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12歳
邂逅
しおりを挟む「あ、とりささみうまっ!」
「ね!ビール欲しい」
とても12歳の会話では無い。
私とカテリーナは今日は特に暑いのでドレスも簡易的なものにして長椅子に寝転がって駄弁っている。令嬢としては完全にアウトだ。
ミレイユはキチンと座ってはいるがロベルトの膝の上にいるので同じくアウトだろう。
万が一メイドが見にきても幻影魔術でちゃんと座ってお茶会をしてる様に見える筈だ。氷魔法と風魔法でこの部屋は涼しくしてあるので過ごしやすい。
ふとロベルトが何かを察知した様に険しい顔をしてドアを見た。
私達三人もドアを見るが特別何か変わった様子はなかった。
そう思った瞬間私が重ね掛けしていた魔術結界がビシビシと音を立てて崩れていった。
「は……?え、あれ?! なにこれ!」
慌ててかけ直そうとするが魔法が上手く展開できない。
ーーーーこれって………
カテリーナとミレイユに目配せしてる時にバタンッとノックもなく応接間の扉が開いた。
そこにはジークともう一人知らない青年がおり、真ん中に姿絵だけしか見たことがなかった人が立っていた。
蜂蜜色の柔らかそうな髪に空色の瞳で一見柔和そうに見えるとても整った顔をした少年が立っていた。
「ーーやぁ、こんにちは。僕の婚約者殿」
ニコリと可愛らしく微笑んだ少年の目は全く笑っていなかった。
私達三人+一人は慌てて最敬礼を取り挨拶をする。
なんで?!なんで彼がくるの?!
彼こそ私の婚約者にして、私にとっての歩く死亡フラグ。
アレクセイ・ネオ・アルマース。我がアルマース王国の第一王子だ。
カテリーナがヒソヒソとバレない様に日本語で話しかけてきた。
『ジークと殿下の隣にいるの、私の兄だわ』
「!!!」
カテリーナは風魔法で器用に私にだけ届く様に話しかけたはずなのに、まだ距離のあるアレクセイがそれに反応し、くりくりした目をこっちに向けた。
「おや、今何を話してるのかな?」
ニコニコと読めない表情でゆっくりと近づいてくる。
殿下は私の目の前で止まると両手で私の顔を包み上に向けさせた。
頭一つ分近く彼の方が身長が高い。しかしまだ顔立ちにあどけなさが残り、掌も子供らしく柔らかい。美しい二つの双眸が私の碧の瞳と合わさる。
ーーーーすごい。茜色に飲まれそう。
あれ?殿下の目の色って茜色だったっけ?
「ねぇ、イザーク。さっき彼女達はなんて話してたの?」
私の顔を持ったまま、後ろにいるイザークと呼ばれた神経質そうな青年に話しかける。アレクセイの瞳は空色に戻っていた。
「……カテリーナが『あれは私の兄だ』といっておりました。恐らく私とオリヴィア様には面識がなかった為、説明したのかと……」
「あぁ、なるほどね」
私から目線を逸らさず殿下は宣う。
私の目は今恐らく激しい動揺で見開き、揺れているだろう。今すぐこの手を振り解いて逃げ去りたい。
しかし彼の能力は恐らく私よりも遥かに上だ。魔力も、頭の良さも……全く逃げられる気がしない。
誰だ、オリヴィアが万能って言ってた奴。
訳の分からない事への恐怖で体がカタカタ震える。
最早恐慌寸前の私を見兼ねたイザークが口を開いた。
「殿下………お戯れが過ぎます。あまり不必要にからかうと婚約者様に嫌われますよ」
から…かう?
チラリと目を合わすとアレクセイから先程までの剣呑な雰囲気は霧散しており悪戯が成功した様な顔をしていた。
「だってさ、君全然僕に会いにきてくれないのだもの。少し位お仕置きしないと……ねぇ?」
そうなのだ。私は幾度となく殿下からの招集を体調不良を理由に断りまくっていた。
その弊害でまさかこんな事態を引き起こすとは……
思わず恨めしげに目の前の殿下を睨むと彼はとても………とても楽しいおもちゃを見つけた子供の様な顔をしていてなんだか背筋がゾッとした。
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