ミスリード役のワガママ小物王女は、ひねくれた不憫系ラスボスを懐柔したい

いずみ

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初心者のステップ

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最低限の挨拶を交わしていると、音楽がゆったりとしたダンスソングへと切り替わった。

「あら、曲調が変わりましたね。身分が高い者から踊らなければいけないので、最初の一曲だけは踊りましょう」
「……ダンスは、二年前に還俗した際に無理やり覚えさせられた初心者向けのステップしか知らず、姫様に恥をかかせるかもしれません」

(あら、意外とそういう事を気にするのね)

 私は少しおかしくなって吹き出して笑うと、不快そうにコークスの眉根が寄った。

「ふふ……っ、笑ってごめんなさい。でも、きっと問題ありませんわ。私と卿が踊れば、ただそれだけでホールは華やぎますもの。誰もステップの事なんか見ていません」

 私は渋るコークスの手を軽く引っ張っていき、無理やりホールの真ん中を陣取った。
 曲が本格的に始まったと同時に皆も一斉に踊りだす。高位貴族のみが集うとあって、デザインも最先端で惜しげもなく宝石が散りばめられているドレスが四方八方にクルクルと回り、ホール中に華麗な花を咲かせる。

 初めはぎこちない動きだったコークスも、慣れてくるとリードをきちんととってくれて格段に踊りやすくなった。

「ジルコニア卿、とってもお上手ですわ」

 私は踊っているうちに本当に楽しくなっていた。そんな私を眩しそうな目でコークスは見つめている。

「貴女は、本当に変わったのかもしれませんね」
「……何かおっしゃいまして?」

 思わず言ってしまったという言葉をわざわざ拾うのも野暮だと思い、わざと聞こえないふりをした。

「いえ……僭越ながら姫様にお願いがございます。ぜひ、今夜だけは、私を名前で呼んでいただければ嬉しいです」

 想定外のコークスの提案に私は瞠目して彼を見上げた。私の事を揶揄っているのかとも思ったが、コークスは優しい瞳を私に向けていてなんだか気恥ずかしい。

「はい、もちろんです。コークス、と呼んでも?」
「──ッ! ……はい。では、私もガーネットと」

 コークスの耳を興味本位でチラリと確認すれば、やはりほんのり赤付いていて、彼も照れながらも歩み寄ってきてくれていると感じた。
 頑ななコークスの信頼を少しは勝ち取れたようで、私は嬉しくなって思わず微笑むと珍しくコークスも微笑み返してくれる。一方的なモノではなく、他人と心を通わせるというものは、私の思っていた以上に素晴らしいものだった。

 このダンスが終われば、いよいよあそこへ向かう。
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