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しおりを挟むその晩、奇妙な夢を見た。
夢の中で俺は自分を俯瞰で見ていた。自分の行動を自分で見ているのだ。夢の中で俺は詰襟の学生服を着ていた。しかし高校生ではないみたいで、どうも大学生のようだった。柳並木の大通りをレトロな路面電車が走っていた。車はすごく少ない。大通り沿いはたくさんの商店が並んでいて活気がある。高い建物もあまり無くて、空が広い。明治か大正か昭和かわからないけど、どうも昔の日本のようだ。
俺は友人と二人で歩いていた。俺はその友人を田中と呼んでいた。田中がすぐ先の角の本屋に行こうと言っている。探している本があるようだ。田中は本屋に入ると一人で黙々と本を物色していた。俺はその辺に置いてある本をなんとなくペラペラとめくった。そしてふと視線を横にやると、そこには三つ編みの高校生くらいの少女が本を本棚に戻していた。色の白いキレイな横顔で、本を本棚に戻す手がすごく美しかった。その少女の回りだけ空気が澄みきって、時間の流れが違っているような感じがした。俺は今まで経験したことのない胸の高鳴りを感じた。そしてその少女がこっちを見た。そのキレイな目と視線が合ったとき、時が止まったような感覚に陥った。
少女は俺に向かって「何かお探しですか」と話しかけていたようだが、舞い上がってしまって何も理解出来なかった。その時田中が会計に行き、「すみません」と声をかけた。するとその少女は「はい、只今参ります」と会計向かって小走りに去っていった。俺はその場所から動けず、田中が会計を済ませて俺の元へやってくるまで、ずっとその少女を見つめていた。田中とその本屋を出るときも、何度も後ろを振り返ってしまった。田中は俺を見て首をかしげていた。
それからというもの、その本屋の少女のことが頭から離れなくなった。寝ても覚めても考えるのはその少女の事ばかり。俺は完全に腑抜けになった。少女の事を毎日思っていたらもう一度会いたくなって、空いている時間は気付くとあの本屋の辺りをうろうろしている。少女は学校から帰って家業である本屋の仕事を手伝っているようだった。何度も見続けていると、今度は少女と話をしてみたいと思うようになった。しかしいきなり話しかけても怖がられるといけないし、嫌われるんじゃないかという恐怖心もあった。考え抜いたあげく、俺はある案を思いついた。俺は草むらへ行き、毎日のようにそれを探した。
四葉のクローバーを!
そして少女が店番をしている時に、会計のところにそれをそっと置いた。店を出て、離れたところから様子を見ていると、少女が俺の置いたクローバーに気付いた。少女はそれを見て微笑んでいた。気に入ってもらえたようだ。よかった。それからというもの、俺は少女にその贈り物を届け続けた。贈り物の最後と決めていた日、俺は贈り物にメッセージを添えた。
“君のことが好きです。四番橋で待ってます。”
少女は会計台のところへやってきて、メッセージを開いた。そして顔を上げると、店の外に立っていた俺と目が合った。少女は頬を赤らめた。俺は恥ずかしくて目を逸らし、一礼してそそくさとその場を立ち去った。
それから俺は近くを流れる大きな川の四番橋で少女を待った。正直少女は来てくれないだろうと思っていた。しかし少女は来てくれた。息を切らして、小走りにやってきてくれた。俺は気持ちが舞い上がってしまい、自分が少女を呼び出したくせに何を話したらいいのかわからなくなった。少女は頬を赤らめて恥ずかしそうにしていた。
「あ…あの…高橋健二です。はじめまして。」
俺は名乗ることだけで精一杯だった。
「小林由紀子です。私は…高橋さんのこと知ってました。時々見かけてました。四葉のクローバー、嬉しかったです?」
「ほんと?よかった。」
「私、いただいたクローバーを押し花にしてるんです。それでしおりを作ろうと思って。出来上がったら使っていただけますか?」
「いいの?ありがとう。楽しみに待ってる。」
初めて会ったにもかかわらず会話は弾んであっという間に時間がたってしまった。日が傾いてきたので由紀子を家に送っていった。ほんとはもっと一緒にいたかった。送っていく道すがら、夕日が由紀子の髪に当たってキラキラ輝いていた。横にいるだけで胸がいっぱいになった。そして昨日まで話したことも無かったのに、今日別れたた後の寂しさをもう感じている。もしこの先会えなくなってしまうとしたら、俺はどうなってしまうんだろうと思った。
何でこんな子がいるんだろうと不思議な気持ちになっていた。
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