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第四章 王立高等学園

大国の皇太子はクリスにケーキを食べさせてもらって感激のあまり もう死んでもいいと思いました

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学祭当日はすさまじい人出だった。
各生徒の関係者4人とそれ以外に入場予約券5000人分はあっさり完売。今年は自国の皇太子の暴風王女に同盟国のオーウェン・ドラフォード皇太子、北の大国ノルディンの赤い死神の3人もの皇太子に加えて、第3学年だけで10人の王子王女を有し、全学年では20人以上の王族階級がおり、それを間近に見れるという事で大人気だった。裏では入場券が100倍もの高額で取引されているという噂もあるくらいだ。
最終日のクリスのクラスの演劇はその3人の皇太子と聖女クリスが出演し全国放送されるという事もあって、もう人気沸騰中。到底講堂に入りきらないと危惧されて屋外に大スクリーンも張って同時上演する予定だ。
王都だけで王宮前をはじめとして10か所で同時上映予定だった。

それだけ注目されているからいい加減な事も出来ずに、昼食も取る暇もなく14時までリハはかかってしまった。大分ましになったが、まだ足りないところもあった。

森の中の広場に建てた仮小屋でリハを終える。
「明日8時から最終リハします。
それまでに間違ったところ直すようにしてください」
スティーブが全員に指示する。
「では解散して下さい」
クリスもその横で言う。

「ようし飯だ。飯!」
ジャンヌが叫ぶ。

「何処に食べに行く?」
「今日は学食はメチャクチャ混んでいるそうだぞ。模擬店にでも食いに行くか」
アレクの問いにジャンヌが応える。

「クリス!ガーネットのやっている茶店に行こう」
壇上に近付いてオーウェンが言う。
「えっあの大人気の王族カフェに行かれるんですか?」
珍しく横にいたエステラが食いついてきた。

「えっよく知っているね」
驚いてオーウェンが聞く。
「はい。オーウェン様の妹のガーネット様はじめあの学年の美男美女が固まっているみたいで、
前売りは売り出しと同時に完売と。裏でチケットが10倍で取引されていると聞きました」
「そうなんだ。君たちも来る?」
オーウェンは形だけ誘う。
大人しいエステラらがクリスとのデートを邪魔すると思えなかった。
なかなか手に入らない模擬店の喫茶店に誘えば少なくてもジャンヌらの邪魔はされないと踏んだのだが。
ウィルはクリスの弟だし、二人のやっているクラスに行くとなればクリスも断らないだろうと踏んだのだ。

「私たちは明日行くのでまた教えてください」
どこで入手困難なチケットを手に入れたのだろうと不思議に思ったが、クライメイトに友達でもいるのだろうか。ガーネットのチケットは今回の演劇のチケットと交換で全てもらったし…
ジャンヌらに邪魔される目を摘んだはずだったんだが

「えっ、でも、ウィルには恥ずかしいから来てほしくないって言われていて…」
クリスが言う。そうウイルも恥ずかしいからチケットは絶対に配らないと確認したのだ。

「でも、クリス、かわいい弟がどんなふうにしているか見てみたいだろう。
後で家族に報告できるし」
「家族の事はお母様がウィルから強引にチケットを奪っていましたから必要は無いかと思います」
クリスは言うが、せっかくオーウェンが誘ってくれたし、ウイルの事も見ては見たいので結局頷いた。

やったと喜んでクリスをエスコートして教室まで連れて行こうとするが校舎に近付くと人が多い。
「クリス人が多いから」
と言ってクリスに手を差し出す。

「えっと」
クリスは戸惑うが。
「人が多いからはぐれると大変だし」
というや少し強引にクリスの手を取って歩き出した。

「えっオウ、少し恥ずかしいです」
赤くなってクリスが抵抗するが、
「すぐに着くし誰も見ていないよ」
オーウェンは何でもないように言う。

まあこの前のお姫様抱っこよりもましか、とクリスは思ったが、その時の意識は無かったが多くの生徒に見られていたかと思うと赤くなった。
その赤くなったクリスを連れてガーネットらの教室に行くと結構並んでいた。

「ゲッ姉様!」
入口で並んでいる人の相手をしていたウィルが赤くなって叫んだ。
「来なくていいって言ったのに…」
ウィルは白いタキシードを着ていて、どこの貴公子かと見間違うようなオーラを醸し出していた。
並んでいる女の子らに囲まれていたのだが、姉を見て赤くなる。

「これはこれはお兄様。よくいらっしゃいました」
ガーネットが出てきてカテーシーで挨拶する。
こちらも白いドレスだ。
デビュタントの時の令嬢の装いだ。

「ガーネットもかわいらしい格好をして」
「はいはい、お世辞は良いんです。中で皆様お待ちですよ」
ガーネットは軽く交わす。

「みんなって?」
オーウェンは不吉な予感がした。

ガーネットの分はもらい占めたし、ウィルは配らないって言っていたのに、ジャンヌが皇太子特権で他の人間からチケットを徴発したのだろうか?

中に入ると傲然と胸を反らす、アレクにボリスがぺこぺこしているのが目に入った。
そうだった。
このクラスにはアレクの弟もいたのだ。だから王族カフェ。
オーウェンは完全に見落としていた。
その周りにはジャンヌやエカテリーナ、イザベラにナタリーなど10人ほどがテーブルを寄せて占拠していた。

「クリス様」
イザベラらが手を振る。
アルバートもちゃっかり先に来ていた。
いつも一緒のアルバートがいなくておかしいと思ったのだ。

「クリス様」
「オーウェン様」
アルバートがとなりの席をクリスに示し、その向かいの席をエカテリーナが引く。
そこしか席が空いていないので仕方なしにオーウェンは座る。
「注文はお任せで良いよな」
アレクが言うのでクリスが頷く。

「じゃあこのケーキの斜塔を5つとノルディンティーを10個」
「かしこまりました」
膝をついてボリスは礼をすると下がっていった。

「アレクは酷いな!大人しい弟を下僕のように使って」
「何を言う。ノルディンでは力が全てだ。弱いとあっという間に下手したら殺されてしまう」
何気なくアレクは物騒な事を言う。

「弱肉強食か。まあ、ジャンヌはそこでも頂点を取りそうだしな」
「何か言ったかオーウェン」
きっと睨みつけるジャンヌがいる。
「でも、それではいけないと思ってボリスには優しくなったよな。カーチャ」
アレクが言う。

「本当ですわ。昔帝国にいる時はお兄様はボリスを下僕みたいに使っておりましたのに」
何でもないようにエカテリーナは言う。
当然エカテリーナは自分もそうしていたのだが、ここでオーウェンにそうみられるのはまずいと思ったのだろう。
「私は昔からボリスはかわいがっておりましたわ。ねえボリス」

-何処がだよ。アレク以上に下僕扱いしていたじゃないか、とボリスは言いそうになったが、
エカテリーナの鋭い眼光に睨まれて何も言えずに頷く。

「アレク、弟をいじめると良くないぞ」
ジャンヌが言う。

「帰るところなかったらいつでもうちに来いよ」
後ろから来たウィルが言う。
「そうです。ボリス様、困ったことがあればいつでも言ってくださいね」
クリスが言う。

えっボリスにクリスが付いたという事?
アレクは青くなった。
シャラザールがボリスに着いたという事は…

「ボリス。そんなひどいことは無いよな」
顔で笑って眼光をらんらんと光らせてアレクがボリスを睨む。

「大丈夫です」
ニコッと笑ってボリスは言う。
アレクはホッとしたが、「何かあれば即座にクリス様にご相談させていただきますね」
アレクの方を見てニコッと笑う。
アレクはボリスを思わず殴りそうに思ったが、シャラザールの事を考えると何もできなかった。

-えっボリスが強くなった。
エカテリーナは驚いて二人をみたが

「はい、お待ちどうさま」
そのタイミングでガーネットらがケーキの斜塔
クリームを何重ものパウンドケーキで挟んだ結構高い少し傾いた塔のようなケーキを持ってきた。

「うわーすごい」
イザベラらは喜んだ。
「大きいので2人で1つ食べてくださいね」
にこりと笑ってガーネットが言う。

普通二人ではとても無理だったが、劇のけいこでお腹の空いていた10人はそうは思わなかった。

早速エカテリーナはケーキの斜塔が倒れないように注意しながら一部を切り取りそれをオーウェンの口の中に何とか理由をつけて放り込もうとする。
切り取った後に恋敵のクリスを睨みつけてオーウェンに向き直る。
鋭い視線を感じて思わずエカテリーナの方に顔を向けたクリスは
「クリスっ」
とオーウェンに呼ばれて思わず顔をオーウェンの方に向けると赤い塊がクリスの口元に向かって飛んでくるところだった。
思わずパクリと食べてしまう。
それはケーキの上に載っていたいちご。
クリスがいつもわざと最後まで置いておいて最後に食べるいちごが…

「オウ、ひどい!いちごはいつも最後に取っておくのに!」
怒ったクリスはオーウェンがいつも最後まで残しておくケーキの上のクリームの部分をフォークに刺してオウの口の中に放り込んだ。
子供の時にケーキを食べる時によくこうして二人で喧嘩したのだ。
「クリス酷い」
言いながらオーウェンはクリームの部分を小さく切り取ってクリスの口に放り込む。
クリスはいちごの次はクリームの部分が好きだった。
「あっまたした」
怒ったクリスはケーキの部分を大きく切り取ってオーウェンの口の中に無理やり入れる。
オーウェンはやられたふりをして大変なような表情をするが、周りは白い目で見ていた。
絶対にオーウェンは食べさせてもらって喜んでいる。

ウィルはピキピキ切れていた。
そう、ケーキを食べる時二人はよくケンカしていた。
子供の時はそれで許されても、でも、今は、そう、大きくなった今は食べさせ合うっておかしいというか、もう完全に恋人同士の行為だ。

まわりは呆然と二人を見ていた。

「お二人って本当に仲がいいんですね」
ボソリとボリスが言った。

「えっ」
クリスが思わず固まる。
そうだ、子供の時はこれが喧嘩だったが、大人になってこれをやると恋人同士の食べさせ合いだった。
クリスは真っ赤になった。

「あーん」
そう言ってオーウェンが口を開ける。
オーウェンがこんな事をさせたのが悪い。
クリスはそう思うと思いっきり大きく切ったケーキの塊を無理やり開けたオーウェンの口の中に入れた。
むせて苦しめと思いながら。
でもオーウェンは幸せそうな顔をしてそれを咀嚼する。
クリスに食べさせてもらえるなんてなんて幸せなんだろうと思いながら。

横でエカテリーナはオーウェンに食べさせようとするがオーウェンの口の中はクリスが放り込んだケーキでいっぱいだ。

「もうやってられませんわ」
そう言うと手に持っていたケーキを自分の口の中に放り込んだ。
もうやけ食いだ。

その前で先に切れていたアルバートがケーキの大半を食べている。
「ちょっとあなた食べすぎてずわよ」
エカテリーナが文句を言うが、
「これがやけ食いせずにいられますか」
アルバートは無視してどんどん食べていく。

アレクもオーウェンをまねして何とかジャンヌに食べさせようとするが、ジャンヌは無視して、ケーキの斜塔の大半を一人で食べてしまった。
「アッそれ取りすぎ」
イザベラはナタリーの切り取ったケーキにフォークを突き刺す。
イザベラとナタリーは二人で取り合っていた。

それを外から照らす太陽はニコニコと晩秋にしては温かい日差しを送っていた。
本番前の幸せな一時だった。


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