恩返しにきた鶴……じゃなくて君

仁星まる

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5.本交際にいけない理由は

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 こんな超絶美形と一度でも出会っていたら、忘れるはずなどできないと思う。でも、どう思い返しても、記憶の中に鶴さんは思い出せなかった。


「……ぼ、僕、人前に出るのが苦手で。この容姿も人に囲まれるのも全部嫌で。引きこもって家で仕事、その、イラストとかデザインの仕事していて。眞知さんの会社のパンフのイラストを頼まれたことがあって、担当が眞知さんだったんです」

「パンフレットのイラスト……ああ!TIZURUさん!?」


 フリーのイラストレーターさん、確かTIZURUって名前だったと思い出す。メールと電話でのやり取りだったけど、丁寧な仕事で、好感度も高かった。


「はい。TIZURU名義でお仕事してます」

「すみません、気が付かなくて」

「……いいえ、当たり前です。最初助けていただいたときに、電話の声と似ているなって気になってお顔を覚えていたんです。そしたらお隣さんだってわかって。表札が『眞知』って出てて、珍しい名字だしもしかしたらって……。ご挨拶をした時にフルネームを聞いて、やっぱりって」


 仕事のやり取りは当然本名でしている。
 声と名前だけで、気づいてくれた。それだけで、『特別』だと言われたみたいで落ち着かなくなる。


「眞知さんは、いつも穏やかで、優しくて、僕を気遣ってくれた。風邪を引いたのを誤魔化して仕事していたとき、電話越しですぐに気づかれて、納期なんてどうにでもなるから休んでって言ってくれて。両親にも誰にもそんな心配されたことなかった。だから、一気に……気になっちゃって……」


 人として当然の対応をしただけなのに。それをそこまで特別そうに言う鶴さんは、両親や他の人からどんなふうに接してこられたのだろうとか、伏し目がちに俯く綺麗な瞳が揺れていて、抱きしめたくなるなんて。自分は一体どうしてしまったのだろう。


「眞知さんを意識したら、もう早くて。好きになっちゃって。でも僕は男だし。諦めなければと思って、お仕事に少し休みをいただいて、心機一転引っ越したんです。そしたら、眞知さん本人と出会ってしまいました。もう、諦めきれなくなって……暴走してしまって」


 TIZURUさんがイラストレーターの仕事をお休みしているのは、SNSを見て知っていた。繊細な絵を描かれる方だから、休みも必要なのだろうかと、少し心配していた。

 原因は、まさかの俺だった。

 

 お試し交際から、本交際にいけない理由は。

 平凡で、地味で、面白みのない自分が、鶴さんの恋人になる自信がなかったから。

 気持ち自体は、もう大分前から持って行かれていて。

 更に怖じ気づいた。

 
 好きになって、離れられなくなって、そこで『面白みのない奴だな』って、振られたらどうしようって。

 昔話のラストだって、鶴だか鳩だかは飛び去って行ってしまったんだし。

 でも──


「好きです。眞知さん」


 真っ直ぐな告白に、泣きそうなくらい胸が締め付けられた。


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