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第7章 ーノエル編ー
33 学園六年目
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第一王女殿下の立太子が決まり、この春に立太子の儀が執り行われることとなった。そこで問題となったのが、最近活発に活動を展開している『魔王』率いる実力主義者への対策である。
そこで第一王女ことティナにハロルドが提案したのは驚きの計画だった。
「魔王を捕まえるだけじゃなくて、実力主義者たちの勢いを削ぎたい。」
ハロルドの進言は城の一室にて行われた。その場にはティナとその側近のマックス、ハロルドの叔父で魔法警察のウィル、魔法警察長、魔法騎士団長にミネルバ、さらに学園長までいた。ちなみにノエルは重要な手駒として招集された。
「実力主義者の、自信を奪うんだ。自分たちが見下してきた存在に負ける。それも完膚なきまでに。」
「それはつまり非魔法族か?非魔法族が魔法族に勝つなんて無理だろう?」
魔法警察長はありえないと半ば呆れたように意見するが、魔法騎士団は静観の構えだ。
「無理じゃない。オールディの黒薔薇騎士団にならそれができる。」
「何だと?」
「オールディの生まれの者は皆ある程度の魔法耐性を持つ。その中でも黒薔薇騎士団の騎士たちは拳で魔法を跳ね除けて、そのまま魔法族を殴り飛ばせる。魔法騎士団に聞いてみればいい。散々にてこずってきたはずだ。」
「な…!」
魔法警察長は驚いて騎士団長とミネルバを見るが、二人はそろって頷いた。
「黒薔薇騎士団に立太子の儀の後のパレードでの警備を協力してもらい、襲撃に対処してもらうんだ。そこで完膚なきまでにぼこぼこにしてもらう。
そのような状況を作り上げれば、魔王本人が出てこないわけにはいかない。その場の人を操ったり、王女殿下自身を操ったりして形勢逆転を狙うだろう。」
「そこを捕まえるのね。」
「しかし、そう上手くいくか?」
ウィルが苦言を呈す。
「黒薔薇騎士団の魔法耐性がどのくらいなのかよくわかっていない。例えば先の研究所での事件のように魔法の爆弾で攻撃されたときにはさすがに敵わないんじゃないか?」
「もちろん、魔法騎士団や魔法警察も警備に当たるんだ。」
「しかし、その場に多くの魔法族を配置すればするほど、闇魔法で操られる可能性がある。」
…ん?まるでそれは非魔法族は闇魔法で操れないとも言いたげだが。黒薔薇騎士団は魔法耐性で弾くとしても、ルクレツェンの非魔法族たちは身を守る術がないのではないか?
後でハロルドに聞いたところ、最近の研究で闇魔法の作用メカニズムが分かり、魔力が全くないものには術がかからないのだと教えてくれた。ルクレツェンの非魔法族は本当に魔力ゼロな人しかいないため、心配する必要がないのだ。
「そこで、ここにいるノエルが役立つ。」
ぼーっと下座で話を聞いていたノエルを急にハロルドがセンターに引っ張り上げた。
「彼女はオールディの大聖女の姪っ子で結界術と光魔法に適性がある。それを応用すれば、闇魔法を弾くお守りが作れるはずだ。…作ってきてくれた?」
「ああ、うん。」
ノエルはカバンに入れていた魔石を机の上に並べる。どれも光魔法が付与された珍しい魔石だ。魔石だけでは魔力のあるただの石だが…。
「…光魔法が付与されたまま、外れていないわ。」
ミネルバの言う通り。通常、魔石に魔法を付与しても、ある程度の加工がなされていなければ、魔石の魔力を使って魔法を展開するのは難しい。しかし、この魔石はそれができている。
「私が結界術で光魔法と魔石を同じ空間に閉じ込めているの。魔石に魔力がある限り、闇魔法をはじく魔法を展開し続けるはず。」
「これなら魔道具よりも簡単で量産できる。これを当日の警備員に持ってもらうんだ。」
その後、魔石の効果が実証されてこの案が導入されることに決まる。
「それで、マシュー・ウォーの件はどうなっているかしら?」
マシュー・ウォーは第一王女殺害未遂事件の犯人である。しかし、裏には魔王の指示があると考えられ、調査が行われていた。本来であれば自白剤を用いるのだが、その自白剤により命を落とすウォー家の血縁が多くいたことから自白剤の使用は止められている。
「医療班の見立てでは、自白剤に拒絶反応を示すような薬剤を常日頃から接種させられているのではないか、と。」
発言したのは学園長だ。彼は研究所の所長でもある。
「体にたまった薬剤をなるべく外に出した状態で治癒術と光魔法を駆使すれば、自白をさせることもできるかもしれないと。」
「そう。できれば立太子の前までに吐かせたいの。もし、立太子の儀の前後で何か事件があった時に、魔王を引っ立てる理由にしたいから。」
ティナも容赦がない。
「話を戻しますが、黒薔薇騎士団に警備協力を依頼する件はすんなりいくのですか?」
手をあげて質問をしたのはミネルバだ。
「我々は長年、国境をまたいでいがみ合ってきました。最近は直接の衝突はないようですが、兵をお互いに引くことはしていないし。」
「それなら大丈夫よ。ここにいるウィリアム・サフィラが対応してくれるわ。」
ティナに紹介されたのはなんとウィルだった。
「俺は現在構想段階の国際警察の主要メンバーなんだ。黒薔薇騎士団にもメンバーがいる。そのメンバーを中心に人材を派遣してもらえるように交渉しよう。」
「国際警察!」
後でハロルドに聞いたが、国家の枠組みを超えて事件捜査を行う国際組織なのだそうだ。
「一国の立太子の儀の警護を国際警察と絡めるのですか?」
「ルクレツェンでの『魔王』の台頭は国外でも懸念事項として認識されているわ。身内の恥のさらすようで心苦しいけれど、ここは協力をお願いしましょう。」
ー---
翌日からノエルは魔石づくりに追われた。そこそこ長い時間闇魔法に対抗するために、一つの魔石に魔法を付与し場合によっては魔力を足す作業はなかなか大変だった。
最初は立太子の儀までに1000個と言われていたが、時間が思ったよりかかるのを見て500個まで計画が変更された。ハロルドの作ってくれたスケジュール通りに毎日魔石を制作する日々だ。
今日のノルマが終わったタイミングで迎えに来たハロルドと一緒に冒険クラブの新歓BBQに食料の差し入れに向かった。
ノエルは今年からアレックスに部長の座を引き継ぎ、活動からも手を引いた。4年生になり無事に上級魔法科へ進学したアレックスは男ぶりもあがり、かっこよくなった。
アレックスを見ると昨年度の告白を思い出すが、かっこよくなったアレックスを見ても、やはりアレックスと付き合う未来はなかっただろうと確信を持てた。
アレックスもノエルに対してはもう乗り越えたのか、吹っ切れたのか、以前と変わらずに接してくれた。この分なら、アレックスがアリソンの熱視線に気づくのも時間の問題だろう。
『ちょっと!あんた!!!』
BBQを抜けた6年生四人。リアが用事で抜けた後に声をあげたのはスモール・ノエル、ショーンと契約している時の精霊のビビだった。
「あら、ビビ、なんか久しぶりね!」
『あんた、ショーンとの約束を忘れてるんじゃないでしょうね!!』
「ちょ、ちょっとビビ!」
ショーンが慌てて小さな精霊を止めようとしているが、残念なことにビビがそれで止まったことを過去にも見たことがない。
「ショーンとの約束?」
『あんた、何でも言うことを聞く約束をしてショーンに時間を巻き戻させたでしょ!!忘れたの!?』
…ああ、ザラの一件の時か。あれは4年生の時だし、もう一年以上前だ。
『あんたはショーンの言うこときかなきゃいけないのよ!?それをショーンを無視してそこの眼鏡と付き合い始めたですって!?』
これとハロルドは関係ないだろうが…。まあいいだろう。約束は約束だ。
「そうだったね。ショーン。何か私にして欲しいことある?あ、ウィザーズのチケット頑張って取ろうか?」
「え?僕、別にノエルにして欲しいことなんて…。」
ショーンは顔を真っ赤にしている。ビビが『言ってやりなさいよ!』とわめいている。
「いや…本当に気にしなくてよくて…。」
実は横にいたハロルドも険悪な目つきでショーンを見ている。ビビが『私が言ってあげるわ!』と叫んだのを遮るようにショーンが頼んだのはとても簡単なことだった。
「ぼ、僕!ノエルの手料理でピクニックしたいな!」
「ああ、そんなんでいいの?いいよ。」
そこで第一王女ことティナにハロルドが提案したのは驚きの計画だった。
「魔王を捕まえるだけじゃなくて、実力主義者たちの勢いを削ぎたい。」
ハロルドの進言は城の一室にて行われた。その場にはティナとその側近のマックス、ハロルドの叔父で魔法警察のウィル、魔法警察長、魔法騎士団長にミネルバ、さらに学園長までいた。ちなみにノエルは重要な手駒として招集された。
「実力主義者の、自信を奪うんだ。自分たちが見下してきた存在に負ける。それも完膚なきまでに。」
「それはつまり非魔法族か?非魔法族が魔法族に勝つなんて無理だろう?」
魔法警察長はありえないと半ば呆れたように意見するが、魔法騎士団は静観の構えだ。
「無理じゃない。オールディの黒薔薇騎士団にならそれができる。」
「何だと?」
「オールディの生まれの者は皆ある程度の魔法耐性を持つ。その中でも黒薔薇騎士団の騎士たちは拳で魔法を跳ね除けて、そのまま魔法族を殴り飛ばせる。魔法騎士団に聞いてみればいい。散々にてこずってきたはずだ。」
「な…!」
魔法警察長は驚いて騎士団長とミネルバを見るが、二人はそろって頷いた。
「黒薔薇騎士団に立太子の儀の後のパレードでの警備を協力してもらい、襲撃に対処してもらうんだ。そこで完膚なきまでにぼこぼこにしてもらう。
そのような状況を作り上げれば、魔王本人が出てこないわけにはいかない。その場の人を操ったり、王女殿下自身を操ったりして形勢逆転を狙うだろう。」
「そこを捕まえるのね。」
「しかし、そう上手くいくか?」
ウィルが苦言を呈す。
「黒薔薇騎士団の魔法耐性がどのくらいなのかよくわかっていない。例えば先の研究所での事件のように魔法の爆弾で攻撃されたときにはさすがに敵わないんじゃないか?」
「もちろん、魔法騎士団や魔法警察も警備に当たるんだ。」
「しかし、その場に多くの魔法族を配置すればするほど、闇魔法で操られる可能性がある。」
…ん?まるでそれは非魔法族は闇魔法で操れないとも言いたげだが。黒薔薇騎士団は魔法耐性で弾くとしても、ルクレツェンの非魔法族たちは身を守る術がないのではないか?
後でハロルドに聞いたところ、最近の研究で闇魔法の作用メカニズムが分かり、魔力が全くないものには術がかからないのだと教えてくれた。ルクレツェンの非魔法族は本当に魔力ゼロな人しかいないため、心配する必要がないのだ。
「そこで、ここにいるノエルが役立つ。」
ぼーっと下座で話を聞いていたノエルを急にハロルドがセンターに引っ張り上げた。
「彼女はオールディの大聖女の姪っ子で結界術と光魔法に適性がある。それを応用すれば、闇魔法を弾くお守りが作れるはずだ。…作ってきてくれた?」
「ああ、うん。」
ノエルはカバンに入れていた魔石を机の上に並べる。どれも光魔法が付与された珍しい魔石だ。魔石だけでは魔力のあるただの石だが…。
「…光魔法が付与されたまま、外れていないわ。」
ミネルバの言う通り。通常、魔石に魔法を付与しても、ある程度の加工がなされていなければ、魔石の魔力を使って魔法を展開するのは難しい。しかし、この魔石はそれができている。
「私が結界術で光魔法と魔石を同じ空間に閉じ込めているの。魔石に魔力がある限り、闇魔法をはじく魔法を展開し続けるはず。」
「これなら魔道具よりも簡単で量産できる。これを当日の警備員に持ってもらうんだ。」
その後、魔石の効果が実証されてこの案が導入されることに決まる。
「それで、マシュー・ウォーの件はどうなっているかしら?」
マシュー・ウォーは第一王女殺害未遂事件の犯人である。しかし、裏には魔王の指示があると考えられ、調査が行われていた。本来であれば自白剤を用いるのだが、その自白剤により命を落とすウォー家の血縁が多くいたことから自白剤の使用は止められている。
「医療班の見立てでは、自白剤に拒絶反応を示すような薬剤を常日頃から接種させられているのではないか、と。」
発言したのは学園長だ。彼は研究所の所長でもある。
「体にたまった薬剤をなるべく外に出した状態で治癒術と光魔法を駆使すれば、自白をさせることもできるかもしれないと。」
「そう。できれば立太子の前までに吐かせたいの。もし、立太子の儀の前後で何か事件があった時に、魔王を引っ立てる理由にしたいから。」
ティナも容赦がない。
「話を戻しますが、黒薔薇騎士団に警備協力を依頼する件はすんなりいくのですか?」
手をあげて質問をしたのはミネルバだ。
「我々は長年、国境をまたいでいがみ合ってきました。最近は直接の衝突はないようですが、兵をお互いに引くことはしていないし。」
「それなら大丈夫よ。ここにいるウィリアム・サフィラが対応してくれるわ。」
ティナに紹介されたのはなんとウィルだった。
「俺は現在構想段階の国際警察の主要メンバーなんだ。黒薔薇騎士団にもメンバーがいる。そのメンバーを中心に人材を派遣してもらえるように交渉しよう。」
「国際警察!」
後でハロルドに聞いたが、国家の枠組みを超えて事件捜査を行う国際組織なのだそうだ。
「一国の立太子の儀の警護を国際警察と絡めるのですか?」
「ルクレツェンでの『魔王』の台頭は国外でも懸念事項として認識されているわ。身内の恥のさらすようで心苦しいけれど、ここは協力をお願いしましょう。」
ー---
翌日からノエルは魔石づくりに追われた。そこそこ長い時間闇魔法に対抗するために、一つの魔石に魔法を付与し場合によっては魔力を足す作業はなかなか大変だった。
最初は立太子の儀までに1000個と言われていたが、時間が思ったよりかかるのを見て500個まで計画が変更された。ハロルドの作ってくれたスケジュール通りに毎日魔石を制作する日々だ。
今日のノルマが終わったタイミングで迎えに来たハロルドと一緒に冒険クラブの新歓BBQに食料の差し入れに向かった。
ノエルは今年からアレックスに部長の座を引き継ぎ、活動からも手を引いた。4年生になり無事に上級魔法科へ進学したアレックスは男ぶりもあがり、かっこよくなった。
アレックスを見ると昨年度の告白を思い出すが、かっこよくなったアレックスを見ても、やはりアレックスと付き合う未来はなかっただろうと確信を持てた。
アレックスもノエルに対してはもう乗り越えたのか、吹っ切れたのか、以前と変わらずに接してくれた。この分なら、アレックスがアリソンの熱視線に気づくのも時間の問題だろう。
『ちょっと!あんた!!!』
BBQを抜けた6年生四人。リアが用事で抜けた後に声をあげたのはスモール・ノエル、ショーンと契約している時の精霊のビビだった。
「あら、ビビ、なんか久しぶりね!」
『あんた、ショーンとの約束を忘れてるんじゃないでしょうね!!』
「ちょ、ちょっとビビ!」
ショーンが慌てて小さな精霊を止めようとしているが、残念なことにビビがそれで止まったことを過去にも見たことがない。
「ショーンとの約束?」
『あんた、何でも言うことを聞く約束をしてショーンに時間を巻き戻させたでしょ!!忘れたの!?』
…ああ、ザラの一件の時か。あれは4年生の時だし、もう一年以上前だ。
『あんたはショーンの言うこときかなきゃいけないのよ!?それをショーンを無視してそこの眼鏡と付き合い始めたですって!?』
これとハロルドは関係ないだろうが…。まあいいだろう。約束は約束だ。
「そうだったね。ショーン。何か私にして欲しいことある?あ、ウィザーズのチケット頑張って取ろうか?」
「え?僕、別にノエルにして欲しいことなんて…。」
ショーンは顔を真っ赤にしている。ビビが『言ってやりなさいよ!』とわめいている。
「いや…本当に気にしなくてよくて…。」
実は横にいたハロルドも険悪な目つきでショーンを見ている。ビビが『私が言ってあげるわ!』と叫んだのを遮るようにショーンが頼んだのはとても簡単なことだった。
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