二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち

ぺきぺき

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第五章 Side A

7 エリーと不穏な気配

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司令船を攻撃する作戦が失敗したこととヒューゲン海軍をつぶしきれなかったことを受けて、帝国軍は一度軍をひいた。第一戦では新設の特殊部隊がとてもいい働きをしていた。

サムに関しては急遽伝令の海馬を動かして総大将であるフレデリックにその存在が伝えられた。以外にも、兄はあっさりとサムの存在を容認し、最前線に残ることを認めた。
普段ならば、とりあえず閉じ込めておけ、ぐらいの対応があってもおかしくはないが。それで言うと、少将の対応も常より緩い気がする。

サムを船に乗せるように言われたことといい、幹部クラスはサムに秘められた能力があることを察していたのかもしれない。

「エリー、おはよう。」

見慣れない白髪頭が軍服を着て朝食を持ってエリーの隣に座った。

船旅の間、ずっとエリーの部屋で寝泊まりしていたサムだったが、人間の男であることが判明してからは、犬型になっていかに媚びようとも部屋には入れなかった。
エリーは一応嫁入り前の令嬢だ。オルグレン公爵家に嫁ぐことになるかもしれない。もう遅いかもしれないがおかしな噂が立つような行為は避けるべきだ。

代わりにアイザックの部屋で預かってもらい、身辺の世話を頼んだ。いつまでも裸にマントではいられないのだ。

「頬の怪我は大丈夫か?痕が残るとまずいだろう?」

アイザックが朝食をエリーの前の席において話しかけてくる。

「特別な薬を塗ったから大丈夫だと思う。ザックの方こそ、怪我は?」

ちなみに、エリーよりもアイザックの方が重症である。

「負傷者船にはなんとか乗らなくてよさそうだ。」

「サム、ザックに迷惑かけないで、いい子にしていたのよね?」

「サムが俺の前でいい子だったことなんてないだろう?」

ザックの密告にサムはむすっとした。この二人もあまり仲が良くないのだ。

「負傷者船が出た後は、敵の残した船の調査だ。」


戦場を異様なスピードで横断して司令船を襲った謎の船。それはこの船につながれる形で現場に残っていた。

船のおかしな点はいくつかある。もちろん、まずはあのスピードだ。船が出せるスピードではなかった。次いで、砲弾をはじき返す謎の防御機構。

アイザックに続いてエリーが船にわたると、後ろからサムがついてきた。

「見たところ普通の中型船だが…。」

「いや、違うよ。」

操縦席のあたりを見ていたサムが一点を指さした。そこにあるのは緑色の宝石のようなものが埋め込まれた台座だ。

「これ、魔道具だと思う。」

「魔道具?あの通信の魔道具ってこと?」

「別に魔道具はあれだけじゃないよ。他にもいろいろある。この船自体が魔道具なんだと思う。多分、”風魔法”で船の速度を上げたり、砲弾をはじき返したりしていたんじゃないかな?」

「風で砲弾が弾き返せるって言うのか?」

「無理ではない。方向を変えるだけならもっと簡単だ。」

「ちょっと待って、それって…。」

エリーは思わず目を見開いてサムを見た。


「サムにも同じことができるってこと?」



ーーーー



検証の結果、判明した魔道具の機能は船の運航スピードの加速と船を取り囲むように風の防御盾を作ることだった。防御盾は船の周囲を覆い、弱点は盾のない上部のみとなる。

「それに、この盾の強度なら長距離砲弾を近距離から撃てば意味がないかもしれない。」

「そうか、我々は大砲が効かないと早々に収めたが、近距離に接近していれば効いたかもしれないということか。」

エバンズ少将はサムの話を聞いて頷いた。

「しかし、ヒューゲンは魔道具をルクレツェンから買っていたから、これもルクレツェンの魔道具を帝国が買ったということになるのでしょうか?」

「そうなると、この船を何隻も有している可能性が高いな。」

魔法使いであるサムの知識によって軍略部隊で議論が広がる。

「通信の魔道具の傍受についてもサムに確認したいの。」

「何、エリー?」

「通信の魔道具には距離制限があったでしょう?つまり、傍受の魔道具にも距離制限があるのでは?」

「そうだね。敵船はある程度こちらに接近しないと通信を傍受できなかったと思うよ。」

「何に気づいた、アーチボルト二等?」

エバンズ少将の問いかけにエリーは頷く。

「おそらく、敵船は我々第一線間の通信を傍受し、我々と総大将が控える第二線の通信は傍受できていなかったのではないかと思います。
しかし、第二線は通信の魔道具がつながる距離で布陣を展開していますから、ヒューゲン側はかなり内側まで帝国軍の侵攻を許してしまいましたので、第二線との通信を傍受した可能性があります。それでなくても司令船の位置をつきとめているので…。」

「敵は第二線の位置を把握することができるわけだ。加えて、この超快速船を使えば、この第一線から逃げながら第二線に攻撃をしかけることができる、と。」

エバンズ少将は「ありえるな」と顎に手をやった。

「この情報を大将の下に早急に届ける必要があるな。魔道具は使えないし、至急、海馬の伝令を本隊から呼んでくれ。」

海馬の伝令とは、海馬部隊員に手紙の運搬をしてもらているというだけのことだ。つまり、海馬部隊から移動させなければ使えない。
サムの件を連絡していた海馬はすでに持ち場に戻っている。


「俺も飛んでいける。海馬を呼ぶより速いはずだ。」

突然、サムがそんなことを言い出した。エバンズ少将が鋭い目を向ける。

「風魔法の上級者は応用して飛行魔法を使うことができる。海馬並みのスピードで空を飛んで第二線に伝言を伝えてくる。実際に風魔法を見てもらえれば理解も速いだろうし。」

二人はしばしにらみあった後、少将はエリーの方をちらりと見た。

「お前ひとりでは不審者だ。アーチボルト二等を連れていけるか?」

「エリーなら軽いから問題ない。」

少将はその場でフレデリックへの手紙を書き始める。視線をあげずにエリーに命令を出した。

「聞いたな?お前ならエスパル語もヒューゲン語も話せるだろう。大将に先ほどの内容を伝えてこの手紙を渡した後、エスパルとヒューゲンの司令官にも同様の伝令をしてこちらに戻って来い。」

「は、はい!」



ーーーー



サムはエリーを軽々と姫抱きで抱き上げると、「しっかりつかまっていて」と言ってふわりと浮き上がった。そのまま、ものすごいスピードで一直線に低空を総大将の船に向かって飛んでいく。

海馬で30分ほどかかる道のりを同じく30分程度でサムは飛びきった。第二線の先頭を抜けて、その奥にあるフレデリックの乗る船に一直線に向かうと直前で速度を落とし、ふわりと浮き上がった。身構えていた兵たちも、エリーを見つけて指示をだしたフレデリックを前に剣を下した。

サムに甲板に降ろされると、抜けかける腰を叱咤してフレデリックに敬礼をした。

「ポール・エバンズ少将からの伝令をお持ちしました!」

「…ありがとう。何があったんだ?」

「ご報告した敵の新兵器の仕組みと弱点がわかりましたので、そちらのご報告です。また、そちらの兵器を第一線を通さずに直接第二線に攻撃させる可能性があります。こちらの内容を第二線にて周知していただきたく。」

フレデリックはエバンズ少将からの書状にも目を通し、内容に相違がないことを確認した。

「君が、サムなのかな?」

「はい。これまで姿を明かせず申し訳ありません。」

ちなみにサムはフレデリックの前ではいい子である。

「先ほどの高速での飛行が報告にあった風魔法なのかい?」

「はい。」

フレデリックは冷静な表情でサムを見ている。エリーはその表情で確信した。フレデリックはサムが特殊な力を隠していることを知っていたのだ、と。


「ご報告です!」

そこに切羽詰まった声で兵がやってくる。

「第二線!ヒューゲン軍の右手から新手の軍が!猛スピードでこちらに進軍してきています!」



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