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第二章 気の早い雪女
2 エリート令息、防寒具をそろえる
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「はあ、山の神を祀る祠、ですか?」
宿屋『つる』の店主は腕を組んで考え込んだ。
「私の亡くなった母はよく山の上の祠に出かけていましたが、あまりにも道行が険しいということで年を取るにつれていかなくなりましたが…。」
「詳しい場所などはご存じで?」
「そこまでは…。」
「そうですか…。他にその祠に通っていた方はいらっしゃいますか?」
「どうでしょう…。母も一人で参っていたので。」
朝食の席で満は早速聞き込み調査をしていた。向かいではホカホカの白飯とお味噌汁を二乃子がもそもそと食べている。
「どちらの方向かもわかりませんか?」
「東の方だったと思いますが。」
礼を言うと店主はにこやかに去って行った。
「東に行ってみましょう。」
箸をおいた二乃子が揚々と宣言をするが、それには満が待ったをかける。
「こんな雪が深いのに方角だけで祠を見つけられるわけがないでしょう!」
「し、しかし、私なら近づけば大体の居場所を検知できると思います。早く解決した方が町の人のためなのでは?」
「ダメです。危険すぎます。雪山に入れるような防寒具もないですし、今日は情報を集めながら装備を揃えますよ。」
そう言って満はお代わりの白飯を二乃子のお茶碗に盛った。
ーーーー
「山の神?祠?知らないねえ。」
「昔、祖父が祠に通っていたけれど、詳しい場所までは…。」
「なんでも冬でも道中で巨大熊が出たとかで、通うのをやめてしまったらしいよ。」
「私たちの世代では行っている人はいないんじゃないかねえ。」
「ああ、男でも険しい道を行くからやめなさいと死んだお袋に言われたな。」
聞き取りを続けていた満は出てくる情報の少なさにげんなりした。雪の中危険な山道を進む、以外の情報がない。あとは東に行くことか。
満は護衛も務めることができるほど体を鍛えているが、二乃子は健康管理程度の運動しかしていない。はたして、そのような道を行くことができるのか…。
体が限界なことに気づかずに途中で倒れるかもしれない。さすがに雪山で人を背負って下山するのは満にも無理だ。
渋い顔をしている満の横で、二乃子はなんの心配もないかのような顔で町民に質問をする。
「このあたりで一番ご高齢な方はどなたでしょうか?」
「それは大丸屋のふく婆だろう。御年80になるときいたよ。そういえばあんたたちは雪山装備を探していたな。大丸屋で揃えられるよ。」
ーーーー
「おふくさん、山神の祠についてご存じですか?」
「…はい?」
「山の上の祠について…?」
「…なんですって?」
「山の、祠、…!」
「…へえ?」
満の声はふく婆には届かなかった。
「すみませんね。祖母はかなり耳が遠くなっていて。」
大丸屋の旦那は申し訳なさそうに満と二乃子にお茶を出してくれた。
「物忘れも激しくて、お力にはなれないかもしれません。」
「何か、祠について聞いたことはありますか?」
「私は何も…。亡くなった父でしたら知っていたかもしれませんが。」
「そうですか…。」
これは本当に方角の情報だけで雪山に挑むことになりそうだ。
「こちらに笠と蓑を用意していますが、どうなさいますか?」
「ありがとうございます。…二乃子殿、試着してみてください。」
まず、小柄な二乃子にあうサイズのものを選ぶ。
「やはり、結構絞らないといけないですね。」
「すみません。それが一番小さいものでして。」
蓑にすっぽりと埋まった二乃子に笠までかぶせると、もはや藁色の塊である。そこからひょっこりと顔を出す二乃子はこれはこれで可愛い。
「雪山用の靴もありますか?」
「そちらはさらに小さいものがないですね…。」
二乃子の防寒具を選び終え、満のものを選んでいる間に、二乃子がふく婆に話しかけていた。
「おふくさん。」
「はあい?」
「お山の神様をお参りしたことはありますか?」
「ああ、ああ。もちろんあるよ。」
「どのような神様でした?」
…なんで二乃子だと会話ができるのか。満は首を傾げつつ耳を傾ける。
「大きな白い髪の神様でねえ…。」
「お供えは何を?」
「いつも鹿肉と山の果物をねえ。」
「鹿肉、肉食な神様なんですね。」
「父はお酒もそなえていたけどもねえ、私にゃ重くてねえ。」
「なるほど。お酒もお持ちした方がいいようですね。」
二乃子はお茶をすする。そして話は終わったとばかりに呑気な一言。
「お茶がおいしいですね。」
「いやいや、二乃子殿、場所!場所きいて!」
満の慌てたつっこみによってふく婆からおおよその祠の場所を聞き出すことができた。
「祖母とこんなにも会話ができる方は初めてですよ…。」
感心した様子の大丸屋の店主に見守られながら、満は二乃子が聞き取った情報をメモしていく。
「入口のところに小さい熊の石像が置いてあるんだよ。」
「なるほど。熊とは珍しいですね。」
「熊の石像のすぐ横に階段があってねえ。そこを登ると祠だよ。」
「その入口はどちらの山にあるのでしょう?」
「裏山をちょっと上がったところだよ。」
「裏山!?」
店主が裏返ったような声をあげた。驚いて満が振り返る。
「ど、どうかされました?」
「この街道から裏山への道は険しいんです。熊も出るので腕と体力に自信のある猟師以外は入って行かないのです。」
「熊が出る険しい道というのは街の人の話とも一致しますが…。さすがにこの寒さなら熊は冬眠しているでしょうが…。」
「そ、そうですね。」
「しかし、冬でも道中で熊が出たという話もありましたね。」
二乃子は呑気に顔をあげて爆弾発言を落とす。
「いや、二乃子殿が言っちゃうと本当に熊が出るかもしれないじゃないですか…。」
不思議の技を扱う巫女たちは『言霊』というものを信じている。発した言葉が現実になるというものだ。
……フラグとも言う。
宿屋『つる』の店主は腕を組んで考え込んだ。
「私の亡くなった母はよく山の上の祠に出かけていましたが、あまりにも道行が険しいということで年を取るにつれていかなくなりましたが…。」
「詳しい場所などはご存じで?」
「そこまでは…。」
「そうですか…。他にその祠に通っていた方はいらっしゃいますか?」
「どうでしょう…。母も一人で参っていたので。」
朝食の席で満は早速聞き込み調査をしていた。向かいではホカホカの白飯とお味噌汁を二乃子がもそもそと食べている。
「どちらの方向かもわかりませんか?」
「東の方だったと思いますが。」
礼を言うと店主はにこやかに去って行った。
「東に行ってみましょう。」
箸をおいた二乃子が揚々と宣言をするが、それには満が待ったをかける。
「こんな雪が深いのに方角だけで祠を見つけられるわけがないでしょう!」
「し、しかし、私なら近づけば大体の居場所を検知できると思います。早く解決した方が町の人のためなのでは?」
「ダメです。危険すぎます。雪山に入れるような防寒具もないですし、今日は情報を集めながら装備を揃えますよ。」
そう言って満はお代わりの白飯を二乃子のお茶碗に盛った。
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「山の神?祠?知らないねえ。」
「昔、祖父が祠に通っていたけれど、詳しい場所までは…。」
「なんでも冬でも道中で巨大熊が出たとかで、通うのをやめてしまったらしいよ。」
「私たちの世代では行っている人はいないんじゃないかねえ。」
「ああ、男でも険しい道を行くからやめなさいと死んだお袋に言われたな。」
聞き取りを続けていた満は出てくる情報の少なさにげんなりした。雪の中危険な山道を進む、以外の情報がない。あとは東に行くことか。
満は護衛も務めることができるほど体を鍛えているが、二乃子は健康管理程度の運動しかしていない。はたして、そのような道を行くことができるのか…。
体が限界なことに気づかずに途中で倒れるかもしれない。さすがに雪山で人を背負って下山するのは満にも無理だ。
渋い顔をしている満の横で、二乃子はなんの心配もないかのような顔で町民に質問をする。
「このあたりで一番ご高齢な方はどなたでしょうか?」
「それは大丸屋のふく婆だろう。御年80になるときいたよ。そういえばあんたたちは雪山装備を探していたな。大丸屋で揃えられるよ。」
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「おふくさん、山神の祠についてご存じですか?」
「…はい?」
「山の上の祠について…?」
「…なんですって?」
「山の、祠、…!」
「…へえ?」
満の声はふく婆には届かなかった。
「すみませんね。祖母はかなり耳が遠くなっていて。」
大丸屋の旦那は申し訳なさそうに満と二乃子にお茶を出してくれた。
「物忘れも激しくて、お力にはなれないかもしれません。」
「何か、祠について聞いたことはありますか?」
「私は何も…。亡くなった父でしたら知っていたかもしれませんが。」
「そうですか…。」
これは本当に方角の情報だけで雪山に挑むことになりそうだ。
「こちらに笠と蓑を用意していますが、どうなさいますか?」
「ありがとうございます。…二乃子殿、試着してみてください。」
まず、小柄な二乃子にあうサイズのものを選ぶ。
「やはり、結構絞らないといけないですね。」
「すみません。それが一番小さいものでして。」
蓑にすっぽりと埋まった二乃子に笠までかぶせると、もはや藁色の塊である。そこからひょっこりと顔を出す二乃子はこれはこれで可愛い。
「雪山用の靴もありますか?」
「そちらはさらに小さいものがないですね…。」
二乃子の防寒具を選び終え、満のものを選んでいる間に、二乃子がふく婆に話しかけていた。
「おふくさん。」
「はあい?」
「お山の神様をお参りしたことはありますか?」
「ああ、ああ。もちろんあるよ。」
「どのような神様でした?」
…なんで二乃子だと会話ができるのか。満は首を傾げつつ耳を傾ける。
「大きな白い髪の神様でねえ…。」
「お供えは何を?」
「いつも鹿肉と山の果物をねえ。」
「鹿肉、肉食な神様なんですね。」
「父はお酒もそなえていたけどもねえ、私にゃ重くてねえ。」
「なるほど。お酒もお持ちした方がいいようですね。」
二乃子はお茶をすする。そして話は終わったとばかりに呑気な一言。
「お茶がおいしいですね。」
「いやいや、二乃子殿、場所!場所きいて!」
満の慌てたつっこみによってふく婆からおおよその祠の場所を聞き出すことができた。
「祖母とこんなにも会話ができる方は初めてですよ…。」
感心した様子の大丸屋の店主に見守られながら、満は二乃子が聞き取った情報をメモしていく。
「入口のところに小さい熊の石像が置いてあるんだよ。」
「なるほど。熊とは珍しいですね。」
「熊の石像のすぐ横に階段があってねえ。そこを登ると祠だよ。」
「その入口はどちらの山にあるのでしょう?」
「裏山をちょっと上がったところだよ。」
「裏山!?」
店主が裏返ったような声をあげた。驚いて満が振り返る。
「ど、どうかされました?」
「この街道から裏山への道は険しいんです。熊も出るので腕と体力に自信のある猟師以外は入って行かないのです。」
「熊が出る険しい道というのは街の人の話とも一致しますが…。さすがにこの寒さなら熊は冬眠しているでしょうが…。」
「そ、そうですね。」
「しかし、冬でも道中で熊が出たという話もありましたね。」
二乃子は呑気に顔をあげて爆弾発言を落とす。
「いや、二乃子殿が言っちゃうと本当に熊が出るかもしれないじゃないですか…。」
不思議の技を扱う巫女たちは『言霊』というものを信じている。発した言葉が現実になるというものだ。
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