ときめきざかりの妻たちへ

まんまるムーン

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「今度さ、皆で会わない? 私、セッティングするから!」
モッコが言った。

「うん! いいね!」
朋美は即答した。

「…あの子も呼んで大丈夫?」
モッコが神妙な顔で聞いてきた。

ーあの子…沙也加の事を言っているのかな…?

「私に気を使う必要ないよ。」
朋美は言った。

「…そう? だって…」
モッコは言葉を濁した。

 朋美と沙也加の関係…確かに朋美は彼女の事が苦手だった。しかし自分が苦手だからと言って、高校時代に同じグループだった子を一人だけ呼ばないというのは大人げない。

―それにしても…沙也加もこっちに住んでるの?

「沙也加もこっちにいるのよ!」
モッコに考えていた事を言われた。

「旦那さんの転勤で、二年くらい前からこっちに住んでるんだって。きさらぎ駅じゃ無くて二駅先の弥生ヶ丘なんだけどね。」

「そうなんだ…。」

 朋美は沙也加との事を思い出して、少し気分が落ちていった。でも高校卒業して何年も経つし、彼女だって大人になっている。昔とは違うかもしれない。そう思って気を取り直した。

「じゃあさ、私が皆に連絡して日程や場所とか決めるから! 今度また連絡するね。」
モッコは言った。

「なんだかモッコだけにいろいろさせちゃって悪いわ。」

「そんな事ないよ。私、今は仕事してないし。まあ、仕事してなくてもする事はたくさんあるけど、それくらいの余裕はあるから気にしないで!」

「…じゃあ、申し訳ないけどお願いするわ。」
モッコは家族の元へ戻っていった。







「朋美~! お腹空かない? そろそろお昼にしようか?」
過去の思い出に浸っている朋美は夫の呼びかけで我に返った。

「あ! もうこんな時間だ…。」
お昼と分かるとお腹が鳴りだした。

「街の探索を兼ねてどこか食べに行こうよ。」
和也の提案で、朋美たちは外食することにした。


 とりあえずレストランの多い駅の周辺めがけて歩いた。

 新しく出来た街だけあって、どこも歩道の幅をたっぷり取ってある。歩道と車道の間には自転車専用の道路もある。その道路沿いには5m感覚で街路樹が植えてあり、木漏れ日が優しく降り注ぐ。

「これだけ木が植えてあると、夏でも日傘が要らないよね…。」
朋美はふと呟いた。

「女性に優しい街づくりって感じだよね。」
和也も感心して言った。

「偶然かもだけど、日焼けにまで配慮してくれたかのような街づくりだし、これだけ広いとママチャリでも安心だし、こんな配慮って企画部に女性が多いか、そんな意見が通りやすい風通しのいい会社なんだろうね!」
朋美は言った。

「俺らも東南に面接受けに行くか!」
和也はニヤっと笑って言った。転職する気なんか、さらさらないくせに…と思いながら、ふと夫から目を逸らし、通りの向かい側を見ると、感じのいいカフェがあるのに気付いた。

「ねぇ、あそこ…良くない?」

「お! いいじゃん。入ろうか!」

 朋美たちはさっき通り過ぎた横断歩道まで戻り道路を渡った。店の前まで来ると、表のテラス席を片付けていた店員さんが朋美たちに気付き

「いらっしゃいませ!」

と、とびきりの笑顔を向けてくれた。

 その男性は朋美たちと同世代くらいだった。もしかすると、この店の店長さんかな…そんな事を何気なく思いながら二人は店内に入った。

 道路に面する壁は全面ガラス張りで、店内は明るかった。壁は打ちっぱなしで、天井も剥き出し。至る所におもしろい形の植物が置かれてあって、落ち着く空間だった。

 そして朋美はパスタ、和也はサンドイッチを注文した。スタッフの女の子は、どうやら入りたてのようで、慣れない端末作業に四苦八苦していた。奥から若い男性が出てきて、その女性のスタッフと交代した。

「大変お待たせして申し訳ありませんでした。」
男性店員は頭を下げた。「店長」と胸のプレートに書いてあった。

「どう見てもあの店長20代前半ってとこだな…。」
席に着くなり和也がカウンターの方を見ながら呟いた。どうでもいい事だったので、朋美は話を半分に聞きながら窓の外の景色を眺めていた。

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