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第七章 魔王復活

暴風王女の問いに、ジャルカが黒死病の解決案を出しました

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「クリス!」
オーウェンは頭を抱えていた。
本来なら仕事などほったらかしにしてすぐにクリスの元に駆けつけたかった。
「おのれ、モルロイの奴らめ」
オーウェンは歯ぎしりした。
モルロイ国内にカーンの悪評を流し、家臣間の対立を招こうとしていろいろやっていた。
アクラシを殺そうとしているとか王弟を殺そうとしているとか人身御供に人妻を召し上げるつもりだとか。
持てる力の全てを使って不和を広めようとしていたが、まだ、うまくいっていなかった。
モルロイの周辺国にも持てる力を使ってモルロイを孤立させようとして、それはある程度うまく行っていた。その作業を放り出してクリスの元に行く事は出来なかった。
自分が転移さえできれば即座に駆けつけられるのに。
オーウェンは今ほど転移出来ないことを悔しがったことは無かった。
「クリス!」
オーウェンは愛する者の名を呼びながら血走った目で作業に没頭していた。


そのクリスは息も荒く高熱にうなされていた。
その傍では呆然とその様子を見ているウィルと懸命に看病するアデリナらがいた。
そしてクリスの美しい素肌には黒い斑点が出ていた。
「姉様、しっかりして」
涙目でウィルが問いかけるが、クリスは返事もしなかった。

「クリス大丈夫か」
そこへジャンヌとアレクが駆けこんで来た。
クリスの脈を診ていた医者は首を振った。
「姉様。まさか、死なないよね。姉様、ねえ、姉様」
ウィルが呼び掛ける。
「ウィルうるさい」
ジャンヌがそのウィルを注意する。
「だって姉様が」
「あああ、うるさい。クリスは大丈夫だから」
「姉様は華奢で姫様とは体の作りが違うんだよ」
「うるさい。作りが違うってどういう事だ」
ジャンヌはそのウィルの頭をしばいていた。
「だって、暴風王女の姫様と比べれば、姉様はとてつもなく、可憐で、折れそうだし、
病原菌が避ける姫様は大丈夫だと思うけど、姉様は可憐な女の子なんだから」
「私は怪物だと言いたいのか?」
ウィルをさらに思いっきりどついてジャンヌは叫ぶ。
「だってだって、姉様が」
ウィルが泣きだす。

日頃は少しの事ではびくともしないウィルだが、姉の事となるとてんでダメになる。
呆れてウィルに構っていられなくなってジャンヌは医者に合図をして外に連れ出した。

「どんな感じだ」
「良くはありません。黒い斑点が出てきましたから」
医者は首を振って言った。
「良くなっているものもいるのに、なぜクリスだけが」
「それは判りませんが、ここ2、3日が山場かと」
「うーん」
ジャンヌはうなった。

「しかし、シャラザールの化身が黒死病にかかるのだろうか」
「ありえないと思うのだが」
ジャンヌとアレクは額を寄せ合って話す。

「止む終えまい。最後の手段だ。ジャルカに聞いてみよう」
「ジャルカ爺に?」
「碌な事は言わないような気がするが、最後の頼みの綱だ」
アレクは王弟叛逆の時にジャルカの言う通りやって、王弟たちの人質にされた事を思い出していた。
あの時は本当にうまいこと利用されただけだった。
しかし、ジャルカは賢者としても名高い。
あまり頼りたくは無かったが、もう非常事態だった。

「これはこれは姫様。どうなさいましたか。真剣なお顔をされて」
魔導電話に出たジャルカが聞く。
「クリスの事だ。何とかして助けたい」
ジャンヌが言う。

「基本的に戦神シャラザールが憑依しているクリス様が黒死病で死ぬことなど無いと存じますが」
「しかし、現実に斑点まで出てうなされているぞ」
「まあ、クリス様が黒死病にかかる事は無いと思っておりましたが、現実は違いましたからの」
ジャルカは腕を組んで考えた。

「あまりやりたくはありませんでしたが、うつ手は無い事はありませんが」
「何だ」
言い辛そうに言うジャルカにジャンヌが食いついた。

「クリス様にお酒を少し飲ませるのです」
「酒を。シャラザールが出て来るか」
ジャルカは喜んで言った。

「おそらくそれだけでクリス様は全快するかと」
「そうだ。当然そうなる」
ジャンヌは喜んで言った。

「何が問題なのですか?」
しかし、ジャルカの反応が今一つなのを見てアレクが訊いた。

「シャラザール様は、おそらく黒死病をつぶす為に全村を即座に燃やしてしまおうとなさると思われます」
「確かに。シャラザールなら爆炎魔法で一発だよな」
「兵士もろとも全てを燃やそうとなさるでしょう」
「我らも燃やされるのか」
「そう、そこを何としてもお停めしないといけません」
ジャルカの話に二人は不安そうにした。
出番が少ないと文句を言っていたシャラザールだ。ここぞと喜んですべて燃やそうとするだろう。

「どうすればよい?」
「うまくいくかどうかは判りませんが、そんなことをしたらクリス様が悲しまれますとお願いするのです」
「確かにクリスは悲しむだろう」
「もし自分がそんなことをしたと知ったら自殺されかねません」
「本当にそうだ」
ジャルカの言葉にジャンヌが頷く。

「姫様とアレク様、それにウィルでシャラザール様に縋り付いて泣き込めば、何とかなるのではないかと思われます」
「しかし、何もしなければ黒死病は残るのではないか」
ジャンヌが言う。
「おそらく、戦神シャラザール様は黒死病の菌だけを浄化する事も出来ると思われます。
面倒くさがられるだけで。それをお願いされたら宜しかろうと」

「判った。それしかないな」
「すぐにやろう」
ジャンヌとアレクは頷き合った。

「くれぐれも失敗されて、シャラザール様に爆裂魔法をかけられて消し炭になられないようにお願いいたしますぞ」
ジャルカの忠告に青くなりながら二人は病室に戻った。
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