世話焼き令息とズボラな巫女姫の怪異まみれの冒険記

ぺきぺき

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第二章 気の早い雪女

1 エリート令息、旅に出る

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国一番の大貴族・九条くじょう家の生まれであるみつるは帝の治める国の官吏として働いていた。弱冠16歳で官吏登用試験である国試に合格した満は最初の一年を新設の巫覡ふげき院で働いていた。

満はそこで運命の人である、大巫女の二乃子にのこに出会うのである。


ゆるくウエーブを描く薄い黒髪に灰色の目、整った顔立ちの美しい同い年の少女は満がいなければ巫覡院の仕事をこなすことはできなかっただろうと確信できるほど、困った人だった。

巫女としての腕前は一流である。数々の怪事件をたちまち解決し、巫覡院創設からわずか二年で救国の巫女姫として王都で名を馳せるようになった。

しかし、私生活はずぼらで放っておくとご飯も食べないし、睡眠もとらない。あげくは体力的限界を迎えて倒れる。


そんな二乃子が一人で旅に出て地方の怪異を解決すると言い出した時は、一人でなんて絶対に行かせられないと、なんとか裏から手をまわし、仕事を手に入れて表向きは彼女の護衛としてなんとか一緒に旅に出た。


これは少し時間を巻き戻し、二人が旅立って最初の怪異の話だ。



17歳の秋に二人は北へ向かう近衛兵の一団と一緒に旅立った。

「紅葉がきれいですね!」

二乃子は満と馬に相乗りしながら美しい木々の赤を飽きずに四日ほど眺めていた。

「ちょっと行く先の天気が悪そうなのが気になりますね。急に冷えてきたし。今日は宿場町の鹿籠に到着する予定なので、無事にたどり着けば屋根の下で寝られるはずなのですが…。」

「多分、雪が降っているんだと思います。」

「雪?まだその季節ではないですよ?」

「でも降っていると思います。」

「じゃあ後で防寒着を出しましょうか。」

予知の力をもつ巫女である二乃子が言うのだから本当なのだろうと満は思った。ただ、この時は雪がちらつく程度だとも思っていた。



ーーーー



徐々に空が暗くなり雪がちらついたと思ったら、周囲に雪が積もるのが目立つようになり、一行は進行のスピードを緩めることとなった。宿場町の鹿籠に到着したのは予定よりだいぶ遅く、暗くなってからだった。

鹿籠にはすっかり雪が積もり、冬景色だった。


「ようこそいらっしゃいました。お待ちしていました。」

近衛兵が利用する宿屋の主人はすっかり困った顔で出てきた。

「主人、これはいったいどういうことですか?」

「それが私たちにもわからないのです。突然雪が降りだしたかと思うとすぐに積もりまして…。この先は真冬のように積もっております。馬で進むのは無理かと。」

「そうか…。」

隊を率いていた隊長は困った顔で腕を組んでうなっている。


「二乃子殿、雪を予想していましたが、これはもしや…?」

「はい。雪女の仕業だと思います。怪異です。」

「雪…女…ですか?」

「はい。おそらくこの先の山のどこかに雪女がいて雪を降らせているのだと思います。」

「止めるにはどうすればいいのですか?」

「おそらく、雪女はもともとこの山にいた存在だと思います。それが活性化して、いつもより早くに雪を降らせてしまっているのだと。なので鎮静化しましょう。」

「退治ではなく、鎮静化ですか?」

「本来の雪女は冬に雪を降らせるだけの害のない怪異です。雪がふることによって春が潤うのですから、退治するべきではありません。」

満は頷いた。雪解けの水がなければ山の暮らしは立ち行かなくなるだろうし、平野に流れる河川もその流量を減らすことになるだろう。

「で、鎮静化はどのようにするのです?簡単にできますか?」

「ええ。ただ、雪女までたどり着くのが大変そうです。雪が強いところに進んでいかないといけないので。」

「雪が強いところ…ですか?」

満は来るときに見えた灰色の雲に覆われた山頂を思い出す。

「あ、あの雪深い山を登るんですか!?」

二乃子は明後日の方向を向いて満から視線を外す。満には不安しかなかった。



ーーーー



「なるほど…、巫女殿が山頂に向かって雪女を鎮静化する必要があるわけか…。」

隊長は強風にも倒れそうな二乃子の華奢な体型を上から下まで見て困惑したような表情をした。

「巫女殿…、ここの山は高くはないが…、これだけの雪だ。まず山頂まで行くことは不可能だ。」

「雪女がいるのは必ずしも山頂ではありません。おそらく、この辺りで山神をまつる祠などの伝承があるはずです。そのあたりにいると思います。」

「雪の様子を見るに、山頂に近いことは間違いないですよね?」

「しかし、今解決しなければより雪が深くなります。夏になればましになるかもしれませんが、確かなことはわかりません。夏になっても雪が止まないかもしれません。」

隊長は腕を組んで「それは困りますが…」と言い置いた後、隊長としての決定を伝えた。

「今日は鹿籠に泊まりますが、明日は一部隊が馬を連れて雪がマシな地点まで戻ります。滞在するにもここでは馬の運動ができませんからね。
その後は様子を見てになりますが、雪がこのままならば別の道で北に向かうこととなると思います。」

隊長は地図をその場に大きく広げた。

この隊が進もうとしていたのはこの国の最北に位置する北西州の州都への最短経路である。それ以外の道がないわけではない。山道を行く方法がいくつかと海路を行く方法がある。
しかし、ここから一番早い経路を選んでも一週間以上のロスとなる。


「陸路では他の経路でもその”雪女”が出る可能性があるでしょうか?」

「雪女はいるでしょうが、活性化しているかはその土地の信仰状態によるでしょう。」

「「信仰??」」

満と隊長の声が揃った。

「雪女は雪深い地域では神のように祀られていることが多いです。そうやって祀られている雪女は比較的穏やかな雪を降らせるのです。
ここの雪女の荒れようは…、忘れられているのではないかと。」


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