9 / 71
9
しおりを挟む家に帰ると、父も母も不在だった。そういえば、連休だから温泉旅行に行くって言ってたっけ…。俺はじーちゃんちに行くからたまには夫婦水入らずで行ってくれば?と言ったんだった。荷物を片付けてソファに座ったら、なんだか腹が減ってきた。何か食おうと冷蔵庫を物色していたら類からメッセージがきた。
(暇だから今から行っていい?ついでに何か食わせて!)
(ちょうど何か作ろうかと思ってた。いつでもどうぞ。)
俺は料理をするのがけっこう好きで、類や旭にも時々ふるまったりしている。二人からは、この道に進んだ方がいいなんて言われるから、まんざらヘタくそでもなさそうだ。冷蔵庫にナスと豚肉があったので、それを使ってソーメンを作ることにした。ナスを薄めの半月切りにして、豚肉と一緒に炒める。その時おろしにんにくも入れる。火が通ったら仕上げにゴマ油をひと垂らしして、深めの皿に盛る。そこにおろしショウガとすりゴマを入れて麺つゆをかける。最後にラー油を多めに上から垂らす。後はソーメンを茹でるだけだ。ソーメンを茹で終わったところでタイミングよく類がやってきた。いつの間に話が回ったのか、旭も一緒にやってきた。
「私をのけ者にして自分達だけ旨いものを食べるなんて絶対許さないからね!私は鼻が利くんだから隠し通せるわけないっ!」
旭は持ってきたプリンの袋を俺に渡しながら言った。
「今日の乃海飯は何かなぁ~。」
類はスキップしながら家の中へ入っていった。
「ナスと豚肉のピリ辛つけソーメンでございます。」
俺はテーブルセッティングをして、リビングでゲームをしている類と旭を呼んだ。
二人はナスと豚肉のピリ辛ソーメンを見ると、たちまち目を輝かした。
「やばっ、これ永遠に食べられるって!」
旭はソーメンをズルズル食べながら言った。
「今日も安定の乃海飯だな。」
類も一心不乱に食べながら言った。
二人ともに気に入ってもらえてよかった。俺は人が美味しそうにたくさん食べている姿を見るのが好きだ。二人が言うように、料理の道に進むのもまんざら悪くないかも。でもなぁ、料理の世界は厳しいからなぁ…。
「ソウルメイトとか…ツインソウルっての、どうよ?」
唐突に旭が聞いてきた。
「魂の伴侶とか、もともと一つの魂が二つにわかれた片割れとかいうやつ?」
俺がそう言うと旭はソーメンをズルズル食べながら頷いた。
「おまえ顔に似合わずそういうロマンチックな話題好きだな!ってかさ、俺はもうそのツインソウルってのに出合ったけどね!」
類が自信満々に言った。
「マジで?誰?」
俺と旭は同時に類に聞いた。
「3組の栗原凜っているだろ!あの子と俺は絶対前世から繋がってるソウルメイトだな!」
「何でわかったんだよ?てか、おまえたち付き合ってんの?」
「いや、まだだけど、時間の問題だね。前から可愛いなと思ってたんだけど、俺と目が合うと恥ずかしそうにサっと目を逸らすんだよ!毎回だぜ!絶対意識してるだろ俺のこと!」
「それ…あんたと目を合わせたくなくて逸らしてるだけでしょ。キモって思われてるね!」
「キモって何だ!おまえ言っていい事と悪い事が…。」
「だいたい、栗原凜って、うちの学校のアイドルじゃん!360度どこから見てもいつみても完璧な表情してるんだよ!完全に自分がモテるってわかってるって!そんなモテの将軍相手におまえ如きモテの足軽が相手にされるわけない!」
旭と類はギャーギャー言い争っている。
俺はその間、食器の後片付けをして、まだ言い争いが続いているのを確認してから食後のコーヒーを入れた。コーヒーを持っていくタイミングでほぼ言い争いは終わった。コイツらとの付き合いも長くなると、こういう時間配分も的確になってくる。旭はコーヒーをグビっと飲んで話し始めた。
「魂の片割れとか言ってさ、なんだかロマンチックな響きがするけどさ、おかしくない?もともと一つの魂が分かれて二つの魂になるってことはだよ、それぞれ独立した人格になったってことじゃん。じゃ、なんで生まれかわってまた一つになんなきゃいけないの?そこからまた分かれて魂が細分化して増えていくってならわかるけど。んで、会ったからって何なんだろ?そのパワーで世界に平和が訪れるとかあるんならわかるけど、ただ会ってまた恋愛するだけだったら、人類的にはあんまり意味無くない?」
「ま、そう言われたらそうかもしれないけど、俺とアイツは魂の片割れ、とか聞いたらロマンチックじゃん!うっとりするじゃん!恋愛もより盛り上がるだろ!前世からまた出会うと約束していた二人。輪廻転生を繰り返してもまた必ず君を探す!…めっちゃ良くね?俺と凜の輪廻転生ラブストーリー、即ドラマ化決定だろ!」
類はウットリしている。
旭はそんな類を冷めた目で見ている。
「なんか…昔どこかで聞いたような気がするんだけど…、ひたすら祈りを捧げる人々っていうか集団ってあるらしいよな。それでいろんな災いを本当に避けたりすることもあるらしいって。それで全ての災いが避けられるとは思わないけど、そういう思念のパワーって、俺はあると思うんだよな。もしかしたらツインソウルとかいうのに会わなければいけない宿命があるとしたら、出会うことによって、喜びとか愛とかのパワーがいろんなものにいい作用を与えるのかもしれないよな。」
俺は何気なく言ったのだが、類も旭も妙に納得している。
「それは何となくわかる。日本って特に言霊信仰ってあるじゃん。それもそれに近いのかもね。歴史を勉強しても、何かすごく強い力で何度も何度も宣伝されたことって、いつの間にかそれが本当の事、正しい事って思って、最悪戦争とかに突入したりすることたくさんあったみたいだもんね。現代の私たちから見たら、何でそんなバカなことするんだろって思うようなことでも、より多くの思念のパワーがあると、その場にいるとそう思うようになるのかも。みんなが敵意とか嫌悪とかマイナスの感情を持ってると、そこからまた不安とか恐怖とかいろんなマイナスの感情が生まれてきて、負のスパイラルになって泥沼になるのかもね…。という事はその逆もあるわけだよね。という事はツインソウルだかソウルメイトだか、運命の相手と出会って、超劇的な恋に落ちて愛のパワーを世界中に満たすってのも意味があることかもしれないね!」
旭は鼻息混じりに言った。
「やっぱ俺と凜の愛で世界を救うんだって!」
類はウットリと自分の世界に浸っている。
「…前世からの約束って言えば、昨日じーちゃんのとこに行って昔の恋話聞いてさ、その後そこの職員さんから変な話聞いてさ…。」
俺は類と旭に、じーちゃんから聞いた話と石田さんから聞いた話をした。
「何そのいい話!全米が泣き喚くだろ!」
類は涙と鼻水を垂れ流して、じーちゃんと同じような事を言った。
意外にも旭も目に涙を溜めている。
「私、そういうプラトニックな純愛、突き刺さるんだよね。やばい!乃海のじーちゃんの若い頃、私のドストライクかも!」
「じーちゃん、自我崩壊的な秀才じゃなかったっぽいけどな…。」
俺がそういうと類が転がりまくってウケていた。
旭はそんな類の首を絞めていた。
「俺明日、その大黒堂に行ってみようと思ってる。」
ちょうど都合よく三連休で明日まで休みなのだった。
「え、マジ?俺も行く。」
「おもしろそうだから私も行く。」
こうして、明日は三人でじーちゃんが昔住んでた町にある大黒堂へ行くことになった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
罪悪と愛情
暦海
恋愛
地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。
だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
イケメン副社長のターゲットは私!?~彼と秘密のルームシェア~
美和優希
恋愛
木下紗和は、務めていた会社を解雇されてから、再就職先が見つからずにいる。
貯蓄も底をつく中、兄の社宅に転がり込んでいたものの、頼りにしていた兄が突然転勤になり住む場所も失ってしまう。
そんな時、大手お菓子メーカーの副社長に救いの手を差しのべられた。
紗和は、副社長の秘書として働けることになったのだ。
そして不安一杯の中、提供された新しい住まいはなんと、副社長の自宅で……!?
突然始まった秘密のルームシェア。
日頃は優しくて紳士的なのに、時々意地悪にからかってくる副社長に気づいたときには惹かれていて──。
初回公開・完結*2017.12.21(他サイト)
アルファポリスでの公開日*2020.02.16
*表紙画像は写真AC(かずなり777様)のフリー素材を使わせていただいてます。
Blue Moon 〜小さな夜の奇跡〜
葉月 まい
恋愛
ーー私はあの夜、一生分の恋をしたーー
あなたとの思い出さえあれば、この先も生きていける。
見ると幸せになれるという
珍しい月 ブルームーン。
月の光に照らされた、たったひと晩の
それは奇跡みたいな恋だった。
‧₊˚✧ 登場人物 ✩˚。⋆
藤原 小夜(23歳) …楽器店勤務、夜はバーのピアニスト
来栖 想(26歳) …新進気鋭のシンガーソングライター
想のファンにケガをさせられた小夜は、
責任を感じた想にバーでのピアノ演奏の代役を頼む。
それは数年に一度の、ブルームーンの夜だった。
ひと晩だけの思い出のはずだったが……
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在
一緒にいるのに 言えない言葉
すれ違い、通り過ぎる二人の想いは
いつか重なるのだろうか…
心に秘めた想いを
いつか伝えてもいいのだろうか…
遠回りする幼馴染二人の恋の行方は?
幼い頃からいつも一緒にいた
幼馴染の朱里と瑛。
瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、
朱里を遠ざけようとする。
そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて…
・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・
栗田 朱里(21歳)… 大学生
桐生 瑛(21歳)… 大学生
桐生ホールディングス 御曹司
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる