世話焼き令息とズボラな巫女姫の怪異まみれの冒険記

ぺきぺき

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第一章 夜市に浮かぶ火の玉

4 エリート令息、潜入捜査をする

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「二乃子殿!びっくりするくらいよく似合ってます!」

脱税も賄賂も、容疑者は羽振りがいいという共通点がある。満の中には一人、こいつが犯人ではないかという容疑者がいたが、一人だけが犯人とは限らない。
役所にて証拠を探す前に、容疑者を絞り込むためにとある場所への潜入捜査をもくろんでいた。

「翠都で一番の高級料理店、給仕は皆女性なんです。二乃子殿が頼みの綱です。」

「任せてください、満殿。」

胸を張る二乃子は長い薄い色合いの黒髪を頭の上で二つのお団子にし、大陸風の白い給仕の服に着替えている。首から右肩、右わき腹へと流れる襟と飾りボタンは花の意匠で、光沢のある給仕服に織り込まれている模様も花柄である。太ももから下には長くスリットが入っており、黒いぴっちりしたレギンスのようなズボンに包まれた脚が大胆に見える。
大陸風の化粧を目元に施した、美しい女性がそこに立っていた。


「ああ、本当にかわいい…。絵に残したい…。この前の絵師に…。」

何かをぶつぶつと唱え続ける満、若干壊れかけている。

「満殿?段取りを確認するのでは…?」

「ああ!そうでした!」


話はこの日の午前中にさかのぼる。



ー---



満と二乃子は檻に入れた妖狐を持って久遠寺市長に報告に来ていた。

「なんと!もう捕獲してくださったのですか!」

「はい。こちらの迷い狐が化けていたようです。なぜそのようなことをしていたのかはまだわからないのですが…。」

「いやいや!怪異が片付いてくれれば理由など些末なことです!もう火の玉は出ないということですよね!」

久遠寺市長は踊りださんばかりに喜んでいる。

「他の妖狐がいなければ、もう火の玉は出ないと思います。一応数日はこちらに滞在して夜間は様子を見ます。火の玉が出たとしても同じ妖狐だと思われるので、捕獲は簡単でしょう。」

「巫女姫様がしばらくいてくださるなら安泰ですな!」

久遠寺市長は大きな声でがっはっはと笑い出した。火の玉事件が解決に向かっていることがよっぽど嬉しいようだ。翠都の税収は大きく観光業に依存しているため、火の玉事件による観光客の激減は死活問題だったのだろう。


「よろしかったら、今晩、ご一緒に晩餐でもいかがですか?おいしい大陸料理の店をご紹介しますぞ?」

「いいえ、今晩も調査がありますから。」


久遠寺市長は陽気に「そうですか!」と笑うだけで特に気に留める様子もなかった。



ー---



「店の予約を確認したら、久遠寺市長が数人の友人たちとこちらの高級料理店を今晩訪れることがわかりました。昼間の市長の様子からすると、火の玉事件が解決しそうなことを誰かに報告するのだと思います。」

「すごい喜んでましたもんね…。」

「久遠寺市長のあの高級志向…、報告されている市長の給料ではとても賄えませんからね…。まあ久遠寺家はお金持ちなのでそちらからの伝手かもしれませんが。脱税に一枚かんでいてもおかしくないのではないかと。そんな市長が火の玉事件の解決を喜び勇んで報告する相手と言えば…。」

「脱税仲間、というわけですね。」

店の入り口の方が騒がしくなり、久遠寺市長たちが来店してきたらしいことを伝えてくる。

「二乃子殿は給仕として市長たちの会話や集まっている人たちの人相を把握してください。…ところで、給仕なんてできるんですか?」

「できませんが、存在感を消してぼろが出ないようにします。飲み物をひっくり返さない限り、大丈夫でしょう。」

ちょっと不安になった満だったが、頭を振って不安を追いやる。

「とりあえず、無茶はしないでくださいね。俺は正面から貴族の客として店にはいります。」

大貴族である実家御用達の宿で身だしなみを整えてきた満を見て、二乃子は「ああ」と納得したように声をあげた。『それで今日はかっこいいんですね』とか言ってくれるのかな、と思いきや。


「それで髪の染色を落としたんですね。やっぱり染めた焦げ茶より地毛のダークレッドの方が私は好きです。」

服装にはノータッチ。でも褒められてるからこれはこれでいいか。



ー---



二乃子を送り出して、少し間をあけてから店に入る。

「予約はしていないんだが、夕飯をいただくことはできるかな?」

貴族の令息、という装いで受付に声をかける。元々、満は派手な容姿をしている。異人の母の赤毛と緑の目が混ざり、ダークレッドの髪に暗みがかっているがよく見れば緑色の目をしていた。二乃子の護衛業に徹する時にはひたすら目立たぬように髪を焦げ茶に染めて、目や顔立ちに注目が集まらないようにぼかした化粧をするか、二乃子に目立たなくなる結界をかけてもらっている。

ちなみに、長年一緒にいる満にも、二乃子の繰り出す巫女の技の仕組みはよくわかっていない。だからきかないでほしい。

今日はその全てを取り払い、地の容姿で店を訪れていた。上物の着物を着れば良いところの貴族の青年のできあがりである。それに異人の血を引いた貴族の青年というのはまだまだ少ない。というか、ほぼ一意に定まる。


「もしや、九条家の方ですか?もちろんでございます。すぐにご案内いたしますので少々お待ちください。」

飛び出してくるのは実家の名前だ。地方の一料理店にまで轟いている実家の名声のすごさよ。

受付の女性はすぐに奥に引っ込み、代わりに店の代表と思われる男性が現れた。

「よくぞいらしてくださいました。」

「ありがとうございます。どこの店もやっていなかったので困っていたところでした。」

「翠都へは観光へ?」

「いえ。港の方へ出るのでその前の寄り道です。」

「そういえば、港町の中浜から九条家のご領地である北西州に船が出ているんでしたね。そちらに?」

「ええ。明日の早朝には出発しますので、簡単な食事をできればと。見繕ってもらえますか。」

「もちろんでございます。どうぞお席へご案内いたします。」

案内されて店の奥へと入っていく途中では市長たちがいると思われる個室からにぎやかな笑い声が聞こえてきた。すでに大分盛り上がっている様だ。

「翠都は怪異が出たとかですっかり落ち込んでしまっているように見受けられましたが、こちらの店はにぎわっているようですね。」

「はい。ありがたいことに怪異が出たという場所からは離れていますし、わが店を気に入ってくれているお得意様がいらっしゃいますから。」

店主と市長に後ろ暗いつながりは特になさそうだ。

「しかし、やはり観光で訪れてくださるお客様が減っておりますから、売り上げは以前ほどはないのが現状です。」

「そうですか…。早く解決するといいですね。」

「ええ。」

満は一人で店を訪れたが、案内されたのは個室だった。控えていた給仕の女性がメニューを持ってきてくれて、そこからいくつか選び、注文をする。食事を待つ間は店主が満の話し相手をしてくれていた。

「観光客がいないということは、客は専ら地元の方ですか?」

「はい。役所の職員の方や行商でいらっしゃる商人の方ですね。久遠寺市長にも懇意にしていただいております。」

「確か久遠寺家の縁戚の方でしたね。」

「はい。週に一度は部下の方やご家族を連れてきてくださっています。」

「もしや先ほどの?」

「はい。」

笑い声の種類からして男性ばかりと思われるから、今日は『部下の方』の方だろう。運ばれてきた食事に満が手を付け始めると、ごゆっくりと言って店主は個室を出て行った。


さて、そろそろ二乃子殿が報告に来るはずだが…。




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