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2.塩豆大福
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しおりを挟む「綾ちゃん、さっきからずっと塩豆大福を睨んで…どうしたの?」
綾乃の友達の松乃が話しかけてきた。
「ハッ…私ったら…。何でもないのよ!」
綾乃は我に帰った。頭の中には朝からずっと繁充の事ばかりが浮かんでくる。
「何かいい事でもあったみたいね!」
「え?」
「だって綾ちゃん、さっきから顔が真っ赤よ!」
松乃のそう言われて綾乃はとっさに両手で頬を押えた。
転びそうになった時、抱き上げてくれた繁充。
靴紐を変えてくれた繁充。
爽やかな笑顔を向けた繁充。
繁充…繁充…繁充…
「ああぁぁ…頭がおかしくなりそうだわ!」
綾乃はそう叫びながら両手で頭を押さえて立ち上がった。
「…頭が…おかしくなりそうですって?」
隣のクラスの松浦るり子が綾乃に話しかけてきた。綾乃は少し驚いた。同じクラスになったこともなければ、仲が良い訳でも無いるり子が突然話しかけてきたので、二人は困惑した。
「た…大したことでは無いの…。ところで、何か御用かしら、松浦さん。」
「立川さん、ちょっと話があるの。中庭に来ていただけない?」
「私に…話?」
綾乃はるり子と自分の接点が思いつかないが、そう言われたので中庭に行くことにした。
「ちょっと、綾ちゃん! 私、なんだか嫌な予感がするわ…。どうせロクな話じゃないわよ。」
松乃が綾乃に言った。
「でも、断る理由が思いつかないし…。大したことじゃないって言ってるし…ちょっと話を聞いて、すぐ帰って来るわ!」
「大した話じゃないといいけど…。松浦さんって…あまりいい噂聞かないもの…。」
残された松乃は呟いた。
「お話って何かしら?」
中庭のバラのトンネルの中にあるベンチに二人は腰かけた。
「立川さん…縁談を持ち掛けてるんでしょう?」
―何故私の縁談をこの方がご存知なのかしら?
綾乃は戸惑った。
「松浦さん、よくご存じね…。当の私ですら今朝方聞いたばかりだというのに…。」
「その縁談…断っていただけないかしら?」
「…え?」
綾乃はぽかんとした。
「立川さんはその縁談を受けたいと思っているの?」
るり子は綾乃に迫った。
「…私は…その…まだ相手の方も存じあげないし…」
「だったら! お願い! お断りして!」
るり子は綾乃の肩を掴んでいった。
「…でもお父様が…」
綾乃は躊躇していた。
「あなたは何だって持っているじゃない!」
声を荒げたるり子に綾乃は驚いた。
「…もしかして…松浦さん、私の縁談のお相手の事が…」
「そうよ! 砂原さんはずっと私の憧れだったのよ!」
「砂原さん?」
―私の縁談の相手は砂原さんとおっしゃる方だったのね…
「立川さんは砂原さんの事を何とも思ってらっしゃらないのでしょう? だったらこの縁談は受けないでいただきたいの。それとも綾乃さんは砂原さんと結婚したいの?」
綾乃は涙目そうで訴えるるり子が哀れになってきた。
「…それは…」
綾乃は返答に困った。
「綾乃さんは好きでも何でもない方と結婚出来るの?」
「…でも…皆さんそうじゃないの?」
「私は嫌だわ。そんな昔ながらの考え方。綾乃さんもそんな古い考え方をお持ちなの?」
「…私も…本当は…結婚は好きな人としたい…。」
「だったら! お願い! お断りして!」
「…。」
―好きな方と結婚…そんな贅沢が私に許されるのかしら? 好きな方と…
綾乃の頭に今朝出会ったばかりの繁充の事が浮かんだ。
―何であの方のことを考えてしまったのかしら…。どうかしてるわ…。
「とりあえず、私はその気が無いと言ってみるわ。」
「ありがとう、立川さん!」
るり子は綾乃の手を取って感謝した。
「だけどお父様がなんておっしゃるか…。」
綾乃の顔が曇った。
「立川さんが断ってくれれば必ず上手くいくわ! お願いよ! 絶対ね!」
るり子は綾乃の手をぎゅっと握りしめた。
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