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第24話 ヴェインランドの記憶
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カナビス
島が沈んでから、オレとデヴォラ、シャンブルズのヤロウはヴェインランドへと移住することになった。
ヴェインランドは移住先としては完全にハズれだ。国際移民条約にヴェインランドが含まれているのが間違いだ、ヴェインランドは国家じゃない、砂漠だ。
移民船のボートは上陸するのも拒んだ、こっから泳いでいけというわけだ。港、といってもただの砂浜でそこには何もなかった。ただギャングを載せた車が出迎えてきて、男のガキどもをしたたかぶん殴って、キレイな顔立ちの女をさらっていった。デヴォラももちろんさらわれた。オレたちは何も出来なかった。あまりにも異文化の出来事だった。初日からヴェインランドの洗礼を浴びたというわけだ。
デヴォラとはその後一度も会えなかった、どうなったのかは考えたくもない。おれはぶちのめされたが、車のナンバーだけは絶対に覚えておこうと思って、爪で身体にそのナンバーを刻んでおいた。生まれて初めてのタトゥーというわけだ。
その後も地獄だった、水一滴を手に入れるのも一苦労だった。移民してきた人もバタバタ死んでいった。オレはとにかく協力するしかないと説得して、自分たちのギャングを作った。シャンブルズのヤロウと協力するのは癪だったが選択の余地は無かった。
ヴェインランドの最大のスラムは「デッドエンド」、世界の果てという名前だ。スラムじゃないところが無いのだからスラムではないのかもしれない。ただどこまで延々と続き、デッドエンドの構造は誰も知らない。昨日あったものが無くなっているし、一晩の間にごっそり入れ替わったりする。
闇に乗じて盗みや略奪を繰り返しなんとか生き延びていった。だんだんとソレイユの勢力図も把握していった。その頃のヴェインランドは最悪の中でも最悪の状態で、警察所の前で女の子がレイプされていても誰も何も言わないという有様だった。政府というか軍隊のクソどもと政府シンパのギャング「ホワイトヘブン」、あるいはただ単にヘヴン、反政府のギャング「バイパー」この2つの勢力がえんえんと終わらない抗争を繰り広げていた。
バイパーのほうはドラッグや人身売買などの闇の商売で、ヘヴンは政府の特権を生かした権利ビジネスをやっていた。ようするにどっちもクズだった。
正面から戦ったところで勝てるわけもない、内部から食い破るのが一番簡単だ。オレは政府ギャングに、シャンブルズは反政府ギャングの殺し屋にいつのまにか収まっていた。
依頼された人間も始末したし、オレを殺そうとする人間も殺した、さらにその一方で秘密裏に組織内の人間も消しまくった。デヴォラをさらった連中は1人も残さず消した。
暗殺屋という仕事は、その人間に独特の匂いというかオーラをまとわせるらしい、誰一人まわりに集まってこなくなった。「人食い狼」なんてありがたいあだ名も頂戴した。
不思議とその頃のことはなんにも覚えていない。どんどん無感動になっていくのだ、何も感じないし何も記憶に残らない。明日には今自分が殺したように、自分も食用牛のように殺されるんだと思うと、記憶する、なんて無駄な行為はしなくなるらしい。なにを食っていても、何の味もしない。
オレが生き残れたのは運が良かったからだ。運、それ以外になにもない。どんな人間だって眠るし、眠ってるところを攻撃されたらひとたまりもない。誰が裏切るかもわからないし、オレを狙ったんじゃない流れ弾に当たることだってある。射撃の上手さとか、身のこなしとか、そんなことはほとんど関係無い。腕が立つからといって生き残れるわけじゃない。なんだか嫌な感じがするからアジトを変えてみたり、気分が乗らないから決行の日を変えてみたり、それが生と死の境界線だ。
この世界は9割以上運だ、人間の努力で変えられることなんて10%も無い。運というよりも、器、というものだって言いたい。くだらなそうなやつはやっぱりくだらない死に方をするし、選ばれたやつは、マシンガンの前にふらふら歩いて行っても傷一つつかない。
宗教にハマる人間の気持ちがよくわかる。すべてが運で決まるなら努力する気なんてなくなる、古代の武将とかがしょうもない占いとかをやった気持ちが非常によくわかる。
宗教なんて嘘っぱちの詐欺だと思っていた。でもそれは誰かを救うための嘘だ。嘘で誰かが救えるならそれでいいじゃないか。誰かを救ってやろうという気持ちがある、それが大事なんじゃないのか?善意があること、それが一番大事なのじゃないか?
真実の為だ、科学の為だ、そのために勉強しろ、努力しろって偉そうな連中は言う。そしてやつらの努力と勉強の最大の結晶が水素爆弾だ。本当にそんなものが作りたかったのか?そんなものを作るために今まで努力してきたのか?こんなもののために毎日働いて、その結果がこれなのか?なら勉強や努力なんて一つもしないほうがマシだ。科学や知識は善意、を人間に与えはしない、むしろ賢くなればなるほど、権力と同じようにそれを持った人間を傲慢で横柄で愚劣にする。
死んだ後にも天国がありますって嘘をついて、助かる見込みがない、死ぬのが怖くてたまらないヒトを安心させてやるほうがよっぽどマシだ。もう死にそうなやつに他に何が言える?真実なんてなんの役にも立たん。
生きていくにはなにか希望が必要だ。だんだん明日がよくなるとか、なんでもいいから。じゃないと何も手に付かない。なにもする気にならない、何も考えれない。ただ言われたことをやるだけのマシーンになってしまう。その気分はテレビで水爆の実験を見たときと同じ気分だ。あるのは自分の無力さの実感と虚無感だけだ。
いつの間にか、オレに指示を出す人間が1人もいなくなっていた。そしてまわりの人間が変な目でオレを見てくる、その時オレがヘヴンの頭になっていたと気づいた。そしてシャンブルズも「毒蛇」というあだ名で同じように、バイパーのヘッドになっていた。
バイパーとガキの人身売買だけは禁止する、という契約を交わした。ガキに手を出したやつは一族郎党含めて血の制裁にする。ヘヴン、バイパーに関わらず全員で制裁を加える。
これでヴェインランドはほんの少しはまともになった。少なくとも大通りの路上で子供がレイプされるってことは無くなった。そのころにSaintに入らないかとレーゼから連絡が来た。
ヴェインランドでオレが学んだことは、人間は自由にさせておいたらまったく動物と同じレベルだってことだ、野生の動物とまったく同じ。そういうやつの頭をかちわって文字通り血反吐が出るまで掟っていうものを身体に教え込まないといけない。人間ってものは痛い目を見ない限り絶対に何も学ばない。自分の身体で傷つかなければ何も理解しない。
弱者には誰も救えない、暴力を背景にした強制、がなければ何も変えられない。オレは人間には何の希望も持ってない。
ただSaintに来てちょっと考えが代わった、ここにいるのは選ばれた天才ばっかりだ、特にレムとソアラは図抜けている。ガキの頃はその凄さがわからなかったけれどオトナになって、レムの知恵の持つ力がいかに強大か思い知った。
ソアラはまったく別のベクトルで異様だ、昔のソアラは無口で全然喋らないやつという記憶しかなかったけれど、久々に会ったソアラはオレやシャンブルズと同じ匂いを放っていた、そして一番やばい種類の匂いがした。こいつには絶対に勝てない、殺される、と思った。オレとシャンブルズが一番それを理解出来るんだと思う。ソアラがあの後どんな人生を送ったのかまったく知らないけれど、桁違いの濃さ、空間が歪むほどの死のオーラを放っていた。
そしてもう1人、天才ゲーマーという触れ込みでユミという普通っぽい、島の子供でもなんでもないやつがいた。普通っぽいのは見た目だけで、妙なテンション、妙な理屈、妙なノリ、すげー変なやつだった。ただ顔はカワイイ。
だんだんユミとしゃべるのを楽しみにしてる自分を見つけた、明日何を言うかな、と眠る前に考える。明日が楽しみ。これより上の希望ってあるだろうか、これが幸せってことなんだろう、明日が楽しみ。希望ってのはこういうことだ。レムやソアラよりもユミが一番信頼出来る。あいつには根っこに善意がある、他人を楽しませたい、笑わせたいっていう善意が、レムやソアラには無い、人間として一番大事な素質だ。
島が沈んでから、オレとデヴォラ、シャンブルズのヤロウはヴェインランドへと移住することになった。
ヴェインランドは移住先としては完全にハズれだ。国際移民条約にヴェインランドが含まれているのが間違いだ、ヴェインランドは国家じゃない、砂漠だ。
移民船のボートは上陸するのも拒んだ、こっから泳いでいけというわけだ。港、といってもただの砂浜でそこには何もなかった。ただギャングを載せた車が出迎えてきて、男のガキどもをしたたかぶん殴って、キレイな顔立ちの女をさらっていった。デヴォラももちろんさらわれた。オレたちは何も出来なかった。あまりにも異文化の出来事だった。初日からヴェインランドの洗礼を浴びたというわけだ。
デヴォラとはその後一度も会えなかった、どうなったのかは考えたくもない。おれはぶちのめされたが、車のナンバーだけは絶対に覚えておこうと思って、爪で身体にそのナンバーを刻んでおいた。生まれて初めてのタトゥーというわけだ。
その後も地獄だった、水一滴を手に入れるのも一苦労だった。移民してきた人もバタバタ死んでいった。オレはとにかく協力するしかないと説得して、自分たちのギャングを作った。シャンブルズのヤロウと協力するのは癪だったが選択の余地は無かった。
ヴェインランドの最大のスラムは「デッドエンド」、世界の果てという名前だ。スラムじゃないところが無いのだからスラムではないのかもしれない。ただどこまで延々と続き、デッドエンドの構造は誰も知らない。昨日あったものが無くなっているし、一晩の間にごっそり入れ替わったりする。
闇に乗じて盗みや略奪を繰り返しなんとか生き延びていった。だんだんとソレイユの勢力図も把握していった。その頃のヴェインランドは最悪の中でも最悪の状態で、警察所の前で女の子がレイプされていても誰も何も言わないという有様だった。政府というか軍隊のクソどもと政府シンパのギャング「ホワイトヘブン」、あるいはただ単にヘヴン、反政府のギャング「バイパー」この2つの勢力がえんえんと終わらない抗争を繰り広げていた。
バイパーのほうはドラッグや人身売買などの闇の商売で、ヘヴンは政府の特権を生かした権利ビジネスをやっていた。ようするにどっちもクズだった。
正面から戦ったところで勝てるわけもない、内部から食い破るのが一番簡単だ。オレは政府ギャングに、シャンブルズは反政府ギャングの殺し屋にいつのまにか収まっていた。
依頼された人間も始末したし、オレを殺そうとする人間も殺した、さらにその一方で秘密裏に組織内の人間も消しまくった。デヴォラをさらった連中は1人も残さず消した。
暗殺屋という仕事は、その人間に独特の匂いというかオーラをまとわせるらしい、誰一人まわりに集まってこなくなった。「人食い狼」なんてありがたいあだ名も頂戴した。
不思議とその頃のことはなんにも覚えていない。どんどん無感動になっていくのだ、何も感じないし何も記憶に残らない。明日には今自分が殺したように、自分も食用牛のように殺されるんだと思うと、記憶する、なんて無駄な行為はしなくなるらしい。なにを食っていても、何の味もしない。
オレが生き残れたのは運が良かったからだ。運、それ以外になにもない。どんな人間だって眠るし、眠ってるところを攻撃されたらひとたまりもない。誰が裏切るかもわからないし、オレを狙ったんじゃない流れ弾に当たることだってある。射撃の上手さとか、身のこなしとか、そんなことはほとんど関係無い。腕が立つからといって生き残れるわけじゃない。なんだか嫌な感じがするからアジトを変えてみたり、気分が乗らないから決行の日を変えてみたり、それが生と死の境界線だ。
この世界は9割以上運だ、人間の努力で変えられることなんて10%も無い。運というよりも、器、というものだって言いたい。くだらなそうなやつはやっぱりくだらない死に方をするし、選ばれたやつは、マシンガンの前にふらふら歩いて行っても傷一つつかない。
宗教にハマる人間の気持ちがよくわかる。すべてが運で決まるなら努力する気なんてなくなる、古代の武将とかがしょうもない占いとかをやった気持ちが非常によくわかる。
宗教なんて嘘っぱちの詐欺だと思っていた。でもそれは誰かを救うための嘘だ。嘘で誰かが救えるならそれでいいじゃないか。誰かを救ってやろうという気持ちがある、それが大事なんじゃないのか?善意があること、それが一番大事なのじゃないか?
真実の為だ、科学の為だ、そのために勉強しろ、努力しろって偉そうな連中は言う。そしてやつらの努力と勉強の最大の結晶が水素爆弾だ。本当にそんなものが作りたかったのか?そんなものを作るために今まで努力してきたのか?こんなもののために毎日働いて、その結果がこれなのか?なら勉強や努力なんて一つもしないほうがマシだ。科学や知識は善意、を人間に与えはしない、むしろ賢くなればなるほど、権力と同じようにそれを持った人間を傲慢で横柄で愚劣にする。
死んだ後にも天国がありますって嘘をついて、助かる見込みがない、死ぬのが怖くてたまらないヒトを安心させてやるほうがよっぽどマシだ。もう死にそうなやつに他に何が言える?真実なんてなんの役にも立たん。
生きていくにはなにか希望が必要だ。だんだん明日がよくなるとか、なんでもいいから。じゃないと何も手に付かない。なにもする気にならない、何も考えれない。ただ言われたことをやるだけのマシーンになってしまう。その気分はテレビで水爆の実験を見たときと同じ気分だ。あるのは自分の無力さの実感と虚無感だけだ。
いつの間にか、オレに指示を出す人間が1人もいなくなっていた。そしてまわりの人間が変な目でオレを見てくる、その時オレがヘヴンの頭になっていたと気づいた。そしてシャンブルズも「毒蛇」というあだ名で同じように、バイパーのヘッドになっていた。
バイパーとガキの人身売買だけは禁止する、という契約を交わした。ガキに手を出したやつは一族郎党含めて血の制裁にする。ヘヴン、バイパーに関わらず全員で制裁を加える。
これでヴェインランドはほんの少しはまともになった。少なくとも大通りの路上で子供がレイプされるってことは無くなった。そのころにSaintに入らないかとレーゼから連絡が来た。
ヴェインランドでオレが学んだことは、人間は自由にさせておいたらまったく動物と同じレベルだってことだ、野生の動物とまったく同じ。そういうやつの頭をかちわって文字通り血反吐が出るまで掟っていうものを身体に教え込まないといけない。人間ってものは痛い目を見ない限り絶対に何も学ばない。自分の身体で傷つかなければ何も理解しない。
弱者には誰も救えない、暴力を背景にした強制、がなければ何も変えられない。オレは人間には何の希望も持ってない。
ただSaintに来てちょっと考えが代わった、ここにいるのは選ばれた天才ばっかりだ、特にレムとソアラは図抜けている。ガキの頃はその凄さがわからなかったけれどオトナになって、レムの知恵の持つ力がいかに強大か思い知った。
ソアラはまったく別のベクトルで異様だ、昔のソアラは無口で全然喋らないやつという記憶しかなかったけれど、久々に会ったソアラはオレやシャンブルズと同じ匂いを放っていた、そして一番やばい種類の匂いがした。こいつには絶対に勝てない、殺される、と思った。オレとシャンブルズが一番それを理解出来るんだと思う。ソアラがあの後どんな人生を送ったのかまったく知らないけれど、桁違いの濃さ、空間が歪むほどの死のオーラを放っていた。
そしてもう1人、天才ゲーマーという触れ込みでユミという普通っぽい、島の子供でもなんでもないやつがいた。普通っぽいのは見た目だけで、妙なテンション、妙な理屈、妙なノリ、すげー変なやつだった。ただ顔はカワイイ。
だんだんユミとしゃべるのを楽しみにしてる自分を見つけた、明日何を言うかな、と眠る前に考える。明日が楽しみ。これより上の希望ってあるだろうか、これが幸せってことなんだろう、明日が楽しみ。希望ってのはこういうことだ。レムやソアラよりもユミが一番信頼出来る。あいつには根っこに善意がある、他人を楽しませたい、笑わせたいっていう善意が、レムやソアラには無い、人間として一番大事な素質だ。
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