二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち

ぺきぺき

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第五章 Side A

8 エリーと次の一手

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もう、来てる!

望遠鏡で超快速船が視認されてから激突するまでに一時間もかからなかった。もう、時間はない。


「エリー、急ぎヒューゲンのザイフリート中将に船の詳細を伝えてきてくれ。エスパルには海馬を使う。」

「はい!サム!」

「あ、ああ。」

サムの肩に自分から手をまわし有無を言わさずに抱き上げてもらうとサムはその場で舞い上がった。ザイフリート中将の乗る船はすぐそばであり5分程度で到着した。

「ザイフリート少将にアーチボルト大将より伝令です!」

飛んできたエリーにぎょっとしながらも、その顔を知っていたザイフリート中将は不快そうではあったがエリーを出迎えた。

「右手から来る敵船は先日、ブルテンの司令船を襲ったものと同じであると思われます。正体はルクレツェン魔法大国製の魔道具で、軍船の数倍の速さで運行可能な超快速船です。
周囲では風魔法による防御盾が形成され、砲弾をはじき返す場合があります。」

「魔道具だと?いや、ありえない。ルクレツェンの魔道具は我がヒューゲンに優先的に取引されている。そんな魔道具は聞いたことがない。」

「では、ルクレツェン製ではないのかもしれませんが、実際にそのような魔道具なのです。現状、考えられる対策としては、長距離砲で真正面かつ近距離から攻撃することです。
おそらくあの船たちはまっすぐにここを狙ってくると思います。」

「なぜこの船の位置がわかるんだ?」

「おそらく、先日の通信の魔道具のやりとりを傍受してこちらの位置を割り出したのではないかと思います。」

「いや、ありえない。ルクレツェンは鎖国国家で我が国以外とは交易をしていないんだぞ?」

「今はそれどころではないのです、ザイフリート中将。」

渋々と食い下がってくるザイフリート中将にエリーは訴える。

「急ぎ対策を!長距離砲の準備を!もう30分もすれば敵船はここに到着します!」

ザイフリート中将は舌打ちをして指令を出す。舌打ちしたいのはこちらだ。女であるエリーが来たせいもあるのか、ザイフリート中将は態度が悪かった。


「敵船が接近中!その数、約50!」

伝令の声にエリーは目を丸くする。50は多すぎる。ヒューゲン軍が進路を妨害するように動き始めるが、あの速さであるから簡単に迂回されてしまうだろう。
帝国軍はこの船のみならず、その奥にいる総大将フレデリックの首を本気で狙っているのだ。

何とか、船の数を間引けないか。

「エリー、本船に戻らないのかい?帰ってくるように隊長にも言われていただろう?」

サムが腕を引くが無視して考える。

「エリー。」

横を走り抜ける船を大砲で狙うのはスピードが速すぎて難しい。しかし、あの量では迎撃している間に乗り移られる。せめて船のスピードを落とせれば…。

「サム、あの船は魔石で動いているのよね?」

「う、うん。」

「魔石を壊せば、船のスピードが落ちて防御盾もなくなる?」

「そうなるはずだけれど。」

しかし、そのための攻撃は近距離か、上空からしかできない。…上空。


「サム、あなたの風魔法で船の上空から魔石を壊すことはできる?」

「そりゃできるけど…。そうか!」

サムが心得て、「早速…」とエリーを抱き上げようとするのを止めた。

「あなた一人で行ってきて。」

「え?」

「私がいない方が早く飛べるし、何かあった時も逃げやすいはず。なるべく後方の船から魔石を壊して。前方の船にはこのまま突進させてこちらで迎え撃つわ。」

「でも、エリー、この船は危険だよ。一番最初に衝突される。」

「危険は承知の上よ。後方の20隻の魔石を壊してきてくれれば、展開を始めているヒューゲン軍で追いついて迎撃ができるはず。」

サムは「でも」「そんな」と駄々をこねるので無理矢理に背中を押す。

「海軍のために働いて、あなたがスパイじゃないことを示すチャンスでもあるの!私は大丈夫だから行ってきて!」

その言葉に目を丸くした後にサムは頷いて飛び上がった。

「すぐに戻るから!」

そうしてあっという間に豆粒サイズとなり見えなくなった。


その間にも敵船は迫ってくる。

「撃て!」

長距離砲が発射されるがこの距離ではびくともしない。

「くそ、どうなってるんだ?」

「この距離ではまだ早いです!もっとひきつけて!」

エリーが言うが、ヒューゲン兵たちは舌打ちをするばかりであまり指示を聞いてくれない。…舌打ちをしたいのはこちらの方だ。


敵船が近距離に迫り、砲弾が当たり始めてからようやくヒューゲン兵はエリーの指示を聞いてくれるようになった。ザイフリート中将が「…今だけ彼女の指示を聞け。」と言ってくれたからかもしれないが。

「なるべく多くの船をしとめます!…今!撃て!」

長距離砲を信じられない近距離から放つことで、ようやく風の防御盾を撃ち抜くことができた。しかし、どうしても砲撃の間にロスが生じる。最初の無駄撃ちの影響もあって、ヒューゲン船は敵船の接触を許した。

そこからは、先日と同じ船上での乱戦となる。

「*****大将****!!!」

帝国軍は雄たけびを上げると、船へと乗り込んできた。


先日も思ったが、ヒューゲン軍は個々人の戦闘力があまり高くない。おそらく、独占的に輸入していた魔道具に頼っているのだろう。長距離砲もブルテンのものよりもやや威力が高いように感じた。
敵の上陸を許せば、みるみるうちに押されていく。

「な!****女***!!!」

…ちょっと、これはまずいかもしれない。今回は特殊部隊の助けも期待できない。素早い動きで船上を駆けまわり、敵を切り伏せるエリーはザイフリート中将のそばにいた兵が一人一人とやられていくのを目の端にとらえた。

いけ好かない奴だが、彼がやられるのはまずい。

ザイフリート中将の空いた背中を狙った帝国兵の剣を持つ腕を切り落とした。

「お前は!」

「中将はこの船から離脱することをお考え下さい!この船はおそらく持ちません!」

目の前の兵を切り伏せながら策を考えるが、兵は次から次へと乗り込んでくる。ちなみにエリーは力では男性に勝てないため、相手をいなして切り込むような戦いを得意としている。つまり、攻撃に耐えるような防御戦は得意ではないのだ。

「女!?*******女!?」

敵にが増えてくればさすがに攻撃をかわしきれない。エリーが剣を突き刺した兵の横から別の兵の蹴りが飛んできて、蹴とばされたエリーは船のへりに全身をしたたかに打ち付け、せき込んでうずくまった。

「女*******殺す**!!!」

エリーを蹴とばしたらしい兵がうずくまるエリーの髪をつかみ、顔を上げさせる。なにやら喋っているらしいがエリーにはもはや聞こえていなかった。

ぼやけた視界に剣が振り下ろされるのが映った。


死んだ…。


しかし、思ったような痛みも衝撃もなく、エリーはまた再び船上に倒れこんだ。ぼやけた視界で気を失う前にとらえたのは真っ赤な何かの中にたたずむ誰かだった。



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