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第2章 1年時 ーハロルド編ー
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「✕✕年、移民の増加により乱れた国の治安を守るために魔法警察が発足し…。」
魔法史の授業は、延々と教科書の内容が読み上げられるだけのつまらないものだった。すでに教科書を一読しているハロルドには、目新しいものが何もない。
授業開始5分で教科書を閉じ、魔法学園の図書館で借りてきた本を開く。ここの図書館は魔法関連の書籍の保管数世界一を誇っており、卒業までに読破するのがハロルドの目標だ。
ちらっと斜め後ろを見る。うとうとと船をこぐ金髪の頭が見えた。ノエル・ボルトンだ。…本当に見ていて飽きないな。
ノエルの隣では赤毛の女学生、コレット・レオンがツンツンとノエルの頬をつついている。彼女は父親は猫族の獣人であり、母親は貴族の血を引く。この国では貴族はプライドが高く、特に同じ魔法族でありながら獣人を毛嫌いしている者も多いから、同期の中では非魔法族生まれのノエルに次いで珍しい生まれだ。
獣人といっても、獣に変身出来たり、体の一部を強化出来たりするだけで、普段から動物の耳や尻尾が生えているような者は、今の時代にはいない。なんとなく色彩が違うのでわかるけど。
どうしてあんなにも忌み嫌うのか、ハロルドには理解しかねる。
反対隣のダコタ・シュメッツはノエルにつられたのか眠そうに目を細めている。シュメッツは平民の魔法族の中で最もメジャーな苗字だ。
建国の時代からルクレツェンにいる一族で、非魔法族とも積極的に縁を結び、一族全体の力を集結したら貴族よりも栄えているだろう。
二人はどうやら寮でノエルと同室だったらしい。初日から仲がいい。…さすがノエルだ。非魔法族生まれという魔法学園では異質なノエルは周りから遠巻きにされるのではないかという懸念があったが、杞憂だったようだ。
見た目にはそこまで異質じゃないというのも理由かもしれないが。
ーーーー
「ハロルドはクラブに何か入るのか?」
ランチ中、寮の同室のナサニエル・ドーリン、ネイトがきいてきた。ドーリン家は7大貴族の一つだ。近親婚を繰り返し、その数は減っており、魔法力・財力も減っている。寮が個室じゃなくて三人部屋なのもそのためだろう。ちなみにハロルドの同室だ。
そして…無駄にイケメンだ。本当に、うらやましい。これぐらいイケメンだったらノエルも僕のこと覚えていてくれたかもしれない。
「特に決めてないよ。」
「ベンは?」
ベンジャミン・コーネルはもう一人のハロルドの寮の同室の学生である。コーネル家は数代前に王家から分家した家で革新的な家だ。
兄二人が優秀で有名で、ベンジャミンはちょっとおどおどしたところがある。キラキラしたプラチナブロンドと輪をかけて色白い肌色のせいで今にも消えそうだ。
貴族の中でも家格の高い三家の子供が同室になったことは魔法学園の配慮がうかがえる。
ルクレツェンの貴族たちは隣国のように爵位で区別されず、7大貴族直系と王家分家が強い権力を持っているのだ。
ちなみに価格も高くお金もある家は子供たちを個室の寮に住まわせている。フィリウス家でもそれはできるのだが、父親の教育方針により、三人部屋でハロルドは寮生活をしている。
「僕も特に決めてない。」
「じゃあ、一緒に”魔法ボート部”見に行こうぜ。」
魔法ボートは大きな湖が多くあるこの地域で貴族の中で人気のスポーツだ。魔法学園で一番メジャーなクラブ活動でもある。貴族・獣人・平民問わないところも魅力の一つだ。
ハロルドはふと横を見て、山盛りのパスタを食べているノエルを見た。
「ノエルは、クラブに入るの?」
「私?”コーラス部”を見に行こうと思っているけど。」
「歌が好きなの?」
「うん。いつかこの美声、聞かせてあげる。」
ノエルはにんまりした。ノエルの向かいにはダコタとコレットがいる。
「私は”新聞部”。もう加入した。」
「え?コレット、いつの間に?私は”飛行クラブ”を見に行くわ。」
「”飛行クラブ”?面白そう。一緒に行ってもいい?」
「もちろん。」
ネイトは女子たちに話を振ったハロルドをジト目で見ている。なぜかネイトはハロルドが女子に話しかけると嫌そうな顔をする。
「そうだ、ハロルドたちにもあの話、したら?」
コレットがノエルを振り返る。…あの話?
「こう見えて、ハロルドってフィリウス家の嫡男なのよ。協力してくれたら影響力すごいわよ、多分。」
「本当?実はね…。」
なんだろう。ノエルの発言だから、きっと面白いことに違いない。
「制服にカーディガンを導入したいの。」
男子三人はぽかんとした。
魔法学園の制服はグレイのズボンまたはスカートに白いシャツ、それに濃いグレイのセーターや黒いローブをあわせる。ネクタイの色は一年生から三年生は共通して黒で、四年生以降は進学する学科に合わせて変わる。
「制服、すごい地味じゃない?せめてカーディガンにしたらちょっと可愛くなるんじゃないかと思うのよね。これがコレットに書いてもらってイメージ画。」
ノエルはカバンから紙切れを出してハロルドたちに見せる。正直、ハロルドにはその良し悪しはわからなかったが。
「担任のミネルバ先生に相談してみたら、賛同者が多ければ導入も可能だって。」
「色も二色、白と黒で。セーターとの差別化をはかるの。」
どうやらノエルが立案して、コレットが案を深めているらしい。本格的に賛同者を集める場合には協力する約束をした。
ーーーー
そんな話をした日の夜、事件は起こる。
三年生の女学生の一人が、突然声が出なくなってしまい、医務室に駆け込んできたのだ。
魔法史の授業は、延々と教科書の内容が読み上げられるだけのつまらないものだった。すでに教科書を一読しているハロルドには、目新しいものが何もない。
授業開始5分で教科書を閉じ、魔法学園の図書館で借りてきた本を開く。ここの図書館は魔法関連の書籍の保管数世界一を誇っており、卒業までに読破するのがハロルドの目標だ。
ちらっと斜め後ろを見る。うとうとと船をこぐ金髪の頭が見えた。ノエル・ボルトンだ。…本当に見ていて飽きないな。
ノエルの隣では赤毛の女学生、コレット・レオンがツンツンとノエルの頬をつついている。彼女は父親は猫族の獣人であり、母親は貴族の血を引く。この国では貴族はプライドが高く、特に同じ魔法族でありながら獣人を毛嫌いしている者も多いから、同期の中では非魔法族生まれのノエルに次いで珍しい生まれだ。
獣人といっても、獣に変身出来たり、体の一部を強化出来たりするだけで、普段から動物の耳や尻尾が生えているような者は、今の時代にはいない。なんとなく色彩が違うのでわかるけど。
どうしてあんなにも忌み嫌うのか、ハロルドには理解しかねる。
反対隣のダコタ・シュメッツはノエルにつられたのか眠そうに目を細めている。シュメッツは平民の魔法族の中で最もメジャーな苗字だ。
建国の時代からルクレツェンにいる一族で、非魔法族とも積極的に縁を結び、一族全体の力を集結したら貴族よりも栄えているだろう。
二人はどうやら寮でノエルと同室だったらしい。初日から仲がいい。…さすがノエルだ。非魔法族生まれという魔法学園では異質なノエルは周りから遠巻きにされるのではないかという懸念があったが、杞憂だったようだ。
見た目にはそこまで異質じゃないというのも理由かもしれないが。
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「ハロルドはクラブに何か入るのか?」
ランチ中、寮の同室のナサニエル・ドーリン、ネイトがきいてきた。ドーリン家は7大貴族の一つだ。近親婚を繰り返し、その数は減っており、魔法力・財力も減っている。寮が個室じゃなくて三人部屋なのもそのためだろう。ちなみにハロルドの同室だ。
そして…無駄にイケメンだ。本当に、うらやましい。これぐらいイケメンだったらノエルも僕のこと覚えていてくれたかもしれない。
「特に決めてないよ。」
「ベンは?」
ベンジャミン・コーネルはもう一人のハロルドの寮の同室の学生である。コーネル家は数代前に王家から分家した家で革新的な家だ。
兄二人が優秀で有名で、ベンジャミンはちょっとおどおどしたところがある。キラキラしたプラチナブロンドと輪をかけて色白い肌色のせいで今にも消えそうだ。
貴族の中でも家格の高い三家の子供が同室になったことは魔法学園の配慮がうかがえる。
ルクレツェンの貴族たちは隣国のように爵位で区別されず、7大貴族直系と王家分家が強い権力を持っているのだ。
ちなみに価格も高くお金もある家は子供たちを個室の寮に住まわせている。フィリウス家でもそれはできるのだが、父親の教育方針により、三人部屋でハロルドは寮生活をしている。
「僕も特に決めてない。」
「じゃあ、一緒に”魔法ボート部”見に行こうぜ。」
魔法ボートは大きな湖が多くあるこの地域で貴族の中で人気のスポーツだ。魔法学園で一番メジャーなクラブ活動でもある。貴族・獣人・平民問わないところも魅力の一つだ。
ハロルドはふと横を見て、山盛りのパスタを食べているノエルを見た。
「ノエルは、クラブに入るの?」
「私?”コーラス部”を見に行こうと思っているけど。」
「歌が好きなの?」
「うん。いつかこの美声、聞かせてあげる。」
ノエルはにんまりした。ノエルの向かいにはダコタとコレットがいる。
「私は”新聞部”。もう加入した。」
「え?コレット、いつの間に?私は”飛行クラブ”を見に行くわ。」
「”飛行クラブ”?面白そう。一緒に行ってもいい?」
「もちろん。」
ネイトは女子たちに話を振ったハロルドをジト目で見ている。なぜかネイトはハロルドが女子に話しかけると嫌そうな顔をする。
「そうだ、ハロルドたちにもあの話、したら?」
コレットがノエルを振り返る。…あの話?
「こう見えて、ハロルドってフィリウス家の嫡男なのよ。協力してくれたら影響力すごいわよ、多分。」
「本当?実はね…。」
なんだろう。ノエルの発言だから、きっと面白いことに違いない。
「制服にカーディガンを導入したいの。」
男子三人はぽかんとした。
魔法学園の制服はグレイのズボンまたはスカートに白いシャツ、それに濃いグレイのセーターや黒いローブをあわせる。ネクタイの色は一年生から三年生は共通して黒で、四年生以降は進学する学科に合わせて変わる。
「制服、すごい地味じゃない?せめてカーディガンにしたらちょっと可愛くなるんじゃないかと思うのよね。これがコレットに書いてもらってイメージ画。」
ノエルはカバンから紙切れを出してハロルドたちに見せる。正直、ハロルドにはその良し悪しはわからなかったが。
「担任のミネルバ先生に相談してみたら、賛同者が多ければ導入も可能だって。」
「色も二色、白と黒で。セーターとの差別化をはかるの。」
どうやらノエルが立案して、コレットが案を深めているらしい。本格的に賛同者を集める場合には協力する約束をした。
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そんな話をした日の夜、事件は起こる。
三年生の女学生の一人が、突然声が出なくなってしまい、医務室に駆け込んできたのだ。
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