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しおりを挟む仕事が終わって、ミワコたちは化粧直しに余念がない。
「外見に構うだけで頭の中カラッポ。色気づいて気持ち悪い…。あんなのが男をだまして結婚してバカな子供を産んで、ロクに子育てもしないで、その子ら共々社会の悪になるのよ…」
カスミは浮かれるミワコたちを睨みつけた。
「あの子たちだって、相手を見つけるのに必死なのよ。帰りましょ。」
「チカコはほんとに人が良すぎるわね。アイツらなんか、縁を切ればいいのに!」
「今井! ちょっと来い!」
田上部長から大声で呼ばれた。
「これやったのお前か?」
昨日出した発注書だ。
「…はい。」
「おまえ、いい加減にしろよ! 一桁間違ってるぞ! こんな間違い、小学生でもしねーぞ! どうしてくれんだよ!」
「すみませんー!」
私はひたすら謝った。しかし田上部長の怒りは治まらず、みんなの見ている前で私を罵倒し続けた。
「本当に申し訳ありませんでした。今から先方に行って謝ってきます!」
「もういい! お前なんかに仕事任せた俺がバカだった。もうおまえ、何もしなくていい。だいたいお前さ、会社来るのにそのだらしない恰好は何なんだよ! 仕事以前の問題だぞ! 化粧くらいちゃんとしてこい! ったく…」
田上部長は私に失敗の後処理すらさせてくれなかった。そして他の部下を呼んで後処理にかかった。私はその場に立ち尽くした。
「何あれ…。田上のヤツ何様のつもり。自分は絶対失敗しねーのかよ! 人間だから一度や二度の失敗くらいあるだろ! 死ね死ね死ね死ね死ね………」
カスミが私を慰めてくれた。
「あれは完全に私のミスだよ。部長の言うように、私ってほんとダメな人間なの。ミスだって、一度や二度じゃないし…。」
「チカコはほんとに甘いんだから! これ、パワハラだよ! おまけに化粧してこいだなんて、セクハラじゃん! 訴えたらいいじゃん! その前に私がアイツの息の根止めるように呪ってやる! 」
「カスミ…。」
「チカコ、もうこんな会社辞めな! ろくでもない人間しかいないでしょ! ほら、また一人、ろくでもない人間がきたよ!」
化粧直しの終わったミワコが私の方にやってきた。
「チカコ、本当に今日は無理なの? 今からでも、もし気が向いたら一緒に行かない?」
ミワコの心遣いに少し気持ちが揺れた。しかし、ふとカスミを見ると、鬼のような形相をしている。
「…ごめん…。ちょっと気乗りしないんだ。みんなで楽しんできて。」
「…そっか…。ほんとはね、出会いだけじゃなくって…最近チカコ元気ないなって思ってて…さっきも部長、あんな大声でみんなの前に言うことないのにね…。飲んで盛り上がれば気持ちも少しは晴れるんじゃないかな。」
「…ミワコ…」
ミワコの気遣いに涙が出そうになった。でも…体が重くてこれから飲みに行けそうにはない。
「せっかく誘ってくれたのに申し訳ないけど、今日は体調も良くなくて…薬飲もうと思ってるからお酒は…ごめんね。」
「わかった。また誘うから、気が向いたら一緒に行こう! じゃあ、私、行くね。」
ミワコは少し残念そうに手を振って去っていった。私の事、心配してくれていたのに、なんだか悪い気がした。
「わざとらしい! 恩着せがましく哀れな同僚に施しを与えてやるような気でいるのかしら? ほんと性根が腐ってるわね! 私は地味でドンくさいチカコにさえ気遣いしてあげられる美しくて優しいミワコ様って思ってるんでしょうね。チカコ! 騙されちゃだめよ!」
「カスミ! それは言い過ぎじゃない!」
「だからあなたは甘いっての!」
体がまた一段と重くなった。首や肩が凝り固まってる。今から歩いて帰らないといけないというのに、体が動かない。
どっちにしろこんな体じゃ合コンなんて行けるわけ無かった。やっぱり断って正解だったんだ。
「ね、だから言ったでしょ? 私の言う通りにしとけば間違いないんだから! 私はいつもチカコの味方よ!」
「…そう…ね…。カスミはいつも正しいわ。私の事思ってくれる。ありがとう。」
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