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第5章 17歳の愛し子
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クリスはこの春に17歳になった。辺境聖女生活もこの夏が終われば二年となる。去年は夏も辺境で過ごしたが、今年は建国祭の一月前を目途に首都に戻る。
今年は、クリスの大好きな姉のアリシラローズが東の島国からの大使の妻として帰ってくるのだ。
「クリス様、嬉しそうですね。」
「もちろんよ!だってアリシラお姉さまに会えるのよ?7歳の時以来よ!」
「もう10年近くになりますね。私もクリス様に仕えて10年にもなると思うと感慨深いです。」
南の辺境から首都に旅立つ日の朝食の席で紅茶を入れてくれているヤスミンも感慨深い顔だ。当時10代の空回り気味の教会侍女だったヤスミンも、今や20代後半でキャリアも10年を超えたベテランだ。
「首都では大使殿を歓迎する舞踏会がありますから、久々にドレスを着ていただけると思うと腕がなりますわ。」
今回に合わせて髪をちょっとだけ伸ばし、今は肩下ぐらいの長さがある。簡単なまとめ髪ならできるだろう。
「ヤスミンが喜んでくれて嬉しいわ。」
ヤスミンは戦闘の危険がある東の辺境にも、海ばかりの南の辺境にも、冷え込む北の辺境にも、岩山ばかりの西の辺境にもついてきてくれた。
文句は何も言われなかったが、大変だったと思う。クリスを着飾るぐらいで喜んでくれるならいくらでも着飾られよう。
朝食を終え、出発の馬車に向かうと護衛をしてくれる黒騎士三人が待っていた。三人は王都にいる騎士団長に定期報告に向かう役割のついでにクリスを送っていってくれる。
そのうちの一人はクリスの幼馴染でもあるヒューゴだ。彼は貴族位を持つため騎士団長に付き合って貴族的な付き合いにも参加し、次の人事異動まで王都にとどまる。
「今回はヒューゴが一緒で嬉しいわ。」
令嬢モードのクリスの微笑みに、クリスをよく知らない若手の黒騎士達がほうっとため息をつく。クリスは気づいていないが、17歳になったクリスは公爵令嬢の淑やかさを併せ持つ美しい女性に成長していた。
相変わらず少し小柄だが、クリスの実母も小柄な人だったので遺伝なのだろう。平らなことを気にしていた胸も適度に膨らみ女性らしい丸みが体につき始めていた。
動きやすいパンツスタイルであっても、美しい女性であることは隠し切れない。
ヒューゴは照れたような感情を流しながらも、周りの目を覚ますように大きく咳ばらいをした。
「さあ、クリスは馬車に乗って。荷物は積んであるだけでいいんだよな?」
「ええ。」
ヒューゴの手を借りて馬車に乗り込む。いざ首都へと出発だ。
ー---
「これ、ヒューゴに作ったの。」
「ハンカチ?」
ヒューゴが広げたハンカチには白い鳥と黒い鳥の刺繍がされ、その下にヒューゴの名前のイニシャルが入っている。学園で刺繍を学んだクリスが今もこつこつと続ける中で作った力作だ。
「西の辺境にいる魔物の糸で作った刺繍糸の刺繍なの。だから聖女のご利益がこめられるの。」
「俺は新しいアミュレットももらっているし、他の人に…、て俺のイニシャルが入っているから、ダメか。」
「これはヒューゴ専用だから、だめ。お願いもアミュレットと違うことにしたから。」
「何をお願いしたの?」
「ヒューゴが必ず私のところに帰ってこれますようにって。」
クリスはとても真剣である。ヒューゴはちょっとふきだすように笑った後、「俺の帰る場所はクリスのところなんだな」といつものように頭をなでてくれた。
実は白い鳥がクリスで黒い鳥がヒューゴのイメージなのだが、それは恥ずかしいから言わないでおく。
「アリシラお姉さまの子供たちにもね、作ったの。魔物の糸って言ったら受け取ってもらえないかな?」
出てきたのは可愛らしい緑色のリスやカラフルな小人、角の生えたウサギや巨大な蝶の刺繍が入った四枚のハンカチだ。
「そうだな、それは黙っておいた方がいいかもな。なんの願いをこめたんだ?」
「これが、『多才に育ちますように』、『いろんなことに前向きに挑めますように』、『好きなことをできますように』、『自分の意見をはっきりと言えますように』。」
「…なんかちょっと変わっているけれどいいんじゃないか?」
「あー、いちゃいちゃしているところ悪いけれど、出発しますよ。」
呆れたように他の黒騎士が声をかけるまで、クリスとヒューゴは刺繍の模様について話し合っていた。
そうして首都に到着したのはその日の午後のことだ。クリスは教会ではなくルロワ公爵家に送り届けられ、滞在する。教会に行き、マルシャローズに出会ってしまうとそれはもうねちねちと色々言われることはわかり切っているからだ。
しばらくは辺境聖女をお休みして公爵令嬢に戻る。
「よく帰ってきたな、クリス。」
「お父様、お久しぶりです。」
出迎えたルロワ公爵は以前よりも大分老けた印象だ。マルシャローズに関する気苦労が多いのだろう。
「長旅で疲れただろう。今日はゆっくりと休むといい。明日はドレスの試着三昧だろうから。」
「ドレスの手配をしてくださり、ありがとうございます。」
「なに、ヤスミンからの指示をそのまま商人に流しただけだ。」
三人娘と何かと縁の薄かった父親はこういう時に何を話せばいいのかがわからないし、クリスも早く使用人たちに会いたかったので、その場はすぐに解散となった。
久しぶりの公爵家の料理長の手料理を堪能した後、クリスは穏やかな眠りについた。大好きな姉のアリシラローズが到着するのはこの一週間後のことである。
今年は、クリスの大好きな姉のアリシラローズが東の島国からの大使の妻として帰ってくるのだ。
「クリス様、嬉しそうですね。」
「もちろんよ!だってアリシラお姉さまに会えるのよ?7歳の時以来よ!」
「もう10年近くになりますね。私もクリス様に仕えて10年にもなると思うと感慨深いです。」
南の辺境から首都に旅立つ日の朝食の席で紅茶を入れてくれているヤスミンも感慨深い顔だ。当時10代の空回り気味の教会侍女だったヤスミンも、今や20代後半でキャリアも10年を超えたベテランだ。
「首都では大使殿を歓迎する舞踏会がありますから、久々にドレスを着ていただけると思うと腕がなりますわ。」
今回に合わせて髪をちょっとだけ伸ばし、今は肩下ぐらいの長さがある。簡単なまとめ髪ならできるだろう。
「ヤスミンが喜んでくれて嬉しいわ。」
ヤスミンは戦闘の危険がある東の辺境にも、海ばかりの南の辺境にも、冷え込む北の辺境にも、岩山ばかりの西の辺境にもついてきてくれた。
文句は何も言われなかったが、大変だったと思う。クリスを着飾るぐらいで喜んでくれるならいくらでも着飾られよう。
朝食を終え、出発の馬車に向かうと護衛をしてくれる黒騎士三人が待っていた。三人は王都にいる騎士団長に定期報告に向かう役割のついでにクリスを送っていってくれる。
そのうちの一人はクリスの幼馴染でもあるヒューゴだ。彼は貴族位を持つため騎士団長に付き合って貴族的な付き合いにも参加し、次の人事異動まで王都にとどまる。
「今回はヒューゴが一緒で嬉しいわ。」
令嬢モードのクリスの微笑みに、クリスをよく知らない若手の黒騎士達がほうっとため息をつく。クリスは気づいていないが、17歳になったクリスは公爵令嬢の淑やかさを併せ持つ美しい女性に成長していた。
相変わらず少し小柄だが、クリスの実母も小柄な人だったので遺伝なのだろう。平らなことを気にしていた胸も適度に膨らみ女性らしい丸みが体につき始めていた。
動きやすいパンツスタイルであっても、美しい女性であることは隠し切れない。
ヒューゴは照れたような感情を流しながらも、周りの目を覚ますように大きく咳ばらいをした。
「さあ、クリスは馬車に乗って。荷物は積んであるだけでいいんだよな?」
「ええ。」
ヒューゴの手を借りて馬車に乗り込む。いざ首都へと出発だ。
ー---
「これ、ヒューゴに作ったの。」
「ハンカチ?」
ヒューゴが広げたハンカチには白い鳥と黒い鳥の刺繍がされ、その下にヒューゴの名前のイニシャルが入っている。学園で刺繍を学んだクリスが今もこつこつと続ける中で作った力作だ。
「西の辺境にいる魔物の糸で作った刺繍糸の刺繍なの。だから聖女のご利益がこめられるの。」
「俺は新しいアミュレットももらっているし、他の人に…、て俺のイニシャルが入っているから、ダメか。」
「これはヒューゴ専用だから、だめ。お願いもアミュレットと違うことにしたから。」
「何をお願いしたの?」
「ヒューゴが必ず私のところに帰ってこれますようにって。」
クリスはとても真剣である。ヒューゴはちょっとふきだすように笑った後、「俺の帰る場所はクリスのところなんだな」といつものように頭をなでてくれた。
実は白い鳥がクリスで黒い鳥がヒューゴのイメージなのだが、それは恥ずかしいから言わないでおく。
「アリシラお姉さまの子供たちにもね、作ったの。魔物の糸って言ったら受け取ってもらえないかな?」
出てきたのは可愛らしい緑色のリスやカラフルな小人、角の生えたウサギや巨大な蝶の刺繍が入った四枚のハンカチだ。
「そうだな、それは黙っておいた方がいいかもな。なんの願いをこめたんだ?」
「これが、『多才に育ちますように』、『いろんなことに前向きに挑めますように』、『好きなことをできますように』、『自分の意見をはっきりと言えますように』。」
「…なんかちょっと変わっているけれどいいんじゃないか?」
「あー、いちゃいちゃしているところ悪いけれど、出発しますよ。」
呆れたように他の黒騎士が声をかけるまで、クリスとヒューゴは刺繍の模様について話し合っていた。
そうして首都に到着したのはその日の午後のことだ。クリスは教会ではなくルロワ公爵家に送り届けられ、滞在する。教会に行き、マルシャローズに出会ってしまうとそれはもうねちねちと色々言われることはわかり切っているからだ。
しばらくは辺境聖女をお休みして公爵令嬢に戻る。
「よく帰ってきたな、クリス。」
「お父様、お久しぶりです。」
出迎えたルロワ公爵は以前よりも大分老けた印象だ。マルシャローズに関する気苦労が多いのだろう。
「長旅で疲れただろう。今日はゆっくりと休むといい。明日はドレスの試着三昧だろうから。」
「ドレスの手配をしてくださり、ありがとうございます。」
「なに、ヤスミンからの指示をそのまま商人に流しただけだ。」
三人娘と何かと縁の薄かった父親はこういう時に何を話せばいいのかがわからないし、クリスも早く使用人たちに会いたかったので、その場はすぐに解散となった。
久しぶりの公爵家の料理長の手料理を堪能した後、クリスは穏やかな眠りについた。大好きな姉のアリシラローズが到着するのはこの一週間後のことである。
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