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第二章 大国での失恋

大国の皇太子逆切れする

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「殿下。他国の女に手を出そうなどとあんまり褒められたものでは無いですな」
その場の読めない、男サムエル・ハムトフ伯爵令息が言った。
巷では聖女と噂されている令嬢にハムトフは良い印象は持っていなかった。

「何か言ったか」
一瞬で瞬間零度に凍り付いたオーウェンの声が響いた。
その声にハムトフは凍り付いた。


ドラフォード国王ピーターは執務室で外務大臣のアーサー・アルフェストと話していた。
そこへドーンという大きな音とともに扉を開けてオーウェンが入ってきた。

「ノックもせずに入って来るとはどうしたのだ」
ピーターが注意するとじろっとオーウェンが睨んできた。
「失礼しました!」
と言ってアーサーの隣にドシンっと腰掛ける。
咎めようとするかどうか悩んだが、とりあえず、話すことにした。

「今回のノルディンとの件。よろしく頼むぞ」
「判っています」
むっとしてオーウェンは言う。
「まあ、せっかくミハイル嬢が来てくれているのに申し訳ないが。国の事と私情は当然分けてもらわないと困るぞ」
その国王に対して白い目で見据える。

「オーウェン。いつも言うように、女性は一人ではない。一人に固執すれば判断を誤るかもしれない。女性に過度の愛情は禁物だ」

「そんなことの為に私を呼び出されたのですか」
絶対零度の視線で国王を見る。

「そもそも私が女性の件で国王陛下にご迷惑をおかけしたことがございますか」
「今回の短期留学の件がそうだ。それとノルディンの皇太子をほったらかしにして女のところに行こうとした」

「短期留学に対しては同盟国との絆を結ぶという事で別に問題はないのでは。この3ヶ月はマーマレードの得意な科学研究において十二分に学ばせて頂きました」
そう言うと隣の外務大臣を見て
「アルフェスト卿、今回のノルディンの皇太子がもってきた案件そんなに大切なものか?」

「はい、大国の次期皇太子同志が手を携えて外交を結ぶという画期的なものです」
常識的な回答をアルフェストはする。

「でも、それだけだ。トリポリは元々ノルディンの属国。
ノルディンの意向いかんでは勝手に条約は破るだろう。
平和条約を結べと言えば結ぶし破れと言えば破る。
どうとでもなるのではないか?」

「それは確かにそうですが」

「それも、今すぐやる必要など何もない」

「いや、オーウェン、お前ノルディンの皇太子の善意を」

「善意?
ノルディンに何度煮え湯を飲まされているのですか。
父上。そもそもノルディンの善意など信じるなと言われたのは父上ですが」
そう言うとオーウェンは立ち上がった。

「オーウェン」

「明日は朝早くからトリポリに向けて出発しますので失礼します」
国王が止めようとしたのを無視してオーウェンは出て行こうとした。

「そうだ外務大臣。同盟国マーマレードの姫君と釣り合いそうな者のリストアップを」
出て行きしなにオーウェンは声をかける。

「オーウェン、いったい何を」
国王が慌てて聞く。

「何をって同盟国をみすみすノルディンの手の元にするのですか。エドが廃嫡された今、次を継ぐのはジャンヌなのは明白。
それが赤い死神とくっつけば下手したらマーマレードはノルディンに併合されることもあり得ますぞ」
冷静にオーウェンは言う。

「まあそれはそうだが。今仲良くしていただいているノルディンの皇太子の邪魔をするなど」
珍しく歯切れが悪くピーターは応える。

「父上、惚けられましたか。ノルディンがドラフォードのために何かやるなんてありえないんですよ。奴らが何かしたら、二度とやる気が無くなるまで叩き潰せっておっしゃったのは父上ですよ。赤い死神だろうが何だろうがやられたことはやり返します」
そう言うとオーウェンは出て行った。

「なんて奴だ」
国王はむっとして見送った。

「しかし、陛下も殿下に、女などにうつつを抜かしてなどとよく言われましたな」
笑ってアーサーは言った。

「学園の時はキャロル様を捕まえるのに必死で、前国王には散々文句を言われていましたのに」

「その事を反省して言っているのだ」
国王は言い訳をした。

「息子は父に似ると言いますからな」
笑ってアーサーが言う。

「そうとは限らないだろう」
国王は苦笑いをした。

「今回の件ですが、オーウェン様がすぐにトリポリに立たれるというとなんで今なのと家内に怒られまして」

「夫人にか?」
まじめで内助の功の大きい夫人の言は国王も大切にしていた。

「オーウェン様は何としてもクリス様のお心をとらえるように努力すべきだ。あなたが行けばいいのに。と30分間延々ぶつぶつ言われました。」

「そんなにか?」

「なんでも、クリス様は巷では聖女の再来と言われているとか。
その聖女が婚約破棄した時にかばった皇太子殿下の人気も今や急上昇中であるとか。それが聖女様に振られたという事になるとドラフォードの沽券にかかわるというか皇太子殿下もそこまでの人だったと民衆はがっかりするだろうと」

「そんなにクリス嬢の人気が高くなっているのか?」
驚いてピーターは言う。

「はい。私も知りませんでしたが」

「それと何故かノルディンの皇太子がクリス様の事を恐れているという噂があります。」

「あの赤い死神が、あり得ないだろう。」
ピーターは信じられなかった。

「私もそう思いますが、だから必死で皇太子殿下とクリス様の間を引き裂こうとしていると」

「なにせ、噂にはそれに乗せられた皇帝陛下も腑抜けになったというのまでありますからな」

「誰が言っている?」
そこまで言うのは大物が言っているはずだ。
とピーターは考えた。

「古の3将軍方がおっしゃっていらっしゃるとか」

「あの頑固爺どもか」
嫌そうに国王が言う。

「しかし、軍部に対しては発言権は大きいですからな」
笑ってアーサーは言う。

「王妃様のグループの婦人方はクリス様を聖女とあがめ祭っていますし、軍部の掌握もされました。これでクリス様とオーウェン様の仲を国王陛下が裂かれたという事になりますと相当な抗議が来ることが予想されますが」

「判った。何らかの善処を考えよう」
ピーターは言った。
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