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6.鶴side
しおりを挟む「なんで蒼介は目の色ちがうの?顔も、ガイジンみたい」
「おれ知ってるー!蒼介は本当の子じゃないんだって!フリンでできたフギの子って母ちゃんが父ちゃんに言ってたの聞いたんだ!」
「うわー、お前、いやらしいー!」
子どもの頃、父親が全く自分に興味を持たないこと、母親がいつも俺に憎しみを込めたような視線を向ける理由を、よりによって同級生から知らされた。
色素の薄い髪や瞳。
日本人離れしたくっきりとした顔立ち。
平凡な両親とは似ても似つかない容姿は、周囲の悪意をひとまとめに集めた。
世間体のために離婚しない両親。
子どもに見向きもしないで、互いの仕事だけに没頭する姿は、裕福な暮らしと引き換えに、自分に暗い闇を植え付けた。
父親に少しでも似ていたら。
同級生の家族のように、普通の家族になれたのかもしれない。
他者より整っている顔が大嫌いだった。
平凡で、どこにでもいそうな顔が羨ましかった。
うつむき、顔を隠し、ただ気配を殺す毎日。
一人で絵を描いている時だけが全てを忘れられた。
小さい頃に上手くコミュニティに入れなかった所為か、大人になっても人との関わりが苦手で。両親から離れて独り立ちした後も、ひっそりとイラストを描いて家に閉じこもるような生活が続いていた。
『はじめまして。今回、パンフレットの担当者になりました、眞知諒太と申します。どうぞ宜しくお願いいたします』
スマホのスピーカーから聞こえる、心地よい、低音。ゆったりとした話し方。
コミュ障な自分が、彼となら話してみたいと思うほど、最初から眞知諒太という人間は安心できる空気を醸し出していた。
『TIZURUさんのイラスト、すごく良かったです。上層部にも好評で。あのパターンであと二、三点お願いできますか?』
「は、はい。ありがとうございます」
『優しいラインで、繊細なイラストで、TIZURUさんに依頼して本当に良かったなぁ。また、楽しみにしています』
「っ!!」
いつも、些細なことを褒めてくれた。
眞知さんが喜んでくれるなら、といつもよりも丁寧にイラストを仕上げた。送るときにはいつもドキドキしたりして。
張り切りすぎたのか、体調が少し悪くなった。
けど、締め切りがある。
発注されたイラストと、修正をかけるもの。
二重に見えてきたのは気のせいだと言い聞かせて。
確認の電話を眞知さんにかけた。
『あれ?TIZURUさん、声かすれてます?』
「ああ、すみません。そ、その、少し風邪を」
『えぇ!?大丈夫ですか!こちらの納期はどうとでもできるんで、早く休んでください!』
「え………」
今まで、風邪を引いても、具合が悪くても、放っておかれるのが普通だった。両親も、誰も気にかけてくれたことなんてない。
『今の風邪は油断するとやばいですよ。温かくして、栄養のあるものしっかりとって、ゆっくり休んでください。良くなったら、またご連絡ください。まずはご自身を第一に』
彼の優しい声に泣きそうになった。
自分を大切になんてしてくれる人はいなかった。
こんなにも心配そうに声をかけてくれる人も。
「あ、ありがとうございます」
『はい。お大事にしてください』
夢のような心地で電話を切って。
彼に言われたとおりに、温かくして。ゼリーだけじゃなくて栄養のあるものを意識して摂って。ゆっくりと休んだ。
眞知さんの言うとおりにしているだけで、心がぽかぽかしてくる。
好きだ。
眞知さんが。
早く、良くなったって、連絡したい。
声が……聞きたい。
『TIZURUさん』
そう呼ばれたのを思い返すだけで。
こんなにも幸せだから。
◆◆◆
眞知さんと仕事をして。
やっぱり好きだという気持ちが大きくなっていった。
同性だし。
会ったこともない。
でも、やっぱり、彼の穏やかな空気をスマホ越しに感じるだけで、好きだと思ってしまう。
彼に迷惑はかけたくない。
絶対に。
無事にパンフレットが作成されて。
眞知さんと連絡を取ることもなくなった。
心にぽっかりと穴が空いて、何も手につかなくなる。
これじゃダメだと、環境を変えるためにも引っ越すことにした。
慣れない道で、レンタカーのタイヤが道路の溝に嵌まってしまった。こういうとき、コミュ障の自分はどう助けを求めていいかパニックになりかけた。
でも、こんこんと叩かれる窓。
「タイヤが嵌まってますね。数人で押せばどうにかなりそうなんで、合図したらアクセル踏んでもらえますか?」
毎日、毎日、脳内で再生した声が、聞こえた。
幻聴かと思った。
ニッコリと笑う、平凡な顔をした男の人は、通行人に気さくに声を掛けて、見ず知らずの自分を助けるために車を押してくれた。
「ありがとうございます。あのっ」
「大丈夫ですよ!さあ、行ってください。お疲れ様でした」
手伝ってくれた人達にお礼を言うしか出来なくて。
後続車のクラクションに急かされて、その場を後にするしかできなかった。
まさか、引っ越した先のお隣さんが、助けてくれた彼だったなんて。
彼の名前が『眞知』さんで、あの眞知さんと同一人物だったなんて。
信じられない奇跡が起こった。
僕の顔を綺麗だと言ってくれる眞知さん。
でも、僕は眞知さんの平凡な顔が何より羨ましくて、大好きになった。
コミュ障とか、言ってられない。
全身全霊で、眞知さんに想いを伝えた。
気持ち悪がられるかなって、ビクビクしていたら、なんとお試しでのお付き合いが始まった。
優しい彼らしい返事に、彼の優しさに、とことんつけ込んで。
彼の邪魔にならないように。
有益な存在になれるように。
お天気を送ったり、時事問題を調べたり。手料理を研究したり。
毎日大好きっていう破裂しそうな気持ちを抑えて、眞知さんに好きの代わりにメッセージを送る。
本当は、天気じゃなくて。
値上がりしたお米の値段じゃなくて。
好きです、はやく好きになってくださいと送ってしまいたい。
そんな想いが、決壊するように溢れてしまったのは、彼が同性愛者だとわかって、自分の前に何人かと彼と付き合ったことのある人がいて、その幸運すぎる男達は眞知さんをくだらない理由で振ってきたってわかったから。
自分を平凡で面白みがないと言う眞知さん。
でもそれは、僕が望んで、焦がれて、渇望していたもの。
卑下するものじゃない。
眞知さんの、穏やかで、優しいところは、僕が一番大好きなところ。
知って欲しくて。
気づいて欲しくて。
思うままに感情を爆発させてしまった。
「好きです……眞知さん」
もう泣き落としに近い。ポロポロと涙を流す僕を見て。
眞知さんは、しばらく考え込んで。
「俺も……その、好きみたい……です」
と弱々しく言ってくれた。
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