わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき

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第4章 15歳の辺境聖女

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三年間通った聖カリスト学園中等部を卒業した後、建国祭とその後の数週間を王都で過ごし、その後早めに学園に戻ってきたクリスはヤスミンと高等部の寮に荷物を移し、整理をしていた。

公爵家にずっといてもやることがないので、ニコレットとイザベルと予定をあわせて残りの夏期休暇を学園で過ごすことにしたのだ。


「高等部の寮は中等部よりも部屋が広いですね。物が増やせますね。大聖女の部屋には及ばないですけど。」

「前の部屋でも十分に広かったわ!私は最初平民の聖女用の部屋に住んでいたのよ?」

「本当にマルシャローズ様が憎らしいですね。」

「ヤスミンったら。」

直近の姉との邂逅はクリスマスのことだ。マルシャローズはクリスを見てあからさまに嫌悪の感情を垂れ流していた。数年クリスの横にて人の感情の詳細を学んだフィフィ曰く、『美を妬む気持ちが混じっているから、クリスが綺麗になったことがくやしいのよ』とのことだった。

きっとマルシャローズはクリスが学園で苦労していることを期待したのだろう。実際苦労はしているが、その分楽しいことも多い学園生活だ。「みっともなく太って!」とか「ずいぶんとたるんだ学園生活を送っている様ね!」とか「それじゃあ嫁の貰い手もないわ。学園は縁談を見つける場所でもあるのに。」とか散々言われたが、全て「その通りです」とスルーした。

まあ、あれだけ悪意をぶつけられるとつらいものはもちろんあるが。

後ろに控えていたヤスミンが後からクリスの代わりにとても怒ってくれていたので大分気にならなくなった。


マルシャローズ対策としてアリシラローズはひたすらクリスを地味に、従順に、という指導をしたが、ヤスミンはクリスの美を磨くことに余念がない。

「マルシャローズ様のことだけ考えて生きていてはいけません。周囲の味方を増やすことが最終的にはマルシャローズ様に対抗する手段となるのです。
クリス様が皆の尊敬を集める素晴らしい公爵令嬢であられることが、将来的にクリス様を助けます。」

ということらしい。


そこに、クリスローズの部屋の扉が激しくノックされた。

「クリスローズ様!ごくつろぎのところ申し訳ございません!協会より急ぎの使者が来ています!」


クリスの学園生活は唐突に終わることとなる。



ー---



「カミーユ?あなたが来たの?」

「はい。お久しぶりです、クリスローズ様。重要な案件ですので、私がまいりました。」


神官長付きの神官であるカミーユが応接室で待っていた。カミーユは20代半ばの若手の神官だが、モロー侯爵家の出であることもあり、将来は神官長になると噂されている優秀な神官だ。

「何があったの?」

「祈りの結界に穴が開きました。」

「そんな!建国祭からまだ二週間程度よ?」

「そのまさかなんです。」


青ざめて手で顔をおおったクリスとカミーユの前に紅茶をだしながらヤスミンも厳しい顔だ。

「大聖女様は穴のところに行かれたのですか?」

クリスは嫌な予感がしながら重要な案件を持ってきたというカミーユを見た。カミーユは申し訳ないという感情を垂れ流している。


「マルシャローズ様は、辺境にはいかない。あんな田舎はいやだとおっしゃられて。代わりにクリスローズ様を辺境聖女にして送れ、と。」

「なんですって!!」

怒りの声をあげたのはヤスミンだ。

「それを神官長様は了承されたのですか!?信じられないような我儘ではないですか!?大聖女の責務を放り出して!?」

「ヤスミン、落ち着いて。私はお引き受けするわ。」

「ですが、クリス様…。」

「罪のない国民を危険にさらすことはできないもの。それに…。」


ヤスミンを落ち着けたクリスはカミーユに向き直った。

「私はいつかは大聖女として教会に戻りたいと考えていました。聖女としての仕事は断りません。それに、神官長が今回のことを許したのにはきっと理由があるんだと思いますし。」

「クリスローズ様、ありがとうございます。」

カミーユから感動したような気持が伝わってくる。

「クリス様、成長されましたね。楽しい学園生活を送られていると聞きましたよ。辺境聖女になれば学園には通えませんよ。それでも辺境聖女になってくれますか?」


クリスは三年間の学園生活を振り返った。

友達になったニコレットとイザベル、剣術の稽古の令息たち、音楽のクラスのみんな…。クリスも令嬢として経験を積み、生粋の令嬢と大差のない礼儀作法を身に付けた。
それに加えて祈りの結界から解放されたクリスは体調も回復し、髪や肌の色つやもよくなった。身長だけは平均よりも小柄のままだが。

つまりはこの三年間で高貴な美しさを身に付けたのだ。そして貴族の友達もたくさん。それはマルシャローズにはないものだ。


「はい。」

クリスは大きく頷いた。


「そうとなれば、早速寮を出てまずルロワ公爵家に帰りましょう。その前に先生たちやニコレットとイザベルに挨拶に行きたいわね。
…私が辺境に行く件は話しても大丈夫かしら?」

「ええ。すぐに知れることでしょうから。学園の方には私からも話を。後日、ルロワ公爵と神官長からも話が行くはずです。」

「わかったわ。」



ー---


「そんなことって…!クリス…!これからの三年間も一緒だと思っていたのに…!」

ニコレットは青ざめた顔でクリスを抱きしめた。年々大きくなっていく胸がクリスのまだ平らに近い胸を押す。ぐんと背が伸びて小柄な男性ぐらいの背丈があるイザベルは怒りの表情だ。普段クリスに怒ってみせるときとちがって愛がないのでとても怖い。

「私がやり殺します。」

「何か物騒な言葉が聞こえたわ。やめてね、イザベル。それにそれでも私は辺境に行かないといけないわ。」

「でも、ここまで立派な公爵令嬢にお育てしたのに…、今度は過酷な辺境に送られるだなんて…。」

「私は剣術もやっていたし、身体も強化できるから大丈夫よ。」

「辺境聖女も黒騎士も平民ばかりで逆に身に付けた礼儀作法が仇になるかもしれないわ。」

「大丈夫よ!これまでもいろんなところに放り込まれてきたけれど、なんとか楽しんでこれたわ。」

「そうね。6歳で聖女になって8歳で大聖女、12歳で貴族の学園に来て、今度は辺境。でもそうね。行く先々でファンを増やしているクリスなら、きっと辺境でも大丈夫よ。」

ニコレットはイザベルの手も引いてクリスとイザベルを一度に抱きしめた。

「手紙を書いてね。」

「もちろん。ニコレットとイザベルの返事も欲しい。」

「もちろんよ。」

「私の領地に来るなら辺境に遊びに行くわ。」


荷物をまとめてくれたヤスミンの待つ門のところに向かうと、クリスと同じように早めに寮に入っていた同級生たちが見送りに来てくれていた。もちろん熱心なクリスファンクラブ会員だ。

「クリスローズ様、お気をつけて!」

「いつでもお力になります!」

「きっと仇はとりますので!」

最後の人は物騒だが、クリスはたくさんの見送りに感激してあまり気にならなかった。周りからは本当に温かい感情が伝わってくるのだ。腕の中ではクリスの感情につられてフィフィがニャーと鳴いて喜んでいる。

「みんなありがとう!行ってきます!」


クリスは学園を出る馬車の中からいつまでも手を振っていた。



ちなみにこの話はすぐに貴族の間で伝わり、またマルシャローズは評判を落とすのだが、教会に籠っているマルシャローズは知る由もない。



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