最古の吸血鬼は眷属と静かに暮らしたい

紅葉

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一章

1話 伝説

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この国には伝説がある。その昔、世界は魔物で溢れ、人々は魔法を使って魔物と対峙し、暮らしていた。

魔物には王がおり、全ての魔物を統べる者として人々から魔王と呼ばれ恐れられていた。
長く続いた人族と魔物との戦いは、流離の予言者が勇者の誕生を予言したことで収束へと近づいていき、誰もが勇者の誕生を喜んだ。

勇者は王族に引き取られ、強く逞しく成長した。十分な力をつけ、国の王女でもある聖女と、国で1番の魔術師。そして、国の騎士団長を仲間とし、魔王討伐に向かった。

数々の難関を乗り越え、誰一人欠けることなく魔王の元にたどり着いた4人は、最終決戦に挑む。戦いは丸一日行われ、最後は勇者の宝剣が、魔王の心臓を貫いた。その瞬間、全ての魔物が死滅し、世界中が魔王の死を喜んだ。

無事に4人で国に帰還し、盛大に民から祝福を贈られた4人は歓喜に溢れる。勇者は聖女と婚姻を結び、このまま幸せな時が続くと誰もが思っていた。

最初に倒れたのは聖女だった。原因不明の高熱と、幻覚、食欲の低下。みるみるうちに美しかった肌は荒れ、痩せ細り、見る影も無くなってしまった。その後、勇者と魔術師、騎士団長も倒れ、同じような症状がみられた。

世界中がこの4人を救おうと奮起し、様々な治療が施されたが、最初に聖女。次に騎士団長。そして勇者が発症から3ヶ月程で命を落とした。

人々は魔王の呪いだと噂し、国から最後の1人であった魔術師の命も失われたと正式に発表があった。人々は悲しみに暮れ、世界中が喪に伏した。そして同時期、吸血鬼と呼ばれる魔人の存在が確認され、世界はまたも混沌とした時代に戻ったのだ。




人々が語り継ぐ様な伝説はここまで詳しくはなく、もっと簡略化し、子供に聞かせる様な場合は勇者一行の死については触れないことが、一般化していた。しかし歴史書には事細かく記されており、学校などの教育機関に通えば誰もが知ることのできた事だった。

異常なほどの回復速度を持つ魔人には魔法での攻撃はほぼ無意味であり、魔法は長い年月をかけ衰退し、忘れ去られていった。

代わりに聖水が生み出され、聖力といった力がごく一部の人間に生まれた。これは魔人(吸血鬼やヴァンパイア)と戦う為に必要とされ、聖水を生み出した教会が必然的に力を持つようになり、今は教皇が世界のトップになっている。














「アル様ーー!!」

「アルフレッド様ー!」

静かな屋敷に体格のいい2人の声が響き渡る。外からは暖かな朝の日差しが屋敷の中を照らし、幻想的な雰囲気を作り出していた。

年中霧に覆われた、深い森の中にあるこの広い屋敷では、どんなに大声を出しても屋敷の外に漏れる心配はない。更には一歩でも屋敷の敷地外に出ると、許された者以外にはその姿を捉える事すらも出来なくなる。

これはこの屋敷の主人が施したもので、現在は忘れ去られた魔法によるものだった。

朝、いつも通り主人を起こしに行くと、そこに主人の姿はなく、2人は顔を合わせて肩を落としていた。主人が部屋を抜け出すことはしょっちゅうであり、今日のような朝の日差しが心地良い時は、決まって庭園のお気に入りの場所に座ってうたた寝をされているのだ。

主人は吸血鬼であり、その眷属である吸血鬼の2人も日光を浴びることで害を被ることは一切無いが、一般的に吸血鬼も夜に行動するものであり、それは本能的に日の光を嫌がるからだ。人間社会に溶け込んでいる吸血鬼は日中に行動するが、好き好んで日光浴を楽しむ吸血鬼なんて世界中探しても恐らく私達の主人しかいないだろう。

2人は足早に庭園の方に向かう。主人に合わせて日中に行動をしてきた2人は、今では日の光に完全に慣れていた。それでも主人のように日光浴をしたいなど微塵も思わないが、2人はそんな吸血鬼らしからぬ主人が大好きだった。

庭園に着くとすぐに主人を見つけることができる。いつも通り庭園のベンチに座り、目を瞑って日の光を浴びていた。人間だったの時よりもかなり良くなった視力は集中すれば主人の艶やかな漆黒の髪の一本一本までよく見える。

「おはようございます。アルフレッド様ーー。」

眷属の1人が、優しく穏やかな声で自分たちの主人に声をかける。

ゆっくりと目を開けた主人は吸血鬼特有の赤い瞳を覗かせながらこちらに振り向いた。

「やぁ、おはよう。ギル、ノア。」

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