約束

まんまるムーン

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 放課後、いつものように旭と類が誘ってきた。

 今泉旭は同じ中学出身で、名前は男のようだが、れっきとした女の子だ。人には媚びない自由人で話しやすいし、同じ高校に進学したこともあって仲良くしている。異性で仲がいいとなると、他人から付き合っているのかと疑われることも多いが、お互いそんな気持ちは全く無いので気が楽だ。

 木下類は、高一の時に同じクラスになって最初に座った席が前と後ろで、向こうから話しかけられた。類なんてフランス人みたいな名前の割には顔が和顔で、愛嬌があってイジラレキャラなのでみんなから愛されている。


 俺の通っている学校は、私立の共学校で、昔は男子校と女子高に分かれていたらしい。少子化対策の為に学校は生き残りをかけて男女共学にし、制服をオシャレにして、学校名も田原西高校から望みヶ丘学園高校なんていうドラマに出てきそうな名前に変えた。そんな安易な事で生徒がたくさん来るのかね?と思いきや、これが大当たりして、生徒数はうなぎ上り。偏差値も上がった。金回りが良くなったのか、校内も毎年少しずつリフォームして、すごくキレイにオシャレになった。特にトイレはホテル並み。その努力が実り、昔は滑り止め用の高校だったのが、最近は第一志望の高校に変わってきている。そんな我が高校はスポーツが盛んで、いくつかの部活は全国大会にも出場している。入学した時しつこく部の勧誘を受けたが、俺はどうも体育会系のノリが苦手だし、文科系の部も大して興味をそそられる物が無く、結局部活には入らなかった。旭と類も同じような理由で部活に入っていない。

 暇人三人は、バイトが入ってない日の時間を持て余している放課後、なんとなく集まるようになった。俺たち三人は、たいてい駅裏の「横綱」というお好み焼き屋に行く。商店街に階段だけの入り口があって、そっけない看板が立っている。階段を上がって二階が店で、入り口すぐ横はカウンター席になっていて、その前で店員が調理している。商店街沿いは、ドアの無い簡単な壁で仕切られた座敷の個室が何個かあって、窓から通りを見渡せるようになっている。オシャレさは全くない店だけど、妙に落ち着くし、別に恋人を連れてくる訳では無いので、むしろこれくらいの方が俺たちにとっては居心地がいい。
 
 俺たちはいつものように一番奥の個室を陣取った。
「みんないつものでいい?」
旭が聞いてきたので、俺と類は頷いた。
「オムそば3つとコーラ3杯お願いします。」
旭が注文した。
「で?おじいちゃん、無事に施設に入居したの?」
旭はヘアゴムを取り出して、髪を後ろでまとめながら聞いてきた。
「うん。なんか…いざ離れるとなると、じーちゃん寂しがるかなと思ってたんだけど、全然そんなことなかったんだよな。」
「おまえの方が寂しかったんじゃないのか?」
類がにやけながら言った。
確かにそれはあるかもしれないと思った。うちは俺は小さい頃から両親共働きで、俺は祖父母に育てられたようなもんだった。ばーちゃんが亡くなってからは、じーちゃんが一番の話し相手であり、理解者だった。
「向こうでじーちゃんと二人になったときさ、変な頼まれ事されちゃってさ…。」
俺は二人にじーちゃんからの頼みまれ事の話をした。
「なに、その人、乃海のじーちゃんの初恋の相手なの?」
類がニヤニヤしながら聞いた。
「じーちゃん、可愛くない?」
旭はやたらウケている。
「でも、手がかりが名前だけって、それ無理じゃねーか?」
「役所とか行っても個人情報の関係とかあるし無理だよね。」
「そうだよな~。」
俺はため息をついた。
「じーちゃんと同じくらいの年だったとしたら、もしかしたらもう生きてないかもしれないしね。でも、その人に会いたくてわざわざ隣県の施設に入ったんだろうしな。出来たらじーちゃんの願いを叶えてあげたいな…。」
「でもさ、よく言うじゃん!昔可愛かった子が何十年後かに同窓会で会ったら、すごいオバさんになってて、誰なのかわからなかった…とか。美しい思い出のままにしとく方が私はいいと思うけどな。」
確かに旭の言う通りかもしれない。
「ま、簡単にはいかないよな…。」
俺たち三人は腕組して溜息をついた。

 その時、注文していたオムそばが運ばれてきた。俺たちはこのB級グルメをこよなく愛している。この店には他にもいろんなメニューがあるのだが、焼そばをオムレツのように卵で包んで、その上からお好み焼きソースとマヨネーズと青海苔がたっぷりかかってあるこのB級メニューを結局注文してしまう。

「おまえ、俺たちが男に見えないからって、スカート脱ぐなよ~!」
類が旭に向かって言った。
旭はオムそばに備えて、制服のスカートだけを脱いで下に履いていた体操服の半ズボンになっていた。髪はすでに後ろでキッチリ結んであって、前髪もダッカールで横に止めている。完全に対オムそばの攻撃態勢だ。色気もクソも無い。
「この方が楽なんだよ!いいじゃん、そっちだって女と思ってないんだから!」
類と俺は、腕組をして頷いた。
「ま、あんたらは私の事を女と思ってないだろうけど、今朝ワタクシ、他校の生徒から告白されました!」
三人の間に一瞬沈黙があった。
「え…ドッキリとか?もしかして、〇ニタリングがここまで来たか?」
類はけっこう失礼な事を言っている。
「でもさ、実情しらない他人から見たら、旭はけっこうイケてるのかもよ。」
俺がフォローを入れた。
「けっこうイケてるって何だ!かーなーりーイケてるって!知らない男から告白されるくらいなんですけどー!」
旭は自画自賛している。
「で、何て言われたの?」
俺が聞くと旭は、よかろう、私の魅力がわからない愚かなおまえたちに話してあげよう、と言わんばかりに上から目線で話し始めた。
「朝ね、いつもの電車から降りた時呼び止められたの。前から電車で見かけてキレイだな、かわいいなって思ってたんだって。同じ電車で同じ車両に乗るから、運命を感じたらしいのよ、彼は。で、好きです!よかったら俺と付き合って下さい、って…。」
「ま、髪の毛縛り上げて、制服の下は体操服ズボンであぐらかいてオムそば食ってるのを知らなかったら、そう見えなくも無いかもな…。」
類が言った。
「確かに…。で、何て答えたの?」
俺は聞いた。
「よくない。付き合わない。」
「そんだけ…?」
「うん。」
「ひっでー!それ傷つくわ!」
「だって、別に好みじゃないし。なんかけっこうそういうの慣れてそうな感じの人だったし。そー言うしかねーじゃん!」
旭は口を尖らせて言った。
「おまえ、絶対彼氏できねーわ!」
類はその他校生に同情している。
「いや、全然好みじゃ無かったし。付き合うつもり全く無いのに変に気を持たせるような事言う方が罪じゃない?」
旭の言うのも一理ある。
「ま、確かにそうかもな…。」
俺はそう思ったが、類はいまいち納得がいってないようだ。
「じゃ、どんなヤツだったらいいわけ?」
オムそばにがっつきながら類が聞いた。
「ん…、恋愛なんて興味ない人がいいよね。てか女に全く興味が無い人がいいね。恋愛なんてくだらない、くらいに思ってる人。ものすごく優秀で何かに打ち込んでて、他の事には目もくれない、みたいな。」
旭はオムそばをズルズル食べながら言った。
「そんな男、つまんねーだろ。」
類が呆れて言った。
「類よ!おまえはやっぱりアホだな。人間という高度な感情を持った生物の醍醐味という物の楽しみ方を全くわかってないのだな、哀れなヤツよ。いいか!そういう今まで女なんかに目もくれなかった男が、私に会った事によって今までの自分が崩れ去り、君の事が頭から離れない!どうしたらいいんだ…っていう自我の崩壊の過程?私と出会ったことによって知る恋愛の甘美な痛み?何も手につかなくなって悶え苦しむさま?…みないな、そういうのがぐっとくるんだよ!突き刺さってくるんだよ!そういう男だと、むちゃ萌えるんだよ!」
「変態か、おまえは。つか、おまえ相手に自我崩壊する程の恋する秀才男って、ウケるわ!」
うっとり妄想に浸る旭に類は呆れて言い放った。

「今回、運命の相手、とか言われて思ったんだけど、運命の相手って、どう思う?私はね、正直そんな事言われても、んでっ?って思う。だから何なの?って感じしない?運命の相手って、ようするにその人とだったら分かり合えるし相性いいし、全て上手くいくって事なんでしょ?まあ幸せなのかもしれないけど、人間の成長としてはどうなのかな?全て上手くいく相手と全ての事を上手くいかせるのって、そこに学びはあるのかな?簡単すぎて人類の進化が後退しないのかな?」
一人や二人の恋愛で人類の進化の次元まで問題は発展しないと思うけど、まあ、言ってることは無しではないよなと俺も思う。
「俺は憧れるな。運命の美少女とドラマチックに出会って、劇的な恋愛したい。」
類はうっとり妄想している。

運命の相手か…。じーちゃんの探しているその人は、運命の相手だったのかな?
ん!
でも結局一緒になれずにばーちゃんと結婚したんだから、運命になれずじまいの相手だったんだろう。
 
 結局恋愛って、結ばれる前の盛り上がってるまでが楽しいだけじゃないの?
 その後は、相手の嫌なところも見えてきて幻滅していくのがオチだ。
 遊ぶんだったら男友達と遊んだ方が面白いしな。
 女はやたらすぐ、「ねぇ何考えてんの?」とか、「私の事好きじゃないの?」とか面倒くさい事しか言ってこないし、挙句の果てに「男友達と遊ぶ方が私といるより楽しいの?」なんて、うんそうだよ、としかいいようのない事ばっか聞いてくるし、付き合う前から先の事がイメージ出来すぎて、つい二の足を踏んでしまう。。
 俺はドラマチックな恋愛をしたがっている類の気持ちがイマイチよくわからない。
 これって、俺はもう人間として退化してるのか…?

「恋だよ!恋!ドラマチックな恋をするのだ!そうすればおまえのような灰色に濁りきった瞳もレインボーに輝きだすぞ! おい!乃海! 聞いてんのか???」
類が俺の耳元で何か言っている。

はいはい、わかったよ!
恋ね!
…やれやれ…。
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