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1巻
1-2
しおりを挟む昼食はメラニーたちと大食堂で取ることにした。
メニューを見ると、今日のB定食は魚のムニエルだった。私はそれにする。デザートのプチケーキに釣られたというのもあるが。メラニーとノエルは肉のA定食だった。
「このSってすごくない!?」
「……本当ね」
ノエルがその横のスペシャルメニューを指して言った。十倍くらいの値段のフルコースだ。こんな食堂でフルコースを食べてどうするんだ。
「何でも、今年からできたみたいよ。貴族食堂のメニューの一部をこちらでも提供するようにしたんですって」
なぜか意味深に私を見て、メラニーが言う。えっ、私のせいだって言うの?
貴族には寮の上の階に専用の食堂が用意されている。学園皆平等を標榜する割には貴族専用食堂があったり、貴族の部屋が豪勢だったり、偏りがあるのだ。
「そうなんだ。こんなところに出しても食べる人なんていないのにね」
何も知らないノエルが笑って言う。
「本当よね」
私も当然とばかりに頷いたんだけど、メラニーが変な顔して見てくるのは止めてほしかった。
「うーん、美味しい」
メラニーの視線を躱し、私は定食に舌鼓を打つ。平民の食堂でも、美味しいものは美味しいのだ。
「あんた、変な令嬢よね」
私を見てメラニーがボソリといった。
「えっ、フランってやっぱりお貴族様なの……?」
ノエルが驚いて言った。
「違うわよ。貴族の娘は女の子のことを令嬢って呼ぶのよ。だからノエル、あなたも令嬢よ。そうよね、メラニー?」
そうだと言え! と私はガンを飛ばす。
「ま、そういうことにしておくわ」
しかし、メラニーにはさらりと流されてしまった。
「じきにバレるのに……」
なんかブツブツ言っている。
まだ疑っているノエルの視線が痛いけど、適当に誤魔化そうとした、その時だ。
「フラン、彼氏募集中ってどういうことだ!?」
血相を変えたアドルフが飛び込んできた。
私は慌てて、アドの腕を掴んで食堂の端へ連れていく。
何が起こったのかと興味津々の皆の視線が痛い。
「どういうことだ? フラン。俺という婚約者がいる身で、彼氏募集中って」
腕を放すと、アドはいきなり私に食って掛かってきた。見舞いには来なかったくせに、こういう所だけうるさい。
バラしたのは誰だ? 私は近くに座ってご飯を食べていた王子の側近のオーレリアンを睨みつけたが、必死に首を横に振っている。
「シャモニ伯爵令嬢がわざわざ教えてくれたんだ」
そうか、あの娘か、余計なことをしてくれて。いつかは身分がバレるにしても、もう少し仲良くなってからが良かったのに!
「ふんっ! 私が王宮で倒れた時も一度も見舞いに来てくれなかったアドに、婚約者だなんて言われたくない!」
私はぶすっとしてそっぽを向く。
「いや、フラン、ここのところずっと帝国の皇女殿下がいらしていたから忙しくて。それに新たな聖女が見つかって学園に入ってくるっていうので、更に忙しくなって……」
「私も学園に新たに入ったけど、アドは何も構ってくれないし……」
嫌味を言う。別に構ってほしい訳じゃないけど……文句を言ってくるなら私も言い返したい。
「フランが平民と一緒のクラスになりたいなんて言うからその調整も大変で……」
やっぱりこいつか、余計なことをしたのは。周りは全部平民だけでも良かったのに、王子の側近とか貴族たちがいるのはこいつの差し金か。
「ふーん……ヴァンからは、あなたがその帝国の皇女殿下といちゃいちゃしていたって聞いていますけど?」
私はアドを白い目で見る。
「あいつ、余計なことを……いや、そんなことはないぞ。傍目にはそう見えたかもしれないが、違うんだ」
「傍目からそう見えたんならそうでしょ。そもそも王宮で倒れたのに、一度も見舞いに来ないって、婚約者としてはあり得ないんじゃない? ヴァンなんてずうーっと一緒にいてくれたのよ」
「いや、俺も何回も行ったけれど、フランは寝ていてだな……それに、ヴァンとあそこにいるオーレリアンに邪魔されて――」
「言い訳は結構。私が目を覚ましてから来なかったのは事実じゃない」
アドの言葉を遮る。言い訳を聞きたいんじゃない。
「それは本当に悪かった」
アドは頭を下げた。あのプライドの高いアドが。それも皆の前で。
第一王子に頭を下げさせるなんて、これじゃあ悪役令嬢そのものだ!
「止めてよ……!」
こんなところで第一王子に頭を下げさせてしまったのでは、私の『平民と仲良く計画』はもう終わりだ。ああ、私の今までの努力が……
「じゃあ、許してくれる?」
腹黒い笑みを浮かべてアドが言った。こいつ、絶対にわざとやってる!
「わかった、許すから、頭を下げるのだけは止めて!」
焦りで息を荒らげながらも、何とかアドに頭を下げるのを止めさせた。
「じゃあ、そう言うことで。さようなら!」
すぐに皆のところに戻って誤魔化さないと!
私がアドの前から離れようとした所で、手を掴まれた。
「何……」
すんのよと叫ぼうとしたが、近寄ってきたアドに耳元でささやかれる。
「父が呼んでいる」
「へ、陛下が?」
私は驚いた。日頃は王妃殿下と接することが圧倒的に多くて、陛下は基本的には私に絡んでこない。その陛下が私に用があるなんて、余程のことではないか?
まだ、別に何もやらかしていないはずだけど。平民と一緒のクラスにしろと学園に圧力をかけたのが、バレたのだろうか? でも、建学の精神『学園に在学中は親の地位に関係なく、すべての生徒は平等である』に則ってやっただけで、文句を言われる筋合いはないはずだし……
王宮の屋内で剣の稽古をした点については、すでに礼儀作法のローランド夫人に二時間にわたって怒られたし、これ以上怒られる要素はないだろう。
「私は何も悪いことはしていないわよ。アドが何かしたの?」
「彼氏募集中なんて皆の前で言うからじゃないのか?」
「それを言うなら担任のベルタン先生に言ってよね。先生がそう言ったからノリで言っただけだし」
「仮にも俺の婚約者がノリでそんなことを言うな!」
何よ、自分は帝国の女といちゃついてたくせに、と私が口を開こうとした時だ。
「あのう」
後ろから騎士が声をかけてきた。
「うるさいわね!」
「黙っていろ!」
私たち二人に怒鳴られて、騎士はビクッと震える。
「あの、でも、皆に見られていますけど……」
「「えっ?」」
戸惑った声で指摘されて、私たち二人は言い争うのを止めた。
そういえば、ここは昼時の食堂だった。皆の驚いた視線が痛い。ノエルたちもこっちを見て固まっているし。
うっそー、第一王子と大声出して喧嘩なんて、もうどう考えても身分はバレたに違いない……
私は頭を抱えてしまった。
「それに、陛下がお待ちなんですが……」
その言葉を聞いて固まった私は、そのままアドに腕を引っ張られて食堂を後にしたのだった。
アドは私を学園の寮の特別室に連れてきた。
中に入ると、国王陛下夫妻が既に腰掛けておられた。その向かいには最近勢力を伸ばしているやり手のデボア伯爵とピンクの髪の女の子、そしてその横にグレース・ラクロワ公爵家令嬢が座っていた。
げっ、グレースが居る!
グレースのラクロワ公爵家と、我がルブラン家は仲が良くない。何でも、先々代の時に我が家の領地が半減されたのは、ラクロワ公爵家の陰謀のせいだそうだ。それ以来、我が家はラクロワ家を毛嫌いしている。
父親同士も犬猿の仲だ。うちの母を巡って、二人には色々あったらしい。
私はグレースのことをなんとも思っていないのだけど、グレースはいつも私に突っかかってくるのだ。正直相手するのも面倒くさいし、できたら避けたい。
そんなことを言ったらまた何を言ってくるかわからないから言わないけれど……
元々、アドの婚約者を決める時も、アドを取り合って私が勝ったらしい。前世の記憶が蘇る前だし、小さい時のことだからよく覚えていないけど。
「遅くなりました」
「申し訳ありません」
アドに続いて、私も慌てて頭を下げる。
「おお、よく来たの。さっ、席に座ってくれ」
席が二つしか空いていなかったため、私は下座の椅子に、アドは向かいの公爵令嬢の傍の椅子に腰掛けた。
改めて三人を見るが、真ん中のピンクの髪の女の子に見覚えはない。デボア伯爵が孤児院にいた聖女を養女にしたとのことだったので、彼女がおそらくその聖女だろう。
ということは、こいつが私が断罪される元凶か!
タレ目で、男好きしそうな体つきをしている。
「突然呼び立てて悪かったな。食事中だったか?」
陛下が私に謝ってきてくれた。
「いえ、そのような」
身分バレに気を取られていたけど、陛下が食事のことをおっしゃったので、まだほとんど何も食べていないことを思い出した。
グー!
そう思った途端にお腹が鳴った。ええええ! 今鳴るか?
私は恥ずかしさに真っ赤になった。
「何ですか、フランソワーズ。はしたない」
王妃殿下に注意されたし、アドも笑っている。婚約者ならフォローしろよ。まあ、見舞いに来ないくらいだからこんなものかもしれないが……
「まあ、良いではないか、 王妃。フランソワーズ嬢も育ち盛りなのだから」
「しかし、淑女としてはどうかと思いますが。ねえ、グレース」
「まあ、王妃様。フランソワーズ嬢は文武両道のご令嬢です。食事量も人の二倍食べられると聞いていますし、多少のことはお目をつぶっていただくしかないのではありませんか」
私はその言葉にプッツンと切れた。こいつ、いつもいつも私に突っかかってきて……!
ここに国王ご夫妻がいらっしゃらなければ喧嘩していたところだ。
「まあ、この前とあるカフェで少食のくせに二個もケーキを食べて倒れられたご令嬢に比べたら、確かに食事の量は多いかもしれませんが」
「な、なぜそのことを……!」
グレースが慌てている。いい気味だ。ふふんっ、ルブラン家の情報収集能力を馬鹿にするなよ。
「まあ、そんなことよりも、今日二人を呼んだのは新しい聖女を紹介しようと思ってな。彼女が聖女のローズ・デボア伯爵令嬢だ」
陛下が話題を変えて、聖女を紹介してくれた。
やっぱりこのピンク頭か。私はまじまじと聖女を見つめた。
「ローズ・デボアと申します」
ピンク頭は私の視線を無視して、アドに向かってカーテシーをした。
「アドルフです。どうぞよろしく」
アドも如才なく頭を下げる。
「そして、彼女が私の婚約者のフランソワーズ・ルブラン公爵令嬢だ」
「フランソワーズ・ルブランです」
私もアドの紹介に合わせ、カーテシーをした。
「ローズ・デボアです」
ローズは私に頭を下げただけだった。
おいおい、公爵令嬢がカーテシーしたんだからお前も返せよ。私は顔をしかめる。
このピンク頭、孤児院出身で礼儀作法ができていないのかもしれないが、今のは絶対にわざとだ。
何でわざわざこんな奴のためにここに来ないといけないのだ。今はクラスメイトと懇親を深める大切な時なのに。私は少しムッとして、もう帰りたくなった。
「まあ、まだまだ、ローズ嬢は貴族社会に慣れていない面が多々あると思うのだ。そこでお前たち三人に聖女のことを頼もうと思って、今日は忙しいところに集まってもらったのだ。三人共、聖女をよろしく頼むぞ」
「かしこまりました」
私たちは頷いた。
「クラスはグレース嬢と同じAクラスだったか。グレース嬢、くれぐれもよろしく頼むぞ」
「はい、お任せ下さい」
陛下のお願いにグレースが頭を下げた。
「アドルフ様は何クラスなのですか?」
王子をいきなり名前呼びかよ、と私は思わないでもなかったが、平民たちにフラン呼びを強制しようとしている手前、何も言えない。でも、なんか少しムカつく。
「私はAクラスだ」
「あ、じゃあ、私と一緒ですね!」
嬉しそうにローズが言う。学年が違うっていうのに。でも、同じクラス名で嬉しいのだそうだ。
「そういえば、フランソワーズ嬢は何クラスでしたかしら」
白々しくグレースが聞いてくる。
「私はEクラスよ」
「えっ、そんなクラスあるんですか?」
「本当にね!」
聖女とグレースの二人は結託して馬鹿にしてきた。
「うむ……フランソワーズ嬢よ。今度は何をしたのだ? この前は宮殿の中で剣術の稽古をして怪我をしたと聞いて心配したのだが」
陛下までが眉尻を下げて聞いてこられた。学園は皆平等で、何クラスでも関係ないと思うんですけど……
「陛下、私はせっかく色んな優秀な方々が集っているこの学園なのに、もったいないことはしたくないのです。学園は皆平等と建前上は言いますが、Aクラスは代々子爵以上の貴族の子弟しかおりません。貴族だけで固まるなんて、卒業したら自動的にそうなってしまいます。でも、始祖のお考えになられた『学園は皆平等である』というお考えは、学園にいる間は様々な方と交流を持つことこそが、この国の今後の発展に繋がっていくということではないかと私は思ったのです」
「そうか、さすが公平を重んじるルブランの血よの。それでわざわざ一番下のEクラスにしたのか」
感心したように、陛下がおっしゃった。
いやまあ、そんな高尚な理由じゃないけど。入り込むなら一番下のEクラスが簡単で楽だと思っただけなんだけど。
「はい」
私はそんな考えはおくびにも出さずに頷いた。
「そうか。今後の国の発展のためを考えてくれているのか。そのような者が未来の王妃とは、この国もますます発展していくだろう。なあ、王妃よ」
「左様でございますね」
王妃は仕方なさそうに頷いた。よし、言質を取った。これがバレたら王妃様が色々文句を言ってきそうだと思ってたんだけど、陛下のお墨付きももらったし、何も言えないだろう。
「フランソワーズ嬢よ。これからもよろしく頼むぞ」
「はい。精一杯努めます」
うーん、ピンク頭たちにムカついたから言っただけなのに、陛下にここまで褒められるとは思っていなかった。私は前世でできなかった青春を今楽しむためにやっているだけなのに……
悔しそうにこちらを見ているピンク頭とグレースに、ざまあみろと私は心中で思ったのだった。
そこで予鈴がなったので、私たちは陛下への挨拶もそこそこに部屋を後にした。
「はい、これ」
別れ際に、アドが紙包みをくれた。
「えっ?」
「お腹空いているだろう」
アドが笑って言った。包みを開けると、焼き菓子が入っていた。
「ありがとう。でも、アドの分は?」
「俺は少し食べたからいいよ」
そう言うと、アドは手を振って歩き去った。
「さすがアド、助かったわ」
私は慌てて食べて、すぐに教室に向かった。
でも、一年E組は遠い。嫌がらせか何か知らないが、本館から離れて別棟になっている。
必死に早歩きをしたが、私がクラスにたどり着いた時には、既に礼儀作法のフェリシー・ローランド先生が教壇に立っていた。
げっ! よりによってフェリシー!
「フランソワーズさん。何ですか。いきなり遅れてきて」
フェリシー先生の叱責が響く。先生は時間に厳しいのだ。昔、一秒遅れただけで一時間怒られた。
「申し訳ございません」
これ以上の怒りを買いたくないので、素直に謝る。
「遅れてきた罰として廊下に立っていなさい」
「えっ」
私は慌てた。そんな、陛下に呼ばれただけなのに、ご飯も満足に食べてないのに、立つの?
「先生。フランソワーズさんは殿下に呼ばれていたので、なにか重要なご用件があったのではないですか?」
オーレリアンが余計なことを言ってくれる。そりゃ、助けようとしてくれたのはわかるけど、殿下と知り合いというのは皆には忘れてほしいんだけど……
バレたら仲良くなれないかもしれないじゃない! もうバレバレのような気もするけど。陛下に呼ばれていたなんて皆に知れた日には絶対に引かれる。
「たとえ殿下の御用と言えども、授業時間を守るのは基本です。そのようなことで遅れるのは許されません」
オーレリアンの援護もむなしく、フェリシー先生は厳しかった。
「はい、わかりました」
私は大人しく外に立っていることにした。
先生に立たされたとなったら皆親近感を持ってくれるかもしれないし。
でも、次の瞬間、私の涙ぐましい努力はフェリシー先生の言葉でぶっ潰された。
「皆さん。この学園の規則は厳しいのです。たとえ、殿下の婚約者の公爵令嬢とはいえ、規則を破ったら罰せられるのは同じなのです」
皆その言葉に唖然として私のいる廊下を見る。
「えっ、フランって公爵令嬢だったんだ」
アルマンの驚いた声が聞こえてきた。アルマンはさっきの私とアドのやり取りを見ていなかったんだろう。
ああ、私の青春が……
私は今までの努力が水の泡と消え去ったのを知った。
せっかく今世こそは青春をエンジョイしようとしていたのに……
「皆さん。この学園は様々な権力から独立しています。たとえ国王陛下といえども干渉することはできないのです」
フェリシーは御高説を延々と述べてくれていた。
空きっ腹にこれはこたえる。アドにお菓子をもらえてよかった。でなかったら今頃死んでいる。
そう私が思った時だ。
「どうしたのだ、フランソワーズ嬢。こんなところで立っていて」
「えっ?」
私は驚いて目を見開いた。なんと、王宮に帰ったはずの国王夫妻が、学園長に案内されてこちらに歩いてこられた。
「フェリシー君。なぜフランソワーズ嬢が立っているんだね!?」
慌てて教室に入った学園長が、フェリシー先生に食って掛かる。
「いえ、学園長。フランソワーズ嬢が授業に遅れてきたので」
フェリシー先生が目を泳がせて言い訳する。
「それは済まなかった。ローランド男爵夫人。予鈴までフランソワーズ嬢を私が引き止めていたのだ。この教室がこんなに遠いとは知らなくてな。ここは私に免じてなんとかしてもらえないか」
「そ、そう言うことなら致し方ございません」
陛下に言われたら、フェリシー先生もそうとしか言えないだろう。
でも、さっきの先生のお話とは違うような気がするんだけど。
「フランソワーズ嬢。何をしているのです。さっさと席に着きなさい」
「えっ、でも先生。今、たとえ国王陛下でも学園内のことに干渉はできないって……」
「フェリシー君。君はそんなことを子供たちに言っているのかね?」
「いえ、あくまでそれは建前で……」
フェリシー先生はしどろもどろだ。
いつも私を虐めているからだ。いい気味だ。
「しかし、陛下はこのような所まで何をしにいらっしゃったのですか?」
「いやあ、フランソワーズ嬢が国のために色んな人と交流を持とうと、Eクラスに自ら進んで身をおいたと聞いての。それを見学に来たのだ」
私は国王陛下の言葉を聞いて固まってしまった。
終わった。もう絶対に終わった。そんなこと言っちゃダメだ。
皆、違うんだ。私は青春をエンジョイしたかったから、だから皆の中に入ったのに。
その陛下の言い方じゃ、自分の立場をよくするためにこのクラスに入ったみたいじゃない。
もう絶対にみんな仲良くしてくれない……
この日の授業はそれで終わりで、陛下たちは授業の途中まで見学してお帰りになった。フェリシー先生は珍しく優しくて、その点は良かったのだが……
「皆の者。フランソワーズ嬢をよろしく頼むぞ」
陛下は、全くありがたくない迷惑な言葉を残していかれたのだ。
私が今までしていた平民の女の子アピールが台無しになってしまったではないか!
放課後、私は必死に言い訳をしようとした。
「ノエル。これは理由があって」
「も、申し訳ありません。ルブラン公爵家のお方とは存じ上げず、失礼しました」
私の必死の言い訳にも、ノエルは体が引けていた。
「え、そんな」
「すみません。失礼します」
私はなお話しかけようとしたが、ノエルはそそくさと帰って行った。
「アルマン、ごめん」
「いや、わ、私こそ申し訳ありません。殿下の婚約者様とは露知らず、失礼しました」
そう言って、図太そうなアルマンまでもが去っていく。
他の平民のクラスメイトにも声を掛けようとしたが、皆私を避けるように帰って行った。
「ああもう、最悪じゃん!」
私は頭を抱えてしまった。
「まあまあ、フランソワーズ様。平民の反応なんてこんなものですよ」
オーレリアンが笑って慰めてくれた。
「オーレリアン、あなたね。私はこの学園で青春をエンジョイしようとして必死になっていたのよ! なのに、皆してそれを壊してくれて……」
「とは言え、陛下のあれは仕方がないでしょう。フェリシー先生にでも文句を言ってみます?」
「そんなの無理よ。十倍になって返ってくるわ」
オーレリアンめ。わかりきったことを聞くな。
私はどうしようかと悩んだ。このままだとまた中等部の時と同じだ。それは嫌だ。
そして思い出したのだ。そういえばメラニーが転生者であろうことを。
こうなったら、転生者の好みでメラニーに頼み込むしかない。
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