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第2章 1年時 ーハロルド編ー

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ハロルドがザラというライバルの存在を認知してから季節が巡り、クリスマス休暇が明け、春が来た。

ノエルはザラに手作りのクリスマスプレゼントを渡していた。ハロルドにはなし。
ノエルはザラと手作りのお弁当でピクニックデートをしていた。ハロルドにはおさそいなし。
ノエルの飼い猫はザラにめちゃくちゃ懐いていた。ハロルドには愛想なし。

今のところ完全に負けている。
ただ、ノエルとザラはこっそり仲良くしていて、二人の仲を知る者は同期にはハロルドしかいなかった。僕が先に公認の仲良しになる。


そんな時、数か月ぶりに学生が声を失う事件が起きた。



ーーーー



「なんで、ザラ・ウォーがいるの!?」

ハロルドはシャーリーに呼び出され、門限まであと数十分という時間に空き教室に呼び出された。あとからノエルが来ると聞いて、楽しみに待っていたら、ノエルは憎きザラを連れて空き教室にやってきたのだ。

「俺もハロルド・フィリウスがいるとは聞いてない。」

ザラも不機嫌そうにノエルを見る。ノエルは潔白ですとも言うように両手を軽く上げる。

「シャーリーに口が堅い獣人の友達を連れてきてって言われたの。」

「コレットでいいじゃん!」

「口なんて、とろけるぐらいやわらかいじゃない。」

あーそれは否定しないけど。

「ノエル、カーディガン活動、盛り上がってるね。署名も大分集まったんじゃない?」

「全校生徒の三分の二に達したわ。目標数を突破したから先生たちに提出するつもり。シャーリーがティナを紹介してくれたおかげだわ。」

「今日はティナも来てるよ。」

ハロルドはぎょっとしてシャーリーを見た。ザラも不機嫌そうな顔でシャーリーを見ている。

「僕のいないところでノエルとあってたの?ティナって?」

「なんでハロルドが怒るんだよ…。ファッションは男子より女子だろう?マックスじゃなくて、その幼馴染のティナを紹介したんだよ。」

シャーリーは教室の壁に大きなドアの絵の描かれた紙を広げた。マジックアイテムの”どこでも部屋”だ。
壁に貼ることで異空間への入り口となり、どこにいても秘密の部屋にアクセスできるというアイテムだ。ちなみにハロルドの父親が立案したもので、セドリック魔法商会にて売っている。セドリックとはハロルドの父の名前だ。

「このドアの向こうにいるから来てくれる?」

そう言ってシャーリーはドアを開いた。ノエルが中を覗き込んで驚いた顔をしている。魔法学園に入学するまで魔法とは無縁だったノエルは色んな事に驚いていて見ていて飽きない。

「ノエル、いらっしゃい!」

中には、丸顔の女子学生が椅子に座ってこちらに手を振っていた。チェス盤を挟んで向かい側には、プラチナブロンドのイケメン男子学生がいる。噂のマクシミリアン・コーネルだ。

「あら、二人ははじめましてね。クリスティナ・コーネルよ。ティナと呼んでね。こっちは従兄弟のマクシミリアン。マックスよ。」

向かいのイケメンが軽く会釈をする。
クリスティナ・コーネル…コーネル家にクリスティナなんていたかな…。

「ハロルド・フィリウスです。」

「ザラ・ウォーだ。」

ザラは少し警戒したように二人を見ている。貴族と獣人は仲が悪いことが常だからだろう。まあ、コーネル家とサフィラ家ならば大丈夫だろう。

「シャーリー、もう三人に裏生徒会について話したの?」

「「「裏生徒会?」」」

「まだだ。今日三人を招待したのは裏生徒会への勧誘のためなんだ。ハロルドは聞いたことあるんじゃないか?」

「あるよ。学園の秩序を守る影の学生組織だよね。メンバー推薦でしか加入できなくてその構成員は一切外部に紹介されないっていう、魔法学園伝説。」

他にも古の魔道具保管庫とか、王城とつながる秘密の通路とか、いろいろある。

「そう。それ。実は学園創立当初から脈々と続いている本当にある団体なんだ。今は俺たち三人と六年生に二人。六年生の二人はほぼ引退してて活動には参加していないから実質俺たち三人だ。」

「学園の秩序を守るって何をやっているの?」

「月に一度の集会で学園の問題を話し合ってるのが普段の活動だね。もし、問題があるなら調査して解決に乗り出すんだ。こっちに最近の議題がある。」

三人はシャーリーの向かいのソファーに腰かけてログノートのような資料を見た。
学園の庭師のぎっくり腰からとある一年生への差別発言、新任教師の素性調査まで多岐に渡っている。そして一番大きな事件として取り扱われているのは、やはり”声”盗難事件だ。

「今年はティナとマックスが第一王女様のお付きで学園にいないことが多くてね。正直俺だけじゃ手が回っていなかったんだ。それで新しいメンバーを勧誘したいって話になってハロルドとノエルを推薦したんだ。
そしたらティナが20年ぶりに獣人のメンバーを入れたいと言い出してね。友達が多いノエルに誰か連れてくるように頼んだわけ。」

シャーリーはザラに目をやった。

「20年前にいた獣人のメンバーもウォー家の人だったな。これも何かの縁かもね。」

ウォー家の人物が裏生徒会のメンバー?ウォー家は獣人一族の中では一番の名門で、魔力も大してないくせに国の政を占拠していると貴族を毛嫌いし、力のない非力な者として非魔法族を見下している。

「そこで、今日は体験入会ってことで集会に参加してみてもらおうってことで呼んだんだ。あとで裏生徒会のメンバーについて公言しないっていう誓約を結んでもらうけど。」

「…嫌だって言ったら?」

「記憶消去してぽいっかな?」

シャーリーはいい笑顔でそう言った。



ーーーー



「今日の議題は”声”盗難事件だ。」

マックスがこれまでの被害者の情報を魔法で部屋の壁に投影した。

「犠牲者は全員女子学生で五年生に一人、三年生に二人、二年生に一人だ。内三人はコーラス部に所属。ソロパートを担当するほどの歌い手だ。現在も被害者は声がでていない。」

投影する画像が切り替わり、本の一ページを示す。そこに描かれているのは長い髪で顔を覆い隠した女性で、腰から下が魚の体になっていた。背には虫の羽のようなものが生えており、爪はとがっている。

「”声”を盗む存在に心当たりはないが、調べたら”歌声”を食べるモーリーンという魔物を発見した。」

「…その魔物僕も知らないんだけど。」

ハロルドが驚いて映像を凝視する。

「これは冒険者からの報告書をまとめた本で、報告例の少ない未知の魔物、要はレア魔物をまとめたものよ。このモーリーンはもともと歌の精霊だったのだけど何かのきっかけに魔物に転落し、とある冒険者から存在が報告されたのはわずかに5年前よ。」

そんな本、よっぽど権力がないと読めない。

「こっそりと背後から忍び寄り、歌声を吸い出すように奪い取ると報告にはある。練習の後、原因不明に声が亡くなる現象にも、あてはまるかもしれない。」

「学園内にこのモーリーンがいるかもしれないってことだよね?捕まえるの?」

「裏生徒会の仕事はあくまで裏だ。倒してしまっては原因不明なままで終わってしまうからね。できれば生け捕りにして先生たちに引き渡したい。」

「じゃあ、やっぱり、おとり作戦がいいんじゃない?」

「おい、ノエル。」

ノエルの提案にザラが反対する。

「どの程度の歌にモーリーンが反応するのかわからないけど、私はそこそこ歌が上手いわ。」



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