わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき

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第5章 17歳の愛し子

4 王城にて

時は少しさかのぼる。

謁見の間では先ほど到着した東の島国からの大使の謁見をいまかいまかと待ちわびていた。中央に座するのは国王陛下と王妃殿下、そのやや下座にいるのはその一人娘のコンスタンス・オールディとその夫だ。

コンスタンス・オールディは王妃譲りの黒い巻き髪を優雅に結い上げて、美しいドレスを身にまとっていたが、表情はだらしがないほどににやけきっていた。


「コニー、さすがにその表情は王女としていただけないよ。引き締められないかい?」

10も年上の夫であるアーチーが困った子を見るような顔で優しく諭してくる。

「無理よ!だって10年ぶりに親友に会えるのよ!」

そう、コンスタンスが待っているのは10年前に別れることになった無二の親友だ。今から謁見する大使の妻としてここにやってくるのだ。


謁見の間の扉がたたかれ、入場の合図とともに扉が開き、大使とその妻が謁見の間に姿を現した。

大使は美しい東洋の青年であり、美麗なオールディ式の正装と相まって謁見の間にいた人々の視線を釘付けにした。「なんと美しい…」「東の島国にはこのように美しいお方がいるのか…」と要職に就く大臣たちですらざわめくほどだ。しかし、コンスタンスの視線は妻の方から離れない。

学生の頃よりも艶の増した赤い髪と肌、大きく形よく膨らんだ胸、子供を四人産んだとは思えない細い腰、美しいオリエンタルな布地を交えたドレスがさらに彼女を美しく見せていた。


二人が所定の位置で礼をすると、もうコンスタンスは止められなかった。父王が二人に声をかける前にすくっと立ち上がり、「アリシラ~!!!」と半分叫ぶような大声をあげると大使の妻に向かってドレスとは思えないスピードで駆け寄って抱きしめたのだった。



ー---



コンスタンスはその場で父王に「24にもなって…母親でもあるのに…」とこっぴどく怒られたが、夫と大使とその妻のとりなしにより、謁見は無事に終わった。

「仲がいいとは聞いていたが、謁見で抱き着かれるレベルとは…。」

「私もまさか抱きついてくるとは思わなかったの。コニー、変わっていないのね。」

かく言う今も、コンスタンスはアリシラローズに抱き着いている。二人は聖カリスト学園の同級生で王女と公爵令嬢という身分のつり合いからも真っ先に仲良くなった。
と、コンスタンスは言っているが、実際は入学式の日にアリシラローズの美しさにときめいたコンスタンスの猛アプローチの末に愛称呼びができるまでの仲となった。


「アリシラ、本当にこの10年間会いたかったわ。手紙だけじゃ子細はわからないもの。旦那さんもイケメンだとはきいていたけれど、こんな人外の美しさだとは思わなかったわ。」

「人外って。私も初めて会ったときは驚いたけれど、オールディ育ちの私たちに異様に刺さるみたいで、本国じゃちょっとかっこいい人よ。」

「それって、貴国にはこのレベルに近い人がごろごろいるってことじゃない。やだ、王女やめて移住しようかな。」

「あなたの旦那様が困っているわよ。」


コンスタンスの夫、アーチーもアリシラローズとは複雑な因縁がある人だ。

「ローズの元婚約者の?」

「ええ。一年ぐらいしか婚約していなかったけれど。私と解消になった後、王配候補としてコニーと婚約して、今は立派な旦那様よ。」

アリシラローズの夫であるソラと元婚約者のアーチーはバチバチするのかと思いきや、いたって平静だ。もちろんアーチーも当時は複雑な思いをしていたが、今はコンスタンスを妻として愛してくれている。

「私たち、もうルロワ公爵家に向かわないと。」

「すぐにお茶会に招待するわ。すぐに来て。たくさんお話ししたいの。」



そう言ってコンスタンスは翌々日にアリシラローズを城に呼んだ。「早すぎる」と文句を言うアリシラローズにコンスタンスはこれでも譲歩したのだと胸を張った。

「だって妹のクリスちゃんと積もる話をたくさんする時間が必要でしょ?あと、今後に続く晩餐やら舞踏会やらの準備も。だから一日猶予してあげたのよ。」

「ええ、クリスとはたくさん話すことができたわ。10年も離れていたから、ぎくしゃくするのかと思ったけれど、あの子、成長したように見えて中身は全然変わらないのよ。」

ふふふ、と笑うアリシラローズに「それがあの子のいいところよね」と同意する。

「私もファンクラブ会員として陰から見守ってきたけれど、あの子は天性の愛されっ子ね。まず、貴族位を持つ黒騎士のほとんどがあの子のファンクラブの会員な上に熱心な”ガーディアン”なの。ここ二年間の辺境巡りで大量のファンを作ってるわ。
それに聖カリスト学園では公爵令嬢としての評判が良くてね。相当頑張ったのだと思うのだけれど、おかげで先輩後輩問わず多くの学生がファンクラブに所属して、しかも”ガーディアン”としてせっせとクリスちゃんの良い噂をながしてくれているわ。それに…」

「ちょ、ちょっと待って、コニー。クリスのファンクラブ、今そんなに膨れ上がっているの?それに”ガーディアン”って何?」

怒涛の勢いでしゃべるコンスタンスを必死にとめたアリシラローズはクリスからは全く聞いていなかったファンクラブの話に目を白黒させている。

「今、500人の会員がいるわ。きちんとした職を持っていれば平民でも参加できるようにしたらまた一気に増えてしまったの。」

「500…!?そんな規模のファンクラブ、聞いたこともないわ!?」

「会報も何もない名前だけのファンクラブなのにね。」

「それで、”ガーディアン”は?」

「ファンクラブ会員の中でも熱心なファン活動を行っている人たちをガーディアンって呼ぶのよ。積極的にクリスちゃんのすばらしさを広めるし、身に危険が及びそうとわかれば護衛を名乗り出るし…。安心して。過度すぎるファン活動は私が陰から締めてるから。」


ちなみに現大聖女のマルシャローズのファンクラブはない。


「これも全部クリスちゃんの人柄によるところだわ。どんな環境に放り込まれても努力して、周りに味方を作って乗り越えていくの。皆惹かれずにはいられないのよ。
その一方で、マルシャローズ様ね。その話を早くしたいから今日呼んだのよ。」

コンスタンスは表情から不快感を隠しはしなかったが、アリシラローズもそれでいいのかというほど顔に嫌悪感を出した。

「姉が教会に戻ってきたってあなたとクリスからの手紙で知った時はやっぱりか、と思ったわ。だってあの人に公爵夫人なんて務まるはずがないもの。自分が一番偉いと思っているんだから。」

「本当。大聖女だから許されていた我儘だって、あの女も嫁いでようやく悟ったのね。幼い息子を放り出してまで教会に戻ってくるなんて、ありえないと思っていたけれど、息子の世話もろくにしていなかったそうよ。」

「…姉の息子は今どうしてるの?」

「今9歳だけれど、新しくリュカ殿が迎えた奥方と上手くやっているみたい。」

「それならよかったわ。リュカ殿も姉なんかにひっかかったことを後悔しているでしょうね。」

「大聖女の交代劇はこちらにもメリットがあったから叶ったことだけれど、あの女はそれを知らないから復帰した後も若い白騎士を侍らせて大きな顔をしていたわ。白騎士団長も贔屓にしてくれる大聖女の方が都合がいいからと後ろ盾になっていたしね。だけれど…。」

「結界の穴、ね。」

「ええ。あれの修繕を拒否したことで流れが変わったわ。大聖女の資格なしとみなされて、次に何か問題を起こせば、退任してもらうわ。これは王家と教会の決定よ。」


マルシャローズがわがまま放題でいられたのも、ただ一人の適齢の、しかも嫡流の大聖女候補だったというのが大きい。
しかし、今はより優秀でかつ嫡流の、さらに適齢のクリスがいる。クリスよりも年下だった青い目の女児たちも教会入りし聖女としての修行を始めている。
マルシャローズの前任の大聖女様も引退後にずっと思いを寄せていた神官と所帯を持ち、二人の女児に恵まれた。どちらも青い瞳だ。

大聖女の資格を持った女児は着々と増えてきている。

もう、マルシャローズがちやほやされる理由はその身分以外になくなっているのだ。大聖女でなくなってしまえば、出戻りの20代後半の公爵令嬢である。

「あの女も自分の立場が弱ってきていることを把握しているし、苛立っているわ。そこにあの女がいじめ抜いて遊んでいたあなたが戻ってきたとなったら…。」

「確実に何かやらかすでしょうね。」


この時のコンスタンスもアリシラローズも大変悪い顔をしていた。


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