Varth統一戦史

神無海ユキ

文字の大きさ
10 / 50

第10話   イニシエーションデータ  ユミ・クロラル

しおりを挟む
ユミ・クロラルのイニシエーション資料   文責レーゼ  


Q あなたの生い立ちについて教えてください

ユミ「あいつ」(母親のこと)はクズ野郎だった。

 今風の言葉を使うなら、育児放棄、ってことになるんだろうけど、そういう段階に達してないって感じだった。育児放棄っていうと、育児する能力はあるけど見捨てたってニュアンスだけど、あいつはそういうことではなくて、単純に子供を育てるという能力が無いという感じだった。自分の面倒も見れてなかった。
 
 意思、ってのは選ぶってことだとワタシは思う。能力的に選ぶことが出来ないならそれは意思じゃない。選択肢が一個しか無かったら意思の働く場所がない。
 
 あいつは突然失踪していなくなったりは日常茶飯事、働くことも満足に出来ず、カラダを売ったり、騙されたり、借金をしたり。とにかくダメ人間だった。
 たったひとつだけあいつに感謝するべきところは、ワタシをカワイク生んでくれたことだ、あいつは、まぁ、美人ではあった、顔だけは良かった。それだけは認めよう。父親は誰かわからない、たぶんあいつも知らないだろう。金髪で青い目の人間だと思われる、あいつは茶髪でブラウンの目だったから、ワタシの髪の色と目の色は父親譲りのものだ。

 別に不幸自慢がしたいわけじゃない、別にワタシはそこまで不幸せじゃなかった。近所にユキの家族が住んでいて、ワタシはほとんどずっとユキと一緒に生活をしてた。
 ユキはパーフェクト超人だった、コミュ力MAX、勉強も出来る、友達も多い、誰にでも好かれる、運動も出来る、弱点がまったくない、完璧超人。ワタシみたいな親ガチャ失敗してる超面倒の塊みたいなやつを拾って家族同然の扱いをしてくれたのもユキの能力の証明だ。

 あいつはいつものように蒸発して、エクスの名も知らない田舎町でギャングに殴られて死んだとかいう話を後で聞いたけれど本当に何も思わなかった、涙一つでなかった。涙一つ出ない自分にちょっとだけ驚いた。

 けれどユキが高校三年で自殺して死んだ時、世界が歪んだ。意味がわからなかった、今でも意味がわからない。ユキが自殺する理由なんて一つも無い、まったく何一つ思い浮かばない。まったく理解不能だった。世界は理不尽だ。
 ワタシの世界はガラガラと崩れ去って、本当に呼吸するのも困難という状態だった。生きてく理由がない、続ける理由が無いと思った。その時思い知ったのはワタシはあいつの子供だってことだ。
 あいつと同じようにひとりぼっちだと何もできない、ユキがいてくれたからちゃんとした人間みたいなフリをしてきたけれど、1人になったら、あいつとまったく同じだってわかった。
 とりあえず絶対に子供だけはつくるまいとピルを爆買いした。自殺する気力も無かった。自殺するには気力が必要なんだって知った。全てに絶望して無気力になったから自殺したってのは嘘だ、無気力になったら死ぬことも出来ない。死ぬには気力がいる。老人や精神異常者、知的障害者は自殺しない、その気力が無いから。

 そんな状態のワタシがベッドでカタツムリになっていると、たまたまモニターにΩーGEARの世界大会の模様が映し出された。見逃さないようにタイマーをつけて置いたから。
 「エアレス」が戦っていた、一瞬で目が奪われた。これが天啓を受けるってことなんだと思う、カッと目が開いた。感動したとかプレイングスキルに驚いたとかそういうことじゃない、その頃はワタシはまだGEARには手を出してなかったからそんなの全然わからなかった。 

 初めに抱いた感想は、疑問
「なんでこの人はこんなに怒ってるんだろう?」
 
人はこんなに怒ることが出来るのだろうか?って思うくらい、たかがゲームで戦ってるだけのことなのに、その裏にいる人間の怒りがこっちにもビシビシと伝わってきた。
 世界を燃やす炎、そういう感じだった。さっきまで完全な無気力植物人間だったワタシを地獄の業火で焼き払っていった。絶対にこの人に会わないといけない、そう思った。そんな事思ったのは初めてだ。その日からワタシはガッツリゲーマーになっていた。生活のすべてをゲームに注ぎ込んだ。
 そしてワタシには才能があったらしい、WORLD GEARの世界チャンプになれた、けれど「エアレス」は第三回大会を最後に姿を消していた。世界チャンプになったらSaint社を問い詰めて「エアレス」の情報を聞き出そうと思ってたけれど、Saintの方から逆に連絡が来た。

 簡単に言うと
「世界革命を起こすから手伝わないか?」
 っていう信じられないオファーだった。GEARの軍事利用って噂はたしかにあったけど、そんなの都市伝説だと思っていたので、面食らった。でもソアラもその革命に参加してると知って、即決した。
 そしてちょっと納得した、なるほどあの怒りは、本当に世界を燃やしてやる、っていう怒りだったのか。そういう規格外のことをやろうとする異質な人間ってのは本当にいるんだ、歴史の中だけの話だと思っていた・・・
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...