もふもふ子犬の恩返し・獣人王子は子犬になっても愛しの王女を助けたい

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され

文字の大きさ
54 / 85

ころちゃん視点 兵士達が宰相が反逆する企てをしていると話しているのを立ち聞きしてしまいました

しおりを挟む
 隙間から覗き込んだ俺はフェルディナントと視線が合ってぎょっとした。

 次の瞬間、俺は横に飛んでいた。
「何奴だ!」
 フェルディナントが刀を抜いて天板を刺し貫いたのだ。
 危うく、串刺しにされるところだった。もっともそんなドジではないが……

「誰だ?」
 そう言ってフェルディナントはベッドの上に立上がって天板を外して天井裏を見てくれたのだ。
 俺は一瞬で柱の陰に隠れた。

 フェルディナントは必死に周りを見たが、ここは大の大人が隠れられるような場所はないのだ。
 フェルディナントがいくら見ても、人影はなかった。

「おかしいな。確かに誰か覗いていたと思ったのだが、気のせいか?」
 首を振りつつフェルディナントは天板を戻した。
 俺はほっとした。

 それでなくても時間が遅くなっていたのに、この件でフェルディナントは警戒してしまった。今日はもう、探るのは難しいだろう。俺はカーラの部屋に戻ることにした。

 でも、どうしよう?
 王国は今は結構難しい状態にあるのではないかと俺は思っていた。
 前回カーラが襲われたのに、国王らは宰相に対して何もしていないのだ。破落戸らが宰相のところのものだと尋問すればすぐに判ったはずだ。宰相を捕まえようと思えばいくらでも証拠があったのにしなかった。

 やはりこの国の王権はとても弱くなっているのだ。特にノース帝国が宰相の後ろにはおり、国王としても手を出せなかったのかもしれない。
 しかし、宰相は王位継承権をもつカーラを攫おうとしたのだ。ここは本来ならば絶対に強硬策に出るべきところだったと思うのだが……何か国王らも思うところがあるのか?
 俺にはよく判らなかった。

 それを調べるために国王の執務室の近くにも行ってみたが、さすがにこの時間は誰もいなかった。
 俺はせっかくカーラの部屋から忍び出たのに無駄足だったかとがっかりした。
 しかし、その時だ。俺は兵士達の声を聞いたのだ。

「レイ、やっときてくれたか」
 男の声が聞こえた。
 レイ? 確かカーラの護衛騎士の一人がそのような名前だったはずだ。
 俺は天井の隙間から下を覗いた。

 そこは入り組んだ廊下の真上だった。王宮は建て増しに次ぐ建て増しで、建物自体が結構入り組んでいる。ここは丁度周りからは見えない位置になっていた。それもこんな夜遅くに会うなんて絶対に変だ。
 そこにはカーラの護衛騎士のレイという男と、宰相のところで見たことのある居たマドックという護衛騎士だった。

「ふんっ、貴様とは昔からの付き合いだからな」
 レイは親しげにマドックに話しかけた。

「それでこそ友人だぜ」
 マドックはレイに頷いていた。

「で、俺に何の用だ?」
 レイが聞いていた。
「いやあ、お前が友人だと信じて話がある」
 重々しくマドックが話し出した。

「また、堅苦しい話だな」
「そうだ」
 マドックが頷いた。

「今、宰相と陛下の仲は最悪だ。宰相閣下は陛下にいろいろと思うところがあるみたいだ」
「それは陛下もあるだろう」
 マドックにレイが言い返した。

「ひれはそうだ。しかし、宰相にはノース帝国がついている」
「マドックの言い方じゃ、宰相が何か企んでいるっていうことか?」
「レイ、貴様を信じて話をしているんだ。出来たら宰相閣下のところに来ないか?」
「なんか言い方がおだやかじゃないな」
「そういうことだ。結構な人間が既に閣下に誼を通じている」
 マドックはとんでもないことをレイに打ち明けていた。

 俺はそれを聞いて目を見開いた。
「しかし、俺はカーラ様の護衛騎士だ。カーラ様には今サウス帝国の皇子がアプローチしている。サウス帝国がカーラ様につけば勝敗は五分と五分だろう」
「そんなことを宰相閣下が考えていないとでも思うのか? サウス帝国の皇帝はこの国についてはノース帝国に譲ることにしたんだよ。その分獣人国の利権をサウス帝国に渡すことにしたらしい」
 俺は今日の大使がフェルディナントに持って来た情報が、その事だったんだと理解できた。
 しかし、ここに獣人国の話が出てくるとは思わなかった。獣人国はノース帝国の配下にもサウス帝国の配下にも入っていない。独立国だし、獣人国の戦力は別物なのだ。ノース帝国にしてもサウス帝国にしても表だって獣人国と争おうとはしていない。それを変えるということだろうか? しかし、獣化できる獣人国の戦力は強大でノース帝国やサウス帝国が戦争を仕掛けてきても十分に受けて立てるし、そう簡単に負けるとは思えなかった。

「それは本当のことなのか?」
「そうだ。だからこれからはサウス帝国の皇子がカーラ様のところに行くことはないだろう」
 レイの問いにマドックははっきりと断言したのだ。
 獣人国のことは横に置いておいてだ。
 取りあえず、この国のことだ。宰相らが反乱を企てているのならばそれを事前に食い止めないととんでもないことになる。

「少し考えさせてくれ」
 レイは即答を避けた。

「ああ、大切なことだからな。だがあんまり時間はないぞ」
 マドックの言葉が本当なら、反乱を起こす時期はどうやら間近に迫っているらしい。
「判った。来週までに返事する」
「そうしてくれ」
 二人は別々に別れた。

 来週までということはもう5日もない。
 俺は慌ててカーラの部屋に帰ったのだ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は反省しない!

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢リディス・アマリア・フォンテーヌは18歳の時に婚約者である王太子に婚約破棄を告げられる。その後馬車が事故に遭い、気づいたら神様を名乗る少年に16歳まで時を戻されていた。 性格を変えてまで王太子に気に入られようとは思わない。同じことを繰り返すのも馬鹿らしい。それならいっそ魔界で頂点に君臨し全ての国を支配下に置くというのが、良いかもしれない。リディスは決意する。魔界の皇子を私の美貌で虜にしてやろうと。

【完結】転生したぐうたら令嬢は王太子妃になんかになりたくない

金峯蓮華
恋愛
子供の頃から休みなく忙しくしていた貴子は公認会計士として独立するために会社を辞めた日に事故に遭い、死の間際に生まれ変わったらぐうたらしたい!と願った。気がついたら中世ヨーロッパのような世界の子供、ヴィヴィアンヌになっていた。何もしないお姫様のようなぐうたらライフを満喫していたが、突然、王太子に求婚された。王太子妃になんかなったらぐうたらできないじゃない!!ヴィヴィアンヌピンチ! 小説家になろうにも書いてます。

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

【完結】後宮の片隅にいた王女を拾いましたが、才女すぎて妃にしたくなりました

藤原遊
恋愛
【溺愛・成長・政略・糖度高め】 ※ヒーロー目線で進んでいきます。 王位継承権を放棄し、外交を司る第六王子ユーリ・サファイア・アレスト。 ある日、後宮の片隅でひっそりと暮らす少女――カティア・アゲート・アレストに出会う。 不遇の生まれながらも聡明で健気な少女を、ユーリは自らの正妃候補として引き取る決断を下す。 才能を開花させ成長していくカティア。 そして、次第に彼女を「妹」としてではなく「たった一人の妃」として深く愛していくユーリ。 立場も政略も超えた二人の絆が、やがて王宮の静かな波紋を生んでいく──。 「私はもう一人ではありませんわ、ユーリ」 「これからも、私の隣には君がいる」 甘く静かな後宮成長溺愛物語、ここに開幕。

【完結】公爵令嬢に転生したので両親の決めた相手と結婚して幸せになります!

永倉伊織
恋愛
ヘンリー・フォルティエス公爵の二女として生まれたフィオナ(14歳)は、両親が決めた相手 ルーファウス・ブルーム公爵と結婚する事になった。 だがしかし フィオナには『昭和・平成・令和』の3つの時代を生きた日本人だった前世の記憶があった。 貴族の両親に逆らっても良い事が無いと悟ったフィオナは、前世の記憶を駆使してルーファウスとの幸せな結婚生活を模索する。

折角転生したのに、婚約者が好きすぎて困ります!

たぬきち25番
恋愛
ある日私は乙女ゲームのヒロインのライバル令嬢キャメロンとして転生していた。 なんと私は最推しのディラン王子の婚約者として転生したのだ!! 幸せすぎる~~~♡ たとえ振られる運命だとしてもディラン様の笑顔のためにライバル令嬢頑張ります!! ※主人公は婚約者が好きすぎる残念女子です。 ※気分転換に笑って頂けたら嬉しく思います。 短めのお話なので毎日更新 ※糖度高めなので胸やけにご注意下さい。 ※少しだけ塩分も含まれる箇所がございます。 《大変イチャイチャラブラブしてます!! 激甘、溺愛です!! お気を付け下さい!!》 ※他サイト様にも公開始めました!

婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~

白井
恋愛
「我が伯爵家に貴様は相応しくない! 婚約は解消させてもらう」  枯葉のような地味な容姿が原因で家族から疎まれ、婚約者を姉に奪われたステラ。  土下座を強要され自分が悪いと納得しようとしたその時、謎の美形が跪いて手に口づけをする。  「美しき我が光……。やっと、お会いできましたね」  あなた誰!?  やたら綺麗な怪しい男から逃げようとするが、彼の執着は枯葉令嬢ステラの想像以上だった!  虐げられていた令嬢が男の正体を知り、幸せになる話。

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

処理中です...