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3.おにぎり

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「砂原さんのとこの太郎さん、とうとう出征が決まったんですって…」
夕食の時に母の良子が言った。

―え? 出征…? 何を言っているの…

「だから急に縁談をまとめたのか…。そうか太郎君がな…。」
父は呟いた。

「いつなの?」
ルリ子は聞いた。

「なんでも来月なんですって。」
良子はそう言うと悲しそうに溜息をついた。

―来月… 太郎ちゃんはいなくなる… 私の前からいなくなる…

 ルリ子は目の前が真っ暗になった。

 そして気が付くと太郎の家の前に来ていた。裏手に回り太郎の部屋の窓から中を覗いた。ちょうど太郎が部屋に入ってきた。ルリ子は窓を叩いた。太郎はルリ子に気付いてニコっと笑った。

「何だか懐かしいな。ガキの頃はよく夜中に抜け出して遊びに来てたよな。」
太郎は窓を開け、笑いながらルリ子に言った。

「太郎ちゃん、ちょっと話せる?」
ルリ子は真剣な眼差しを向けた。太郎は頷いて窓から外に出た。



 二人はいつも遊んだ空き地の公園に来た。梅の木の下のベンチに座った。

「懐かしいな。ここでよく悪ガキ相手にケンカしてたよな、俺たち。」

「…そうだね。」

「どうしたんだよ、なんか暗いぞ、おまえ。」

「…。」

 太郎はルリ子の頭をクシャクシャと撫でた。

「…聞いたんだな。」

「…うん。」

「言っただろ、俺。おまえをイジメるやつは絶対やっつけてやるって!」

「…。」

「大丈夫、心配すんな! おまえらをイジメる敵国を俺がやっつけてくるからな!」

「…そんなことしなくていい。」

「え?」

「何で太郎ちゃんがそんなことしなきゃいけないのよ…。行かないで!」

「…ルリ…」

「分かってるよ…そんなこと言っちゃいけないって…。」 

「うん…」
太郎は空を見上げた。

「…太郎ちゃんは綾子さんの事、好き?」

「え?」
太郎の顔が急に真っ赤になった。その様子を見て、ルリ子の心は嫉妬の炎が燃え上がった。

「…その…あの…」
太郎はしどろもどろに言葉に詰まった。

「…何であの人なのよ! ろくに話もしたことないでしょ! ずっと一緒にいたのは私なのに!」

「…ルリ…」

 ルリ子の目から涙が溢れた。太郎はルリ子をじっと見つめた。しばらくの時が流れた。

「…ごめんな…俺…ルリ子の気持ち…気付いてた…だけど…」
太郎はゆっくり話し始めた。


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