二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち

ぺきぺき

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エピローグ

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「私は、エリザベス・アーチボルト少佐…、いえ、エリザベス・アーチボルト侯爵令嬢を妻として迎えたく存じます。ぜひ国王陛下からお許しをいただきたい。」

サムことサマル・ウォーの発言にその場は静まり返った。海軍の兵たちは皆、エリーを振り返りそうになる首をなんとか固定しているのかピクピクしていた。

エリー自身も声を出しそうになったところをなんとかこらえた。


「そ、それは、アーチボルト嬢とそなたは恋仲であったということか…?」

国王陛下も少し上擦った声をしている。

「いいえ!これから求婚する予定です。しかし、平民の自分では侯爵令嬢に求婚をすることなどできません。なので、まず陛下の許可をいただきたく。そして、晴れてお思いが通じた際には結婚のお許しをいただきたく。」

「そ、そうか。う、うむ。求婚を許可しよう。」

「ありがたき幸せにございます。」

嬉しそうに退場していくサマルをエリーは見ていることしかできなかった。


式典が終わるとサマルはすぐにエリーのところへと駆け寄ってきた。周囲には海軍の兵もたくさんいるような状況だった。

「エリー!」

群を抜いて美形であるサマルがエリーの手を取る。

「俺と、け…。」

「今は言わない…!」

「結婚してください!」

遮ったエリーをさらに遮って、サマルはプロポーズをした。エリーは額に手をあてて天を仰いだ。サマルはしれっとした顔をしており、犬時代を思い起こさせる。

周囲はそわそわした様子で二人を見守っている。

「すぐに返事はできないの。わかるでしょ?とりあえず、兄上に相談しないと。」

エリーはサムを引っ張って人ごみを抜け、アーチボルト家の馬車に彼を押し込む。帰りはフレデリックの家族と一緒にアーチボルト家のタウンハウスで過ごす予定だったのだ。
犬のサムがいないと甥っ子が悲しがるので、サムもついて来ることになっていた。

「でも、エリーが俺との結婚を嫌じゃないか、ぐらいは義兄上に聞かなくてもわかるはずだ!」

「そんなのわからないわよ!」

「何で!?」

「だってあなたずっと犬だったのよ!」

そう。エリーは犬のサムが好きだった。たしかにサマルとサムはよく似ていて、シンクロしてほだされることもままあるが、ペット愛の延長にある”好き”であって、喜んで結婚したい”好き”ではない。

つまり、エリーはサムが実は人だとわかって一年近く経過した今も混乱していたのだ。


「俺はエリーのこと好きだ。エリーとずっと一緒にいたいんだ。エリーにあのクソ男のところに嫁に行ってほしくないんだ。」

「それはずるいよ…。」

それはつまり、エリーと結婚できるなら、ずっと海軍にいるよ、と言っているようなものだ。サマルと結婚したならば、エリーはサマルをずっと海軍に留められるように、好かれるように行動しなければならない。

サマルはサム時代に拾ってくれたエリーに恩義を感じ、飼い主として好きでいてくれている。それは結婚までするような”好き”なのか。
もし、サマルが『思っていたのと違った』とか言って海軍から出て行ってしまうことになったら自分はどうなる。そうならないように引き留めておくことが自分にはできるのか。

思い出すのは王立学園で”男女”と言われ続けた過去だ。自分には女性としての魅力がないのではないか。少なくとも苦手分野であることは間違いがない。

それに、ブラッドリーとの縁談も本格的に始動する様子を見せていた。ここでサマルのプロポーズを受けるとはどういうことになるのか。

エリーがくよくよと考えていると、突然サマルがエリーを抱きしめた。


「エリーに闇魔法は通じないけど、考えていることは何となくわかるよ。海軍のことだろう?俺と結婚すれば、俺が海軍に残ることになる、とか。海軍のためにどうすべきか、とかさ。」

サマルのにおいは、犬のサムとなぜか同じだ。つまり、エリーにとっては好きで安心するにおいである。

「でもこの場においては俺の立場が下なんだ。俺はエリーのものだけど、エリーの心はまだ俺のじゃないだろう?俺はエリーを落とすために海軍に残るし、結婚もしたいんだ。」

「…今はそう言ってるけど、10年後もそう思ってくれているかはわからないじゃない。」

サマルは腕を緩めてエリーの顔を見る。その表情は困惑している。

「あなたと結婚したら、あなたが海軍を捨てないように、私は愛されていないといけないでしょう?でも、今は周りに女の子が私しかいなかったから好きになっただけでしょう?それか拾ってくれた恩義を感じて、とかでしょう?」

「違う!!」

サムは怒ってエリーの肩をつかんだ。


「エリーよりも美形な女なんて、俺の故郷にはたくさんいたよ。闇魔法が効けば大体の女は手に入るくらい、俺は美形だろう?」

「…その言いぐさはむかつくわ。」

「でも!エリーがいいんだよ。もう何年もずっとそばでエリーを見てきたんだ。俺がずっとエリーが他の男と恋に落ちないか心配してたの知らないだろう?今更、どうやってもエリー以外を好きにはなれない。」

「でも、10年後に…。」

「10年後の話はもういいよ。そんなの誰にもわからないだろう?エリーの方が不倫してるかもしれないじゃないか。」

「そんなこと…!」

「でも証明できないだろう?だから10年後の話を持ち込むな。」

サマルはまたエリーを強く抱きしめた。サマルの匂いを嗅ぐとなんだか大丈夫なような気もしてくる。これは闇魔法じゃないのだろうか。

そう思いながら、おずおずと背中に手を回した。


「あー、お邪魔して悪いが、乗るぞ?」

馬車の扉が開き、エリーの背後から兄・フレデリックの声がする。甥っ子が「エリーお姉ちゃん、ラブラブだ!」なんて言っていて、真っ赤になる。慌ててサマルをぐいっと引き離す。腕力、という点では彼はエリーに叶わない。

「プロポーズは保留にしていたと聞いたが、その様子だとまとまったのか?」

「まとまってません!返事してません!」

フレデリックと義姉、そして甥っ子が馬車に乗り込み、出発する。


「明言はできないが、エリーがサマルと結婚することに問題はないだろう。」

フレデリックはあっさりとサマルの存在を受け入れた。もしかしたら闇魔法にかかっているのかもしれないが、チョロチョロだった亡き父と比べて、兄はいささかかかりにくいらしい。

「アーチボルト家は侯爵家に戻ったし、無理に高位貴族に縁づく必要もない。幸い、候補だった方も相手がまだいるしな。」

それはエリーとしてはありがたい話だ。

「しかし、兄上…。」

エリーの反対する姿勢にフレデリックは「クッ…」とつまったような声を出して笑った。

「何で笑うんですか!」

「エリー、何で反対するんだ?政略結婚は当たり前でアーチボルト家のために嫁ぐのみって言っていただろう?これはある意味”避けられない”結婚で、政略結婚と大差がないだろう?」

エリーは一瞬固まった。その隙にサマルがフレデリックに畳みかける。

「義兄上、エリーは10年後に俺が心変わりするかもしれないから嫌なんですって。10年後の心配を出されても困りますよ。」

「そうか。エリーはサマルにんだな?もう答えなんて出たようなものだろう?」


妹の理解者である兄の言葉にサマルの顔が輝く。一方のエリーは真っ赤になって顔を上げることができないでいた。




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