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3.おにぎり
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しおりを挟む放課後
「あれ? 綾女は?」
食物部のあかりが聞いた。いつもなら一番先に来ているはずの綾女が今日は見当たらない。
「ラグビー部のヘルプに行ったみたいよ。マネージャーが休みなんだって。」
さくらが答えた。
「という訳で、今日は僕が食物部のヘルプに来ている。」
あかりとさくらの横ににゅっと現れた繁充が呟いた。
「ひぃぃっ! 繁充君っ! いつからいたのっ?」
「しかもエプロンに三角巾までして、やる気満々じゃん…」
二人はドン引きしていた。
「無駄話していないで、さっさと部活動を始めようじゃないか!」
繁充は静かな笑みを浮かべた。
綾女は部室棟の給湯室で大量の米を洗っていた。
―毎日こんな大量のお米を炊くなんて…しかもこれ、全部おにぎりにするんでしょ? 松浦さん、一人で大変じゃん…
綾女は溜息をついた。ふと窓の外に目をやると、ラグビー部の練習風景が見えた。
「おぉ…砂原君、頑張ってるなぁ~。」
砂原がタックルされながらも果敢にトライを決めている。
空はどんよりと曇って、今にも雨が降ってきそうだった。部室棟の中は暗く、廊下も湿気で濡れているような状態だ。
この部室棟は主に外で練習する野球部、ラグビー部、サッカー部と、それぞれのマネージャーが共有しているマネージャー室が入っている。
普段なら賑やかな場所なのだが、今日に限って野球部とサッカー部は他校との合同練習に行っていて、ここには綾女一人しかいない。
…ヒタ…ヒタ…ヒタ…
綾女が廊下を歩いていると、後ろから音がした。綾女はそっと振り向いた。
―気のせいか…
気を取り直して米を研いだ。
…ピチャ…ピチャ…ヒタヒタヒタ…
何者かが歩いてくる音はさらに響いて、綾女のすぐ後ろで止まった。確実に誰かがいる気配がする。
―やっぱり何かいる…
綾女は全身が硬直して動けなくなった。
―きっと部員だよ…忘れ物でも取りに来たのかも…うんうん、きっとそう! 私の事を脅かそうと思ってんのかも…
綾女はそう思い込むことにして、そっと振り返ってみた。
「もう! ビックリするから何か言ってよ~! …え?」
確かに足音はしたし、人の気配はあったのに、そこには誰もいなかった。
―何なの…?
前を向き直して綾女はゾッとした。
部室棟の一番先に女生徒が俯いて立っていた。
「キャアアアアア」
綾女の体は硬直して動けなくなった。
俯いていた女性とはゆっくりと顔を上げた。
そして体を微動だにせず猛スピードでひっくり返っている綾女の目の前にやってきて顔を覗き込んだ。
「…なんであんたがいるの?」
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