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第一章 ダレル反乱

王宮にて暴風王女は聖女になってしまいました

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翌日、転移で王宮に招集された一同は閣議室に招き入れられた。
閣議室では国王王妃はじめ、クリスの父のミハイル内務卿、モワット財務卿、ブリエント司法長官
らが勢揃いしていた。
対するクリスら一行はジャンヌ王女をはじめ、当事者のダレル伯爵。ジャルカ王室直属魔導師、グリフィズ、そして1軍を率いたコーフナー第一魔導師団長だった。

「コーフナー、この度は、ダレルの反乱を未然に防いだ点、大義であった」
国王が最初に口火を切った。
「そのようなお言葉、恐悦至極に存じます。ただ、今回の平定の最大の功労者はジャンヌ王女殿下であらせられます。このような短期間で被害も殆ど出ずに平定されたのは全て殿下のおかげです」
膝を折ってコーフナー第一魔導師団長は奏上した。

「そうか、ジャンヌ、ご苦労であったな」
「陛下。今回の件でお願いがございます」
「ジャンヌ。その願いは聞けんぞ」
国王は否定した。
「しかし。父上」
「しかしもクソも無いわ。反逆罪は一族郎党もろとも処刑と決まっておろう。それを一発殴って無くすなどということが許される訳はなかろうが。愚か者」
国王は叫んでいた。
ジャンヌは黙った。そうだ。そんな事が許される訳はないのだ。普通は。
ジャンヌは大いに頷いて賛成したかった。

「そうではないか。ダレル伯。それはその方もよく知っておろう」
「はっ。左様でございます。臣はただ、そのようにおっしゃって頂いた王女殿下のお心がただただ嬉しくて感動しただけでございます。次のマーマレードの未来は安泰だと」
国王ジョージは驚いた。いつも防衛予算が足りないだとか、このままではノルディンの残虐王に蹂躙されるだけだとか文句ばかり言っていたダレル伯が文句を言わないのだ。
普通は約束が違うとか、暴れだすはずなのに。


「父上。今回の件。私にもダレル伯を追い詰めてしまったという負い目がございます。
もっと前もって相談に乗っておればと。なあコーフナー」
ジャンヌはここぞとばかりにコーナー第一魔導師団長に振った。
「はい。私も今回殿下に犯罪の発生を前もって知っていたのに、止めなかった我々にも問題があるとのお言葉に感激いたしました。是非とも前向きにご検討賜りたく」
「ほう、ジャンヌがそのような事を。ジャンヌは大人になったものよな。王妃」
「本当にございますね。それが本当のことならばどれだけ素晴らしいことでございましょう」
二人はお互いを見つつ、白い目をジャンヌに送っている。
ジャンヌはその二人の疑り深い視線をそらしてかわしていた。絶対に目が合えば白状させられるに違いなかった。

「陛下。殿下が成長された事は実に喜ばしいことでございますが、法は法でございます。
事前に止められなかったから等と法律違反を許していれば法など必要なくなってしまいます」
財務卿が言い切った。
「まして、今回は隣国ノルディンの残虐王子と組んでの反逆罪にございます。ダレル伯を許すわけには参りますまい」
「失礼ながら発言の許可を頂きたく存じます」
財務卿の発言に対してクリスが発言した。

「これは皇太子の婚約者のミハイル嬢ではないか。今回は大変な目にあったの」
国王が言った。
「ご心配頂きありがとうございます」
「その方も当事者であろう。発言を許す」
「ありがとうございます」
クリスは国王に礼をすると財務卿の方に向き直った。
「私、この度の王女殿下の、
『事前に罪を犯しているのを掴んだならば、それを喜んで罰するのではなく、まず、それを指摘し自ら悔い改めさせることこそ施政者の務めであるという』お言葉において大いに感動いたしました。初代皇帝・戦神シャラザール様も人を憎まず、罪を悪め。やり直すチャンスを与えることこそ大切であるとおっしゃっていらっしゃいます」
(そのような事を余が言ったか???)
(いや、絶対に違う。罪を犯したものがいれば例え地の果てまでも追いかけて罰を与えよだったはずだ)
シャラザールは覚えが当然無かったし、ジャルカはより具体的だった。

「ミハイル嬢。戦神シャラザール様はそのような事はおっしゃっていらっしゃらないかと。例えおっしゃっていらっしゃっても、今回の件は許されないかと」
「ほう、財務卿は施政者が犯罪を見つけたならば、それを悔い改める機会を与えず、即座に処罰するにしかずとおっしゃられるのですね」
「その通りです。犯罪は1罰百戎にするにしかずです」
モワットはクリスの目が笑っているのに気付かなかった。

「判りました。グリフィズ様。モワット伯爵領において、昨年横領が発生した件、証拠を掴んでいらっしゃいますね」
「えっ、いや、それは掴んでおりますが、今バラしますか!」
クリスの言葉にグリフィズは慌てた。
「お待ち下さい。そのような事実はなにかの間違いかと」
財務卿は真っ青になっていた。

「諜報局の証拠は完璧です。即座に逮捕を」
クリスは冷徹に言い切る。
「いや、ミハイル様。何卒、少しお待ちを。何かの勘違いでございます」
立上って慌てふためいたモワット伯爵は震え上がった。

それを見てクリスはニコリと笑う。
「陛下。このように誰しもが心に疚しいところがあるものです」
クリスの言葉にはもう誰も反論できなかった。誰もが少しは心に疚しいことがあるのだ。
クリスに逆らったら絶対にそれをここで出される。未来の王妃に大半の者は震え上がった。

「今回のダレル伯の件も同じでございます。
ダレル伯は残虐王子より凄まじい圧力をかけられていたようです。
死にもの狂いで防衛予算の増強を国に対して要求しても通らない。
相手はあの残虐王子です。もし、伯爵領が占拠されれば男は奴隷に落とされ女は兵士達に犯され娼婦として働かされたでしょう。その恐怖を国として祓えなかったこと。
それは王族である自分にも責任があると王女殿下がおっしゃったことに感激いたしました」
どんどん自分の行いが神格化していくことにジャヌは驚いた目で見ていた。

「しかし、法を曲げるのはどうかと存じますが。反逆罪は一族郎党処刑というのは戦神シャラザール様からの法ですし、奴隷販売に関したものは絞首刑というのもシャラザール様が定められた法でございます」
司法長官のブリエントが言った。

「司法長官様がおっしゃるのは当然のことでございます。
しかし、今回の王女殿下の行いは大変素晴らしく、戦神シャラザール様も天界から喜んでいらっしゃると存じます。なおかつ、現在はノルディン帝国がいつ攻め込むかわからない時。仲間割れなど愚かなことをして、ノルディンを喜ばすことは愚の骨頂。一致団結してノルデインに当たる時である、と殿下が決断されたことに対し、私感涙いたしました」
クリスが涙目を抑えて言う。

ジャンヌはもう自分がどこの聖人君主になったのだと明後日の方向を見ていた。
「なるほど、ミハイル嬢はダレル伯を断罪するのはノルディンを助ける利敵行為だとおっしゃるのですな」
「殿下がおっしゃったのです」
クリスが訂正する。
「あ、ジャンヌ殿下がね」
いかにも信じていない風にブリエントは二人を見比べたが、クリスは無視した。

「大賢者ジャルカ。司法長官もそう申しておるが宜しいか」
国王は最後に当事者のジャルカに聞いた。
「陛下のご英断と存じ上げます」
ジャルカは国王に頭を下げた。
ダレル伯爵はただただ、クリスの足元に平伏して泣き崩れていた。
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