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第二章 無計画な白い結婚
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「まあ、ダミアン様、側近を辞めてしまわれたの?」
ダミアンがおらずとも仕事を回せるようになるのに二か月がかかった。その間、マリアのもとにも行けず、マリアに会えたのも二か月ぶりだ。
「ああ。ダミアンは、覚えているかい?ビアンカ・アスマン辺境伯令嬢と結婚するらしい。」
「まあ!あの人ね!」
ヨーゼフが『仲がよさそうだった…』と続ける前に、マリアはぷんすかと憤る。
「あの人に嵌められて、私は学園を退学しなきゃいけなかったのよ!そんな人と結婚だなんてひどいわ!」
ヨーゼフはその言い回しに気持ちがなえていくのを感じた。
「大丈夫よ、ヨーゼフ様。側近になってくれる人だなんて、いくらでもいるんだから!ダミアン様のことなんて、忘れましょう!」
ダミアンが抜けた心の穴を埋めたくてマリアに会いに来たのに、穴が広がっていくような感覚だった。結局、この日は夕飯だけを共にして城に帰ってしまった。
ーーーー
マリアとの関係は少しぎくしゃくしかけたが、ヨーゼフにはマリア以外に寄る辺がない。少しすると以前のように愛人らしい関係に戻った。しかし、無理を聞いてくれていたダミアンがいなくなったことで、頻度はひと月に一度以下に落ちていた。
そんなある春の日、ヨーゼフは偶然、王太子妃である義姉が第一王女、第一王子、生まれたばかりの第二王子の三人の子供たちと、お腹の大きな妊婦の夫人と茶会をしているところに遭遇した。
夫人は美しいブルネットの髪を既婚者らしくまとめあげ、落ち着いた色味のドレスを着ていた。
クラウディアである。
「あ!叔父様!」
ヨーゼフに気づいた第一王女が声をあげる。挨拶をしないわけにはいかず、茶会に歩み寄る。
「ごきげんよう、義姉上。クラ…ヘルムフート夫人も久しぶり。」
「お久しぶりです、殿下。」
ヨーゼフがクラウディアに会うのは彼女の結婚直後の夜会以来だ。その後、彼女はあまり社交場に出てこなくなっていた。どうしたのかと思えば、妊娠していたらしい。
「…体調は大丈夫か?」
「おかげさまで順調ですわ。」
微笑むクラウディアは本当に幸せそうにお腹を撫でていた。
「殿下も外交でご活躍だと伺っていますわ。ダミアン様もアスマン領でその辣腕をふるっていらっしゃるようですよ。」
「…連絡をとっているのか?」
ダミアンがヨーゼフの下を去って一年ほど経過していた。
「結婚式には出れませんでしたので、結婚祝いをお送りしました。その返礼が先月ありまして、お手紙がついていましたわ。」
結婚祝い、送るという意識がなかった。そういえばクラウディアにも送っていない。外交上の付き合いならば、そういった頭も回るのだが…。
気まずい顔をしているヨーゼフにクラウディアは肩をすくめる。『でしょうね』と言わんばかりだ。
「私もダミアン様もヨーゼフ殿下からお祝いをいただこうなんて思っておりませんし、気にしないでくださいませ。」
ヨーゼフは何も言えずにその場を辞した。
お前からもらっても嬉しくないと言われているようだった。
ーーーー
マリアが腕の中でまどろむ姿を見ながら、ヨーゼフは思わず聞いた。
「マリアは子供が欲しかったかい?」
「…子供?」
眠そうな目をしながらマリアはこちらを見る。こういう時はマリアに理想の姫の面影はない。ただの、艶っぽい、女だった。
「子供は…どちらもでいいわ。でも…。」
マリアはむにゃむにゃと「王子様なら産んでみたい…」とつぶやいて眠ってしまった。
「王子様なら、産んでみたい、か…。」
ヨーゼフにはマリアがクラウディアのように大きくなった腹をいとおし気に撫でる姿は想像ができなかった。『王子様なら』という言葉はヨーゼフの心を抉った。そこは、『ヨーゼフの子なら』と言うところではないのか…。
もう寝ようと灯りを減らすとマリアの髪は明るさを失う。青い目は閉ざされ、姫に似た面差しはなく、金髪も暗い。こうなるとマリアのどこに惹かれたのかわからなくなってくる。
マリアは本当に私の運命の姫だったのか。
ダミアンやクラウディア、クラウスを失ってまで手に入れるべきものだったのだろうか。
ダミアンがおらずとも仕事を回せるようになるのに二か月がかかった。その間、マリアのもとにも行けず、マリアに会えたのも二か月ぶりだ。
「ああ。ダミアンは、覚えているかい?ビアンカ・アスマン辺境伯令嬢と結婚するらしい。」
「まあ!あの人ね!」
ヨーゼフが『仲がよさそうだった…』と続ける前に、マリアはぷんすかと憤る。
「あの人に嵌められて、私は学園を退学しなきゃいけなかったのよ!そんな人と結婚だなんてひどいわ!」
ヨーゼフはその言い回しに気持ちがなえていくのを感じた。
「大丈夫よ、ヨーゼフ様。側近になってくれる人だなんて、いくらでもいるんだから!ダミアン様のことなんて、忘れましょう!」
ダミアンが抜けた心の穴を埋めたくてマリアに会いに来たのに、穴が広がっていくような感覚だった。結局、この日は夕飯だけを共にして城に帰ってしまった。
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マリアとの関係は少しぎくしゃくしかけたが、ヨーゼフにはマリア以外に寄る辺がない。少しすると以前のように愛人らしい関係に戻った。しかし、無理を聞いてくれていたダミアンがいなくなったことで、頻度はひと月に一度以下に落ちていた。
そんなある春の日、ヨーゼフは偶然、王太子妃である義姉が第一王女、第一王子、生まれたばかりの第二王子の三人の子供たちと、お腹の大きな妊婦の夫人と茶会をしているところに遭遇した。
夫人は美しいブルネットの髪を既婚者らしくまとめあげ、落ち着いた色味のドレスを着ていた。
クラウディアである。
「あ!叔父様!」
ヨーゼフに気づいた第一王女が声をあげる。挨拶をしないわけにはいかず、茶会に歩み寄る。
「ごきげんよう、義姉上。クラ…ヘルムフート夫人も久しぶり。」
「お久しぶりです、殿下。」
ヨーゼフがクラウディアに会うのは彼女の結婚直後の夜会以来だ。その後、彼女はあまり社交場に出てこなくなっていた。どうしたのかと思えば、妊娠していたらしい。
「…体調は大丈夫か?」
「おかげさまで順調ですわ。」
微笑むクラウディアは本当に幸せそうにお腹を撫でていた。
「殿下も外交でご活躍だと伺っていますわ。ダミアン様もアスマン領でその辣腕をふるっていらっしゃるようですよ。」
「…連絡をとっているのか?」
ダミアンがヨーゼフの下を去って一年ほど経過していた。
「結婚式には出れませんでしたので、結婚祝いをお送りしました。その返礼が先月ありまして、お手紙がついていましたわ。」
結婚祝い、送るという意識がなかった。そういえばクラウディアにも送っていない。外交上の付き合いならば、そういった頭も回るのだが…。
気まずい顔をしているヨーゼフにクラウディアは肩をすくめる。『でしょうね』と言わんばかりだ。
「私もダミアン様もヨーゼフ殿下からお祝いをいただこうなんて思っておりませんし、気にしないでくださいませ。」
ヨーゼフは何も言えずにその場を辞した。
お前からもらっても嬉しくないと言われているようだった。
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マリアが腕の中でまどろむ姿を見ながら、ヨーゼフは思わず聞いた。
「マリアは子供が欲しかったかい?」
「…子供?」
眠そうな目をしながらマリアはこちらを見る。こういう時はマリアに理想の姫の面影はない。ただの、艶っぽい、女だった。
「子供は…どちらもでいいわ。でも…。」
マリアはむにゃむにゃと「王子様なら産んでみたい…」とつぶやいて眠ってしまった。
「王子様なら、産んでみたい、か…。」
ヨーゼフにはマリアがクラウディアのように大きくなった腹をいとおし気に撫でる姿は想像ができなかった。『王子様なら』という言葉はヨーゼフの心を抉った。そこは、『ヨーゼフの子なら』と言うところではないのか…。
もう寝ようと灯りを減らすとマリアの髪は明るさを失う。青い目は閉ざされ、姫に似た面差しはなく、金髪も暗い。こうなるとマリアのどこに惹かれたのかわからなくなってくる。
マリアは本当に私の運命の姫だったのか。
ダミアンやクラウディア、クラウスを失ってまで手に入れるべきものだったのだろうか。
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