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王女の侍女はスカイバードで空を飛びました

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王宮に泊めてもらった翌朝、私はオウに呼び出さた。

そこには前クリスと訪問したエスター商会の会長がいた。

そして、何故かインダルの近隣のタール・トリポリ王国皇太子もいた。

「エスターは知っているな。その横のタール・トリポリ皇太子殿下も知っているよな」
「はい。同じクラスですから」
「タールもソニアは知っているな」
「見たことはあります」
オウは年上だからかタールにも敬語を使われていた。

「タールにはこのソニアとエスターをスカイバードでトリポリの首都まで連れて行って欲しい。あとはエスターがソニアをインダルまで連れて行ってくれる」
オウの言葉に私は驚いた。スカイバードは魔導大国ボフミエと技術大国マーマレードが共同で開発した魔道具というか、魔導飛行機で、5人の魔導師が発射台から成層圏までスカイバードを打ち上げて目的地まで飛ばす夢の乗り物だった。
当然まだ飛び出したところで値段は高く、トリポリまでおそらく1人で金貨50枚くらいの値段がするはずだった。

「そんなのに載せていただいて宜しいのですか」
私は驚いて聞いた。

「良くはないが無理矢理でも行く気だろう。丁度タールがトリポリに帰るのでそれに便乗させてもらおうと思ったのだ」
「それは良いと思いますが、その後の事はこちらはフォローできませんよ」
タールが言う。
「馬車を1台用立ててくれれば良い。後はエスターよろしく頼むよ」

「私はどのみちその辺りに仕入れに行こうと思っていましたから良いですよ」
「しかし、エスターさんにそこまでお世話になるわけには」
私が言うと

「じゃあ戦いが終わり、アルバートが帰ってくるまでおとなしくこの地に留まるのか」
「それは・・・・」
私はその言葉には頷けなかった。

「こんな事させたって知られたらクリスとアルバートに許して貰えそうにない」
オウが頭を抱えている。

「あのう、後でその二人に私が怒られることはないんでしょうね」
タールが心配そうに言う。

「それはない。なあ、ソニア」
「私のわがままなので、私が無理やり頼んだと言います」
「本当だろうな」
タールが私を見て信じ難そうに言った。

トリポリ王国は北方の国だ。国の規模はインダルよりも大きい。
ノルディンの属国のような感じの国で、ノルデインの皇太子殿下がボフミエの外務卿をやっている関係で最近はボフミエとのつながりも深いと聞いていた。

スカイバードのいち早い就航は、ボフミエの飢饉の時に真っ先に食料援助を申し出たからだと言われていた。一応筆頭魔導師様の覚えも目出度い国だ。
その皇太子にタメ口で話せるとはオウは文官の中でも地位が高いのだろう。

「それは俺も頼むぞ。ソニア。お前を信頼して、やってもらうんだからな。後で俺とクリスの間がおかしくなったら絶対に仲を橋渡ししてくれよ」
「はい。私が生きていたらやります」
「何言ってんだよ。絶対に生きていろよ。お前が死んだら俺は絶対にクリスに許してもらえ亡くなるからな」
「判りました」
私が慌てて頷いた。ここで下手なこと言うと本当に帰れなくなってしまう。

「エスターもよろしく頼む」
「判りました。尽力いたします」
「本当にすいません。よろしくお願いいたします」
私は皆に頭を下げた。



そこから馬車でスカイバードの発射場に移動した。
「エスターさん。本当にすいません。無理言って」
「なあに、本当に仕入れに行くついでですから気にしなくていいですよ。それにあなた方がうまく行ったらうちを贔屓にしていただいたらそれでいいので」
「このご恩は忘れません」
「まあ、それは無事に着いてから言って下さい」
エスターが笑って言ってくれた。本当に、オウにしてもタールにしてもエスターにしても感謝の言葉しか無かった。


湖の横の巨大なレールの付いた発射台には金色の鳥のような大きな機体が鎮座していた。
太陽の光を受けて光り輝いている。
これがボフミエ魔導国の誇るスカイバードだ。今は周辺諸国の同盟国から順番に飛び出していた。魔導コースにいる人間の多くがこの運行に関わるはずだった。

スカイバードの中には1人用の座席が左右に通路を挟んで並んでいた。20席くらいの座席があった。

私は初めて空飛ぶ乗り物に乗るので期待と不安で一杯だった。

飛ぶ時の加速がすごいそうで、オウは昔気絶したそうだ。今はそこまで酷くないそうだが。
果たして無事に飛び出せるのだろうか。今は発射の時の失敗は無いと聞いていたが、そんなの実際に飛んでみないと判らない。


「皆様。当機はまもなく発射いたします。シートペルトの着用をお願いいたします」
操縦士の声が響いた。

私は目を瞑った。心のなかで祈る。

「5,4,3,2,1、発射」
機体が軽く揺れた。

そして、あっという間に空の上にいたのだった。

私の命がけの帰国が、あんなことになるなんて、この時は思いもしなかったのだ。
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