わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき

文字の大きさ
57 / 59
番外編

1 やってこなかったサンタクロース

しおりを挟む
ご無沙汰しています。本編から半年も経ってしまいましたが、クリスとヒューゴは恋人になるまでのここだけ完全に恋愛タグの番外編を書きました!
本日より三話、一日一話ずつ投稿します。

ー---------


オールディの国全体を守る結界を張ることのできる大聖女は、一時代に一人しかいない。その条件は初代大聖女の血を継ぎ、彼女と同じキラキラとした青い瞳を持ち、結界術と強化術を操れること。
一番の力を持つと認められた聖女が特別な儀式により宝石目を開眼し、国を覆う特別な祈りの結界を張ることができるようになるのだ。

当代の大聖女であるクリスローズ・ルロワが宝石目を開眼したのはわずか7歳のとき。そして初めて大聖女として祈りの結界を張ったのは8歳のときだ。
一度はその座をおりたものの、17歳で大聖女に復帰をし、それから彼女の祈りの結界は綻び知らずだ。


そんな彼女も23歳となり、周りの環境は大きく変化していた。


「クリス様。ニコレット様とイザベル様からクリスマスカードが届いていますよ。」

「ありがとう。ヤスミン。」

クリスは少し複雑な顔でそのクリスマスカードを受け取った。

ニコレットとイザベルはクリスの貴族学園の頃からの親友だ。ニコレットは学園卒業後すぐの19歳で結婚をし、すでに二児の母だ。
イザベルは驚いたことにクリスの弟であるウィリアムと婚約をし、彼の卒業を待って結婚した。彼女も一児の母になった。


そう、クリスは少し友人たちにおいていかれたように感じていたのだ。


「二人とも元気みたい!」

クリスは努めて明るい声でそう言った。

「最近お会いになれていませんものね。」

「私はなかなか教会から出られないから、二人が来てくれないと会えないし。」

「クリスマスにはルロワ公爵家でイザベル様にはお会いになれるのでは?」

「あ…そうね…。」

正直、クリスはあまり会いたい気持ちになれなかった。大好きな親友のはずなのに、なぜだろう。そんなクリスの心の機微を有能な侍女であるヤスミンはしっかりと感じ取った。

「無理にお帰りになる必要はありませんよ。気が進まないなら、クリスマスは教会で祝いましょう。私が豪勢なごちそうをご用意しますよ。」

「それがいいかもしれないね…。」

元気が出きらないクリスの様子に、ヤスミンはとっておきを出すしかないと咳ばらいをした。


「そういえば、先ほど黒騎士団長にお会いして聞いたのですが、このクリスマス休暇にヒューゴ様が帰ってこられるそうですよ。」


クリスはぱっと顔をあげてヤスミンを見た。その顔はみるみると輝きだし、頬が赤くなっていく。


「ヒューゴに会えるの!?」



ー---



その翌日にはクリスの下にもヒューゴから帰還する予定を告げる手紙が届いた。


クリスの四つ年上のヒューゴは現役の黒騎士であり、その実力は黒騎士随一と言われている。この春から西方の黒騎士団のトップである隊長を務めている。
二人はクリスが教会にやってきた6歳のころからの知り合いで、いわゆる幼馴染である。様々な困難を乗り越えた今では幼馴染以上の強い絆で結ばれており、ヒューゴはクリスのために黒騎士団長を目指すと言って旅立っていた。

ここ数年はヒューゴは地方で黒騎士として活躍し、今回の帰省も二年ぶりのことだった。その間も二人は定期的な手紙のやり取りをしてきた。

クリスマスや誕生日にはプレゼントを贈りあい、時には『会いたい』『恋しい』といった睦言が交わされる。だけどクリスがそんなこと望んではいけないと思っている節もあり、二人の関係に幼馴染以上の言葉はついていなかった。


「絶対に、ヒューゴに私のところに来るように言ってくださいね!」

クリスに会うたびにそう言われ続けた黒騎士団長は常に複雑そうな微笑を浮かべていた。その様子をクリスの愛猫であり感情の精霊でもあるフィフィは眉間にしわを寄せて見ていた。

「どうしたの?」

『黒騎士団長から後ろめたい感情を感じるわ。何かヒューゴに関して隠し事をしているのかもしれないわ。』

「隠し事…?」

一抹の不安を残しながら、ヒューゴはクリスマスの三日前に帰還した。



ー---



ヒューゴが帰還した折には、クリスのプライベートスペースに訪ねてきてくれる。ヒューゴのみならず、クリスが個人的に神官や騎士の友人に声をかけるときにはこのプライベートスペースを使うのだ。

黒騎士の宿舎で旅装を着替えたヒューゴは黒騎士団長にあった後、すぐにクリスのところに来てくれた。


三年ぶりに見たヒューゴは背丈こそ変わらないが、さらにがっしりとした体形になったように見えた。黒髪は短く刈り込まれ、日焼けした顔に鋭くなった黒い目がよく映えている。

外見はやや変わったが、優しい笑顔は変わらないヒューゴのままだ。思わずクリスが童心に戻り、駆け寄って抱き着いてしまうのも致し方ないだろう。


「ヒューゴ、お帰りなさい!」

「ただいま。クリス。久しぶりだな。」

ヒューゴは軽くクリスを抱きしめると、やんわりと体を離した。…いつもだったらクリスが満足するまで待っていてくれるのだが。
クリスがきょとんとした顔でヒューゴを見上げると、ヒューゴも困ったような、少し悲しそうな顔をしていた。

「どうかしたの、ヒューゴ?」

「いや、クリスが大人になってて驚いただけだよ。」

「…それ、三年前も言ってたよ。」


ヒューゴから西方のクモの魔物の意図から作った刺繍糸を受け取り、ヤスミンが用意してくれていたお茶の席へとヒューゴを案内する。

「今回はどれくらいいられるの?」

「だいたい二週間だ。」

「長くいられるのね!また会いに来てくれる?」

「ああ、もちろん時間があるときに会いに来るよ。」

ヒューゴの様子は完全にいつも通りなのだが、感情の精霊であるフィフィと契約しているクリスには、悲しげかつ不安げなヒューゴの感情が伝わってきた。

「ヒューゴ、何かあった?」

これまでにないヒューゴの様子にクリスは困惑した。それは顔に完全に出ていたようで、ヒューゴは「クリスはごまかせないな」と苦笑した。


「ごめん。黒騎士団の運営にかかわることだから、まだクリスには話せないんだ…。騎士団長の命令でね…。」

「そうなの…。私にできることがあったらいつでも言ってね…。そうだ!ヒューゴはクリスマスはどうするの?」

「クリスマス?実家か黒騎士団で過ごすことになると思うけれど…?」

「教会で一緒にお祝いしましょう!ヤスミンが豪勢なご馳走を用意してくれるの!」

「公爵家には帰らないのか?」

「…ええ。…母親になったばかりで忙しいイザベルの負担になりたくなくて。」

クリスはここで視線を泳がせた。上手に自分の嘘を隠せるようになってきたクリスだったが、長い付き合いのヒューゴや横で見ていたヤスミンにはばればれだった。

「…そうか。」

ばればれでもそっとしておいてくれるのも二人のいいところである。


この日、ヒューゴは予定を調整することを約束して二人の短い対面は終わった。



ー---



結局、タイトルの通り、ヒューゴはクリスマスにクリスのところに来ることはできなかった。クリスマスの前日には知らせがあり、クリスは消沈して教会の神官や聖女、侍女たちとクリスマスを過ごしていた。

もしかしたら、もしかしたら、ヒューゴが来るかもしれないとごちそうを少し取り分けていたが、それらは結局人間の食べ物好きの精霊たちのお腹に入ることとなった。


『クリス、昨日まで元気だったのに、今日もまた元気ないね!』

『クリスが元気ないと私たちも悲しい!』

小人型の歌の精霊たちは、全然悲しそうには見えない元気な姿で小さく切られたごちそうを食べながら騒いでいる。

『クリス、なんで元気ないの?』

『知らないの?黒いのが来れなかったからだよ!』

クリスとそれ以外というくくりでしか人間を見分けられない歌の精霊たちだが、ヤスミンとヒューゴといったクリスと関りの深い人間たちを見分けることはできる。
そこでヒューゴのことは”黒いの”と呼んでいるわけだが。

『黒いのなんで来れなかったの?』

『知らないの?黒いの結婚するんだよ!』

『ちがうよ!お見合いするんだよ!』

歌の精霊たちの会話をぼーっと聞いていたクリスは突然の爆弾発言に固まってしまった。



「……え?」




しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

義妹がピンク色の髪をしています

ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。

婚約者を奪った妹と縁を切り、辺境領を継いだら勇者一行がついてきました

藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。 家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。 その“褒賞”として押しつけられたのは―― 魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。 けれど私は、絶望しなかった。 むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。 そして、予想外の出来事が起きる。 ――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。 「君をひとりで行かせるわけがない」 そう言って微笑む勇者レオン。 村を守るため剣を抜く騎士。 魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。 物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。 彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。 気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き―― いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。 もう、誰にも振り回されない。 ここが私の新しい居場所。 そして、隣には――かつての仲間たちがいる。 捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。 これは、そんな私の第二の人生の物語。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

魔物が棲む森に捨てられた私を拾ったのは、私を捨てた王子がいる国の騎士様だった件について。

imu
ファンタジー
病院の帰り道、歩くのもやっとな状態の私、花宮 凛羽 21歳。 今にも倒れそうな体に鞭を打ち、家まで15分の道を歩いていた。 あぁ、タクシーにすればよかったと、後悔し始めた時。 「—っ⁉︎」 私の体は、眩い光に包まれた。 次に目覚めた時、そこは、 「どこ…、ここ……。」 何故かずぶ濡れな私と、きらびやかな人達がいる世界でした。

処理中です...