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第5章 17歳の愛し子
1 遥か東の島国にて
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オールディの遥か東にある島国にはルロワ公爵家の次女であるアリシラローズが嫁いでいた。先日双子の女児を出産し、四児の母となっていた。実は二回連続の双子である。双子の女児の兄は双子の男児だ。
産後数日のアリシラローズはふかふかに整えられた寝床に座ってクリスからの手紙を読んでいた。一年ほど前から辺境聖女になったクリスが春に北の辺境から送ってくれた手紙が夏になってようやく届いたのだ。
手紙に辺境聖女になった理由は書かれていなかったが、恐らく姉のマルシャローズが張った結界が関係しているのだろう。何か問題があったのだ。
最初に大聖女だったころにも、穴こそは開かなかったが結界が弱いという意見は常にマルシャローズに付きまとっていた。数年のブランクを経た今ではさらに実力が墜ちていても驚きはない。
「ローズ。」
ノックもなしに部屋に入ってきたのは、オリエンタルな美しい顔立ちの青年だ。
「ちょっと、ソラ!ノックをしてっていつも言ってるでしょう?」
「何か見られてまずいことでもしていたのか?」
ソラはいつも通りの不遜な態度でローズの隣に座って手元を覗き込んだ。手紙を見ていいとはまだ言っていないのに。目の前にある綺麗な顔を見ると文句を飲み込んでしまう。
綺麗な男性というと、元婚約者のアーチー殿がかっこよかったような記憶があるが、今は薄らぼんやりとしか顔が思い出せない。確か金髪だったと思うから、目の前のソラとはベクトルの違うかっこよさだったのだろう。
ふと視線を感じて顔をあげると、ソラが不機嫌そうな顔でこちらを見ていた。
「どうしたの?」
「他の男のことを考えていただろう?」
「えええ?」
不遜で独占欲が強くてかっこいい、これがアリシラローズの旦那様だ。
「妹殿からの手紙だろう?」
「ええ。クリスも元気みたい。雪解けしたから北の辺境に旅立つ前に連絡をくれたみたい。」
「会いたいか?」
「それは会いたいけれど…。」
今、大好きな旦那様と可愛い四人の子供たちに囲まれて、アリシラローズは幸せだ。だが幸せな生活の裏で逃げるように母国を出てきてしまったこと、大切な妹が辛い環境に陥ることをわかっていながらおいてきてしまったことを後悔していた。
「でも、子供たちやあなたを置いて半年近く不在にしなければならないわ。あの子は国を出れないだろうし。いいのよ。この後悔は一生背負っていくわ。」
「子供たちは置いていくことになるが、俺は置いて行かない。」
「……どういうこと?」
ソラは懐からこの国の言葉で書かれた任命書を取り出して見せた。なんとか読める箇所をたどって内容を理解する。
「あなたをオールディへ派遣するって書いてあるように読めるけれど…?」
「あってる。オールディの国王陛下にこの国からの大使として謁見する。あっちの国ではパートナーの仕事が多いんだろう?出発は半年後でまだ先だが、ついてきてほしい。」
「半年後…、社交…、どれくらい滞在するの?」
「一月の予定だ。」
「大変だわ…!」
アリシラローズは寝床から急いで立ち上がる。
「準備することがたくさんあるわ!舞踏会か晩餐会があるからドレスを数着仕立てないといけないし、体型もしぼらないと!作法も確認しておかないといけないし、向こうの流行りも調べなきゃ!」
ソラが走っていきそうなアリシラローズの腕をつかみ、寝床に戻して軽く抱きしめる。
「待て待て、落ち着け。まだ、産後なんだから。」
「落ち着いていられないわ!」
姉に会ってねちねちと言われるのは嫌だが、正直会いたくないのは姉と父だけだ。クリスや学園の友人たちに会えるのはとても嬉しい。気がかりは子供たちだが、ソラの実家はこの国一番の大貴族でありながらアットホームで姉弟たちも協力的だ。
子供たちは大丈夫だと信頼できる。会えないのはやっぱりさみしいが…。
「…ありがとう、ソラ。」
お礼は小さな声だったが、しっかり聞こえたらしく渾身のドヤ顔を向けられた。
産後数日のアリシラローズはふかふかに整えられた寝床に座ってクリスからの手紙を読んでいた。一年ほど前から辺境聖女になったクリスが春に北の辺境から送ってくれた手紙が夏になってようやく届いたのだ。
手紙に辺境聖女になった理由は書かれていなかったが、恐らく姉のマルシャローズが張った結界が関係しているのだろう。何か問題があったのだ。
最初に大聖女だったころにも、穴こそは開かなかったが結界が弱いという意見は常にマルシャローズに付きまとっていた。数年のブランクを経た今ではさらに実力が墜ちていても驚きはない。
「ローズ。」
ノックもなしに部屋に入ってきたのは、オリエンタルな美しい顔立ちの青年だ。
「ちょっと、ソラ!ノックをしてっていつも言ってるでしょう?」
「何か見られてまずいことでもしていたのか?」
ソラはいつも通りの不遜な態度でローズの隣に座って手元を覗き込んだ。手紙を見ていいとはまだ言っていないのに。目の前にある綺麗な顔を見ると文句を飲み込んでしまう。
綺麗な男性というと、元婚約者のアーチー殿がかっこよかったような記憶があるが、今は薄らぼんやりとしか顔が思い出せない。確か金髪だったと思うから、目の前のソラとはベクトルの違うかっこよさだったのだろう。
ふと視線を感じて顔をあげると、ソラが不機嫌そうな顔でこちらを見ていた。
「どうしたの?」
「他の男のことを考えていただろう?」
「えええ?」
不遜で独占欲が強くてかっこいい、これがアリシラローズの旦那様だ。
「妹殿からの手紙だろう?」
「ええ。クリスも元気みたい。雪解けしたから北の辺境に旅立つ前に連絡をくれたみたい。」
「会いたいか?」
「それは会いたいけれど…。」
今、大好きな旦那様と可愛い四人の子供たちに囲まれて、アリシラローズは幸せだ。だが幸せな生活の裏で逃げるように母国を出てきてしまったこと、大切な妹が辛い環境に陥ることをわかっていながらおいてきてしまったことを後悔していた。
「でも、子供たちやあなたを置いて半年近く不在にしなければならないわ。あの子は国を出れないだろうし。いいのよ。この後悔は一生背負っていくわ。」
「子供たちは置いていくことになるが、俺は置いて行かない。」
「……どういうこと?」
ソラは懐からこの国の言葉で書かれた任命書を取り出して見せた。なんとか読める箇所をたどって内容を理解する。
「あなたをオールディへ派遣するって書いてあるように読めるけれど…?」
「あってる。オールディの国王陛下にこの国からの大使として謁見する。あっちの国ではパートナーの仕事が多いんだろう?出発は半年後でまだ先だが、ついてきてほしい。」
「半年後…、社交…、どれくらい滞在するの?」
「一月の予定だ。」
「大変だわ…!」
アリシラローズは寝床から急いで立ち上がる。
「準備することがたくさんあるわ!舞踏会か晩餐会があるからドレスを数着仕立てないといけないし、体型もしぼらないと!作法も確認しておかないといけないし、向こうの流行りも調べなきゃ!」
ソラが走っていきそうなアリシラローズの腕をつかみ、寝床に戻して軽く抱きしめる。
「待て待て、落ち着け。まだ、産後なんだから。」
「落ち着いていられないわ!」
姉に会ってねちねちと言われるのは嫌だが、正直会いたくないのは姉と父だけだ。クリスや学園の友人たちに会えるのはとても嬉しい。気がかりは子供たちだが、ソラの実家はこの国一番の大貴族でありながらアットホームで姉弟たちも協力的だ。
子供たちは大丈夫だと信頼できる。会えないのはやっぱりさみしいが…。
「…ありがとう、ソラ。」
お礼は小さな声だったが、しっかり聞こえたらしく渾身のドヤ顔を向けられた。
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