世間知らずの王子様を教育していたら、嫁として誘拐されました

ぺきぺき

文字の大きさ
13 / 13
本編・裏

後編3

しおりを挟む
藍と飛世の縁談は一度破談になった。蒼ノ宮家の警戒を弱めるためだ。それにとはもう結婚できない。死亡が世間に公表されてしまったのだから。

瑠璃をこちらで引き取ることで手打ちとした。

爽一が藍も見捨てそうな雰囲気を出したこと、藍に頼られる男になりたいと思ったこと、それをきっかけに飛世の頭はぐるぐると回りだした。
藍を助け出して、かつ、嫁にするために何をすればいいのか、わかるようになった。そうして自力で藍誘拐計画をたて、爽一に見てもらった。

「藍姫を、ロジャーズ卿の養女に?考えたな。」

「本国の貴族とのしがらみもないですが、私たちとのつながりは喉から手が出るほど欲しいと思います。」

「私たちとしても害にはならないか。条約の時には譲歩してやったしな。害になっても別の家の養女に変えればいいだけだ。」

「藍のことだから、きっと仕事をしたいって言うと思うのです。その時のためにちゃんとした身分が必要です。あともちろん結婚するためにも。」

「…お前、やけに結婚にこだわるが、秘書とかじゃダメなのか?鳴海みたいな。藍姫を嫁にしなくてもいいだろう?」

飛世はまたしても目を瞠ることとなった。…秘書?嫁じゃなくて?

だって、藍を嫁にしないと、誰かに藍を取られるかもしれないじゃないか。藍に飛世よりも大切な存在ができてしまうかもしれない。
その時のことを思うと胸が苦しい。

「もしかしたら、救出した後も蒼ノ宮家は藍姫をつけ狙うかもしれない。嫁にすればお前はずっと蒼ノ宮家対策をしていかなければならない。」

「で、でも、嫁が一番蒼ノ宮家も手を出しにくいポジションになるのでは?藍を守るためにも嫁にした方が…。」

「私とお前が後ろ盾につくんだ。十分に手を出しにくいと思うが。それに、藍姫は守られるだけの女でもないだろう。環境を整えてやれば自力で蒼ノ宮家を退けられるはずだ。」

「だ、だって、嫁にしておかないと、藍が他の誰かに取られてしまうかもしれない!」

「…お前、藍姫を他の誰かに取られたくないのか?」

ー取られたくない。だって、私は…。

「まあ、藍姫にちゃんとお前の気持ちを伝えるんだな。自分の気持ちに名前をつけないと、藍姫に結婚を断られるかもしれないぞ。」

【これもしかして、二人の結婚は私のファインプレーだったんじゃないだろうか。】



ーーーー



藍を助けに蒼ノ宮の森に潜入した。竜たちが襲ってきて進めない可能性もあったので、無理はしない予定だったが、全く襲って来ないのでぐんぐんと奥に進む。

進みながら、爽一に言われたことを考える。

当然のように藍と結婚しようと思った。結婚すれば藍は蒼ノ宮家を出られるし、新しく立ち上げた貴族の家を盛り立てるために働くのはきっと藍も楽しいと思ってくれるだろう。
竜使いの仕事以外にも藍の力を生かせることはいっぱいあるはずだ。私と結婚するのはだと自分を言い聞かせてた。

でも、もしかしたら、藍にとって旨みのある男は自分だけじゃないかもしれなくて…。むしろ爽一に何かあれば自分は帝になるわけだ。それが藍にとってはマイナスかもしれない。
王子妃は嫌だって、前に言ってたし。

ーでも、私は藍を諦められない。私は藍のことが好きだから。

なんでもっと早くに気づかなかったんだろう。藍に出会ってから、飛世の世界は大きく広がった。大きく広がってたくさんの人と知り合った後も、いつも会いたいのは藍で、話したいのは藍で、嫁と聞いて思いついたのも藍だけだったのに。

もっと早く気づいていれば、プロポーズの時に伝えられた。藍が飛世の気持ちを知らない状態で、離れ離れになってしまっていることが辛かった。

ー早く会いたい。

そう思って飛世は全速力で森を駆け…、無事に藍を誘拐することに成功した。



ーーーー



藍が打ち明けてくれた”龍の子”の話は、驚きだった。そして、それはまだ蒼ノ宮家が藍を狙う可能性が大いにあることを示していた。

私が藍を守りたい。絶対に誰にも渡さない。

「突然、藍は死んだなんて言われて、全く信じられなかった。結婚する約束をして、これからもずっと一緒にいるんだと思ってたから。」

飛世は藍の手を握った。…どうか藍が結婚するって言ってくれますように。


「藍に大切なことは何も伝えていないこと、すごい後悔した。
…私は藍のことが好きだ。藍といつまでも一緒にいたい。結婚するのも、藍しか考えられないよ。
これまで助けられてばっかりだったけど、これからは私も藍を助けたい。まだ、私と結婚してくれる?」


藍が大きく目を見開いて、飛世を見つめた。

見開いた目に涙があふれて、ぽろぽろと流れていく。…もちろんこれが悲しいわけではないことは、もう飛世にもわかる。

「藍が泣いてるの初めて見た。…返事は?」

「結婚したい。私も、飛世が好き。」

飛世は藍の返事を反芻して、かみしめて、自分も初めて泣きそうになった。…嬉しい。

「…でも。」

藍が心配そうに飛世を見る。

「何も心配しないで。私がうまく立ち回ったところを、藍にみせてあげるよ。」

そう言って飛世は藍を思い切り抱きしめた。

【ほらやっぱりな。まったく手のかかる愚弟だな。】



ーーーー



飛世は正月に九条くじょう姓を賜り、臣下にくだった。そしてすぐに藍と結婚した。

世間知らずだった王子は自分の頭を使うことを覚えた。飛世は爽一の右腕として表でも裏でもよく働き、周囲から”将軍”と呼び慕われるほどの人物となる。
藍も飛世に守られながら背中を押され、九条家を管理・運営し”月の姫”としてその名を国中に響かせた。


九条飛世となって最初に頭を使った策は、もちろん藍を守るためのものだった。それは結婚初夜のこと。

「藍は妊娠している状態が一番安全だと思うんだ。私の子は王位継承権を持つし、蒼ノ宮家も手が出せないだろう?」

「や、え、そ、そんな都合よくできるものでも…。」

「毎日努力する。」



【頭を使った結果だったのか、自分の欲望に忠実になった結果だったのか、本人にもよくわからないそうだ。】





しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

雪妃
2022.06.10 雪妃
ネタバレ含む
2022.06.10 ぺきぺき

質問ありがとうございます:)

そうですね…、多分先代の”龍の子”の独り立ちを邪魔したことにカチンときたのが大きな出来事だったと思います。竜たちは龍の子が好きすぎるという設定なので。
ただそれ以前から、竜使いたちに”血筋重視”の考えが根深くなって、血筋で軽んじられる竜使いがいたのが気に食わなかったかも。彼らは相棒の竜使いが大好きという設定なので。

解除

あなたにおすすめの小説

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

旦那様、愛人を作ってもいいですか?

ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。 「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」 これ、旦那様から、初夜での言葉です。 んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと? ’18/10/21…おまけ小話追加

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です

くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」 身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。 期間は卒業まで。 彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。