葵は、そのことを自分の母親に言うつもりはなかった。
大事な家族を壊したくなかった。
父親が気持ち悪くてしかたないが、このことは自分の胸の中だけで納めておくつもりだから、母親には絶対言わないでほしい。
そして花蓮の母親とはすぐに別れてくれ、と父親に必死になって言った。
父親はそれを受け入れた。
家族関係は表面的には元通りになった。
だけど葵の心は逃げ場を欲して、今にも狂わんばかりだった。
その逃げ場が花蓮だった。花蓮は関係ないと思いつつも、花蓮の顔を見ると嫌悪感が漲ってくる。
このままでは、葵は花蓮を痛めつけてしまいそうだと思った。
もう限界だった。
そして葵が出した結果が、花蓮と距離を置くことだった。
「私は花蓮が幸せそうに笑っている姿が憎くて憎くてしょうがなかった。私だけこんなに苦しい思いをして、あんたもあんたの母親もノンキに暮らしてるなんて許せなかった。」
「…葵…。」
葵は目にいっぱい涙を浮かべていた。
「でも…花蓮は…私の一番の親友。一緒に過ごした大事な思い出がたくさんありすぎて…、だから…離れようと思った。」
「葵…ごめん。葵だけにこんな辛いこと背負わせて…。ほんとにごめん…。」
花蓮の目から大粒の涙がポロポロ溢れ出た。
「悪いのは私なの! 花蓮はなんの関係もないのに!」
「違う! 親友なのに、気づいてあげられなかった私が悪いの!」
二人はしばらく涙を流して、その涙が枯れると、また昔に戻ったように微笑んだ。
「ただいま…。」
「花蓮! どうしたの? 帰るなんて聞いてなかったからびっくりしちゃったわ。」
実家では、いきなり帰省してきた花蓮を見て、母親は驚いていた。
「何かあったの? しばらくこっちにいられるの?」
「…ママ…。ちょっと話があるの。」
花蓮の真剣な顔を見て、母親は何か悟ったように、リビングのソファに腰かけた。
「…葵から聞いた…。」
「…そう。」
「私、高校卒業の時に、いきなり葵から絶交されて、それ以来…私の中で時間が止まったみたいになって…何をしても自分がしてる感覚が無くて…、自分でも自分の事、ほんとにつまらない人間だなって…思うようになってた。」
「…私にとって花蓮は…高校生になってもまだ子供のように思っていて…、話すことであなたを傷つけるんじゃないかと思っていたんだけど、でもちゃんと話すべきだったのね…。」
花蓮の母親はゆっくり話し始めた。
花蓮が生まれてしばらくして、父親の浮気が発覚した。
母親は一時離婚も考えたが、自分一人で花蓮をまともに養っていける自信もなく、そして幼いこの子を片親にさせたくないという理由もあって、離婚を踏みとどまった。
夫は初めから遊びで離婚などする気持ちはさらさら無かったという。
納得はいかなかったが、夫が家庭を壊す気は無いとわかったので、母親はその件はきっぱり忘れようと思った。
そして敢えて父親に親切に振舞った。
しかし、その親切さや、完璧な妻・母親として振舞っている姿に夫はプレッシャーを感じ、しだいに嫌悪感を抱くようになった。
夫は、むしろ取り乱して自分に食ってかかってきてくれたほうがマシだと思っていたが、花蓮の母親は夫のそんな思いなど知る由もなかった。
そうして何年か過ぎ、夫の妻に対する関心も益々薄れ、夫婦とは名ばかりの仮面夫婦となっていった。
それでも花蓮の母親は努力していた。
栄養バランスがとれた完璧な食事。
夫の行動を先読みして準備は怠らない。
子育てはできるだけ自分一人でがんばった。
仕事で疲れた夫を家の中でくつろげるように細心の注意を払った。
そんな妻の努力は全て裏目に出た。
夫は家が窮屈でたまらく感じるようになっていた。完璧な妻の前では自分も完璧でいなければならないと、脅迫のような物を感じていた。
そして何より夫は気づいていた。
妻は俺を愛していない。
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