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しおりを挟む「見た感じからいって、てっきり最初の店員が店長かと思った…。って事はあれだな…あっちの店員はかなりの年下から使われているって事だ。」
和也はテラス席の片づけを終えて店内に入ってきた先ほどの感じの良い同世代の男性スタッフについて呟いた。
「そんな事どうでもいいじゃない。別によくある事でしょ…。」
朋美は和也のこんな所があまり好きじゃない。
「俺はただ感心してただけだよ。俺だったら絶対無理だもん。年下から顎で使われるなんてさ…。」
「別に顎で使われてる訳じゃないかもしれないでしょ。それにそんな事、関係の無い私たちが話題にするのは失礼だよ。」
もういい加減こんな退屈な話題は切り上げて欲しいと思ったのだが、和也はまだ食いついてきた。
「きっとあの人、リストラでもされたんじゃないか? 多分バイトだろ…俺たちと同じくらいの年で…。自分だったらって思うと…あぁ怖い! 身震いするよ…。」
ハァ…
朋美は呆れて溜息をついた。
「はいはい、俺は意地が悪いですよ。朋美はお利巧さんだからな…。」
和也は話したい事を遮断されて頭にきたのか、嫌味を言った。
―この人は何でこうなんだろ…
と思った時に、注文の品が運ばれてきた。運んできてくれたのは、例の同世代の男性スタッフだった。
「お待たせいたしました。」
その人は満面の笑みで丁寧に皿を置いた。
「研修中 横田」
その人の胸のプレートにはそう書いてあった。
―すごく感じがいいし、所作も丁寧で綺麗…。こんな人でも和也の言うようにリストラされたりするのだろうか…。もしそうなのだったら…この国はいったいどうなってしまったんだろう…。
その人が本当にリストラされたかも不明なのに、朋美までそんな事を考えてしまった。
―結局、私も人の事言えないって事ね…。
「駅の中にさ、洒落た酒屋を見つけてさ、輸入品のオシャレなつまみなんかも売ってるんだよ。どう? 帰りに寄って買って帰ってさ、夜はワインでささやかな引っ越し祝いをするってのは?」
和也は空腹が解消されたのもあって、さっきまでの不機嫌は無かったかの如く、そんな事を切り出してきた。気持ちの切り替えが速い所はこの人の良いところだ。
「いいね! そうしよ。」
朋美たちは夫婦の時間を満喫した。
モッコ、絵梨、沙也加…そして朋美の四人は、地元でお嬢様学校と言われる小学校から女子大まである私立の女子高に通っていた仲良しグループだった。
ブレザーの制服が増えていく中、彼女たちの学校は頑なにセーラー服を固持していた。
他校の生徒からは、今時セーラー服なんてダサい…と言われながらも、上品な制服は一目置かれていた。
あれから20年…。
―あっという間のような気もするけど、それなりにいろいろあった。みんなどうしているんだろう…。モッコは、私が会いたくないのは沙也加だと思っている。正直、私は沙也加が少し苦手だったけど、それは嫌いという意味では無い。そして会いたくないのは…沙也加じゃない…。
昔の心の傷が少しだけ蘇った。
ふと視線を感じてそれを辿ると、研修中の横田さんと目が合った。彼は朋美に笑顔でお辞儀をした。朋美も笑顔でそれに応じた。
昔の古傷が不意に疼きだした…そんな気持ちが朋美の表情にも表れていたのかもしれない。彼は気遣ってくれるような表情で微笑んでいるように朋美は感じた。
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